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安部公房にドはまりした私による初心者向け6選

※この記事は数年前に書いてはてなブログに掲載した記事のリライトです。

 安部公房をご存じだろうか。第一次世界大戦の後に生まれた数学の大天才で、とにかくめちゃくちゃ変な小説ばかり書いた世界的作家だ。戯曲も書くし写真も撮る。シュルレアリストらしい。キリコの絵のように麻薬的で、ハマると抜け出せない。私は高校の時にたまたま現代文の教科書に載っていた「棒」という謎の短い話にくぎ付けになり、最終的には高校在学中に安部公房全集を読み切ってしまった。分厚いのが30巻あったのに、自分のことながら気持ち悪い。今回は安部公房を読んだことない人向けに、特に面白かったものを6個紹介してみようと思います!

1.壁

やっぱりまずはこれ。短めで読みやすいしエッセンスが詰まっている。
ある朝男が目覚めると、彼の名前を失ってしまったことに気づく。名前を失って社会から疎外され、最終的に男は砂漠で壁へと変形していく…。
は?と思ったらとりあえず読んでみてほしい。シュルレアリストとしての安部公房に出会える。全体的に、とりあえず人間は変形するのでその心構えを。

2.他人の顔

題材のキャッチ―さで砂の女にちょっと勝った。
事故で顔がぐちゃぐちゃになった男が、妻の愛を取り戻すために「他人の顔」を借りて妻を誘惑しようとするが…。
「顔」というものに対する人間の執着を、非感情的に書いた作品。表情の本当の平均は無表情ではなく微笑だとか、能面についての記述とか、ディティールもたいへん興味深い。「他人の顔マスク」を作るところの一つ一つの描写はどうしたんだと心配になるくらい細かい。やっぱり安部公房が医学部だから?ちなみにこの作品は映画化していて、武満徹の作曲した「ワルツ」というテーマ曲が一時期頭から離れませんでした。。。

3.砂の女

昆虫採集のために砂丘へ出かけた男は、砂に飲み込まれて砂の下にある穴の集落での生活を余儀なくされる。なんとか脱出を試みるが砂は動き、成功しない。仕方なく一緒に暮らし始めた女との関係性は徐々に変化していった。ある日、男は集落を脱出する方法を思いつく…。
彼の作品ではこれが一番有名なのかな。大江健三郎がノーベル文学賞を取ったが、安部公房が生きていたら本当は彼がこの作品で取るはずだった、とどこかに書いてあったような。
まずは読んで、この話の恐ろしさを味わってぞっとしてほしい。私は、本当に怖い結末だと思ったけど、この本をすすめて読んでくれた友達は「人生みんなこれ。辛すぎ」と言っていた。読む人によってちょっとずつ感想が変わるのかな。これも映画化しています…。

4.箱男

段ボールに埋まって、目だけ出して外を見つめて暮らす「箱男」の話。
きちがい小説。冷静に絵として怖すぎる。でも面白い。これは私も理解してないから、もう一度読み直さねばと思っている。ビジュアルがやばすぎるからなのか、これも映画化している(見たことはない)。手法的にも斬新で、様々な場面をコラージュみたいに切り貼りする書き方をしている。正直クソ読みづらかった。面白さは保証しますが。

5.けものたちは故郷をめざす

日本人の男の子がロシアのあたりから何とかして日本に帰ろうとする話。どうしても帰れないんだけどね。
 これはめちゃくちゃ怖い。安部公房は満州で育ったので砂ばっかりの光景に懐かしさを感じるのかもしれないが、生まれたときから人に飼いならされた田んぼにや都市に囲まれていた私からすると、方角もろくに分からず水や食料も十分にない中で、狂った男と徒歩で砂漠を横断せねばならないシーンなどはおしっこもれそうになるほど怖いし切ない。人間の限界状態が色々見られて興味深いが。人間の動物的側面、つまり「けもの」としての帰巣本能のようなものを描いた作品。良いッ…。

6.棒になった男

子連れの男がデパートの屋上から眼下を見下ろしていたら、そのまま落ちて棒になってしまった!そして現れる謎の「先生」と生徒たち。男に下される裁判の結果とは。
 これは演劇になっているので、その台本だと思ってもらえればいい。『棒になった男』は、私が一番最初に出会った安部公房作品だ。男の生前の性質と、「棒」という道具の性質を見事につなげて書いている。私が安部公房にハマるきっかけとなった作品。うますぎる。

疲れたときにクスリっぽく読んでみてください

 私は、安部公房は人間に共通してある動物的側面を重視した作家であり、だからこそ世界中で翻訳されてなお高い評価を受けているのだと思う。扱った題材も、都市、人間の疎外など、人類に共通する問題だった。
 この記事を読んで、一人でも多くの人が安部公房の世界に触れて、新しい感覚を得てもらえたらいいなと思っている。安部公房にハマって精神が不安定になった私が、次に米原万里の作品にハマり出すのはまた別の話。

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