星を描くものたちへ 第一話

あらすじ 
椎名は都内IT企業で働く29歳女性。就活時は好きな漫画を仕事にしようと出版社を志望したが、落ち続けたため夢を諦め今の仕事に邁進し、1人で幸せに過ごしてきた。しかしある日とある理由で社内プロジェクトから外れた椎名は、町中で大泣きしているマンガ家志望の大学生喜陸と出会う。互いに心引き裂かれた状態+酔っ払っていたため2人は一夜を共にしてしまう。好きでもない男とセックスした椎名は罪悪感から言い訳として喜陸が漫画家志望だったことを思い出し、咄嗟に漫画編集者として嘘をつき、喜陸のマンガのサポートをし、デビューすることを約束する。
 

説明補足:
椎名栞来(しいな しおり)・・・都内のIT企業で働く29歳女性。有名理系大学の院を卒業後、社内では開発部に所属し、プログラマーとして勤務。
上司からの期待値も高く、同僚からも慕われているが、プライベートになると一転し友達もおらず、唯一の楽しみは自分磨き(美容)と大好きなマンガを読むこと。本当は出版社に就職しマンガ編集者になりたかったが、最終面接で全落ちだったため、諦めていて今の仕事に邁進している。
度々実母からは、「いい人いないの?」と言われているが、今まで彼氏も出来た事もなければ恋もしたこともない。自分磨きはあくまで自分が楽しむためにやっており、異性意識をしているわけではないが、外見の派手さ(化粧をしてもしなくても彫りが深い顔)から多少女性から疎まれたり、異性からのアプローチも多い。ただアプローチをかけるほとんどが、仕事を辞めて欲しいと思っており栞来に対して家事を求めるまたは、共働きでも女が家事をすべきという人のため辟易としている。ちなみに栞来のパートナーに求める条件は料理と掃除も出来る人。(仕事はしなくてもいい)栞来自身料理をすることは好きなほうだが、生理の時にするのは嫌いだし、たまに人が作ったご飯を食べたい時もある。また掃除に関しては床に飲みかけのペットボトルが散らかっていても全く問題がないためあまり綺麗な方ではないので定期的に掃除してくれる人が望みである。ただそれはパートナーではなく、家政婦であると理解しているのでわざわざ好いた人を作ろうとは思わない。
 
橋詰喜陸(はしづめ きろく)・・・マンガ家志望の貧乏美大生青年。年は20歳。人と話す時、ちゃんと目を合わせることが出来ないため、いつもどこかあさって方向を向いている。リアルな対人コミュニケーションが苦手で人付き合いを疎かにした傾向故、シナリオ(ストーリー)が全く面白くない。ただ画力は高く、人を惹きつける才能を持っている。
貧乏な理由は純粋な性格から人をすぐ信用してしまい結果騙されているからである。感情の起伏はあまりなく、話す時はゆっくりで句読点がつくことが多いが、酔っ払うと彼なりの早口になる。(普通の人からしたらそこまで早くない)料理と掃除が得意。


以下本文。

 点と点が繋がって線になるように、星と星が繋がれば星座になる。
 1つの物事の点は小さく、自分に関係が無くても、線で繋がれてしまえばまるで自分に関わりがある大きな物事となってしまう。
 そしていつもその線を繋ぐのは自分ではなく、他者である。1つの星が真実か嘘かもどうだっていい。噂や憶測という線があれば、繋いで大きな星座になってしまうのだから。
 

「椎名さん、ちょっといいですか?」
 椎名が2台のPC画面モニターをにらめっこしながらプログラムソースコードを作っている最中、隣の部署の広瀬が椎名の席の横に来て話しかけてきた。
 広瀬のことを知らない部署の人間からしたら、社内でも指折りの可愛い人という存在かも知れないが、就業中に何度も30分以上の離席をし、依頼確認のチャットやメールを送っても連絡が返ってこないことは日常茶飯事な彼女の行動には椎名は辟易としていた。そのためそんな広瀬からチャットではなく、対面の相談はあまりいい予感がしなかった。
「うん?どうした?何か依頼でわからないことあった?」
「えーと、そのこれ・・・」
 見せてきたPC画面には先月広瀬を通して依頼された仕事の内容が記載されていた。
 椎名の仕事は企業から依頼されたソフトウェア要望を元にソースコードを組み、アプリ開発等を行っている、通称開発部。一方、広瀬が所属する隣の部署、開発企画課は、実際にお客様から作ってほしいものの詳細をヒアリングし、椎名の部署である開発部に依頼をする。
 そのため開発部と開発企画部は密接な関係があり、互いに案件を共有していた。
 そして今現在椎名は広瀬から依頼された仕事を受けており、そのPCには依頼事項が記載されているのだが、赤文字で「修正」という2文字が入っている。
「修正入ったの?」
「はいそれなんですけど~、この前お客さんに言ったらぁ、修正入って、でわたし言うの忘れてて、でもお客さん明日待っているじゃないですか?だから今言わないとなと思って今言いました」
 お客さんじゃなくてお客様と言いたかったが、まあ細かいところは、今はいい。修正?聞いていないし、忘れていた?もっとおかしい。悶々と頭を抱えながら、しばしフリーズしていると
「はい、なので修正よろしくお願いします。締め切り明日です」
と言って、去って行こうとしたため呼び止めた。すると「どうして?」と呼び止められる理由がわからないようできょとんとつぶらな瞳が椎名の瞳をのぞく。
「ちょっと待って、え?修正?先月の時点で入っていたってことだよね?ならなんでもっと前に言わなかったの?」
 論点がそこではないのはわかっているのだが、忘れていたという事実に謝罪がないためツッコまざる得ない。でも広瀬はその言葉を叱りだと思ったらしく反論してくる。
「だから今言ったじゃないですか!言うの忘れてたって。けど今思い出したし、締め切り明日だから言ったんです。それにお客さんにはまだ大丈夫じゃないですか」
「確かにお客様の締め切りは明日かもしれないけど、プログラム組むのだって作って終わりじゃないの。作るのに時間掛かるし、それにそれが問題無いか確認する人達もいるの。実質早くても一週間かかるのよ。それが明日には見せなきゃいけないってちょっとあり得ないし、無理だから先方にはあなたから出来ないと連絡して頂戴」 
「それってひどくないですか?この仕事、開発部はできないってことですか?依頼受けたのに。ひどい!」
 その後もひどいと2回ほど椎名に言い残し、広瀬は自分の居室に帰っていった。
 

