見出し画像

ストレンジ通りからの帰還

いつもと違う帰り道 不意に見付けた曲がり角の先
小さな変化と近道を 期待して踏み込んだはずだった

幅の狭い路地の両脇には 古い平屋が並び
家それぞれの頼りない 玄関灯りを辿り歩く
咳払い ナイター中継 会話は聞こえない
人らしき気配だけが 無愛想に漂っている

言葉に出来ない 仄かな心地悪さ
此処に長くは 留まれない
闇に囲まれた 臆病なよそ者


微かな煙草の煙の匂いで 家先に立つ人物に気が付く
ランニングシャツにサンダルとトランクス 表情は黒く塗り潰されて
だけどオレンジ色の小さな火が 監視カメラの様に こちらを向いた
通り過ぎたあと 静かに早歩き 背骨の辺りが落ち着かない

言葉に出来ない 仄かな心地悪さ
此処に長くは 留まれない
闇に囲まれた 臆病なよそ者
愚かなるよそ者

手足は脳味噌を裏切って 喉はカラカラ
ミステリーとホラーの斑模様を彷徨って


いつもと違う角度から 不意に飛び出た馴染みのある道
息子が何か駄々を捏ねる声が 家の外まで聞こえてくる 

いつもと違う帰り道 想像力に殺されかけた夜道
月は砂漠の国の剣のように ほっそり欠けて尖っていた

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?