日記「卵焼きに宿る記憶」

 卵焼き。

 1番好きな料理。
 食べ物には記憶が鮮明に宿っている。
 お弁当に入っていた、醤油の少し入った卵焼き。冷えた白飯とよく合う。
 中学高校の6年間、毎日祖母が作ってくれていた。老いた祖母にとって早朝に起き、毎日お弁当を作るなんて本当に大変だったと思う。
 日の昇らない時間に起き、台所に立つ。暑い日も寒い日も。学校から帰って弁当箱を出し忘れて「もう作らへんぞ!」とめちゃくちゃ怒られた次の日も、きちんと弁当を作ってくれた。休むことなく毎日毎日。その光景を想像すると涙が出る。
 ばあちゃんの苦労の上で私の空腹と健康は満たされていた。
 当たり前のようにそれを食べていた日々。
 そしてもう2度と食べることが出来ない今。
 真似して作ってもあの味にならない。
 そして年々あの味が記憶の中で薄らいでいく。
 忘れたくないのに、忘れていく。
 もっと感謝をすべきだったし、感謝を言葉にすべきだったと思う。
 今更だけど、ばあちゃんありがとう。未だにばあちゃんみたいに美味いの作られへんわ。

 今日も淡々と自分のために卵焼きを作る。
 

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