 帰って行ったあと、椎名の周りには静けさが残る。リアル椎名に対して、励ましも慰めも無いが、チームチャットでは「おつかれ」や「また広瀬かー、あいつやばいな」と慰めチャットが入った。
 「居室で大声で話してすいません」とチャットに打ったあと、椎名は小さく溜息をついた。開発部の席は、三方をついたてで囲まれているお洒落な個室席のような席のため、椎名個人を見るには席を立って近くに行かないといけないのだが、身を隠したくて静かにしていた。
 


 午前の広瀬事件の後、特に広瀬から連絡無いのでそのまま無視していた午後。椎名の上司である和田課長から個人チャットで連絡が入った。

Wada 14:30[今から会議室302来られる?ちょっと話したいことあって]

 すぐに「問題無いです。今から伺います」と返し、椎名は会議室へ移動する。
 会議室に入ると、円形に囲まれた机の向こうに和田課長が座っていて、椎名は手前の席に座るように促される。座ってすぐに和田課長は口を開いた。
「前言っていた、あのマンガの企画のプロジェクトだが椎名を参加させるのは無理になった」
 思わずえっと声が漏れる。
 マンガの企画とは、大手出版社がうちの会社と共同開発で縦読みのウェブマンガアプリを作っていきたいということが発端となり、社内プロジェクトとして所属部署問わずに企画から設計まで行うというものだった。マンガ好きな椎名は、この話が社内広報で出たすぐに和田課長に連絡し、プロジェクトの参加意思を求め、先日プロジェクトの面接を受けてほぼほぼ合格だろうと言われていたばかりだった。
 それなのに突然だめになるとはどういうことなのか頭が回らない。
「どうしてですか?この前課長と面談したときにほぼほぼ合格だろうとおっしゃっていたのに」
 席を立ち、机から身を乗り出して和田課長に詰め寄った。しかし返ってきた言葉は拍子抜けもいいところだった。
「椎名、お前結婚していないだろう?」
「・・・・それと何か関係が?」
「それに彼氏もいないだろ?」
「・・・・あの、それはセクハラでは?」
 和田課長は図星かのように少し目線を椎名から逸らした。
 椎名はゆっくりと前傾姿勢の体勢から戻して背筋を伸ばして座り直すと、まっすぐに和田課長を見つめた。
「それは悪い聞き方をした。けど、今回はこう何というか、あのアプリで扱う題材は家族がテーマだっただろう。そういう1人で生きていけますっていう人じゃ無くて、守ってくれる家がある人のほうがいいんじゃないかということになった。だから、すまんが椎名お前はプロジェクトには入れられない」
 時代錯誤もいいところだと思ったが、無理と言われたものに突っ込めるほど傲慢さもやる気も起きなかった。ただ呆然と今の結果に、受け止めることもできなかった。

「じゃあ私の代わりに誰になったのですか?」
「あーそれだけど、開発企画の広瀬さんにしたよ。今度結婚するようだし、気合いあるみたいだしさ」
 和田課長の話している言葉がますます遠く聞こえた。
「広瀬さんですか?え?でも、今私が依頼受けているのも伝達がうまいこと言っていなくて困っているのですが」
「あー午前中だろ?さっき向こうのリーダーから聞いた。それ椎名上手いことやってくれないか?コードチェックはとりあえずパスでいいから修正いれたものだけ作って先方に送ってくれたらいいしチェックは正式リリースまでにやればいいから。よろしく頼むよ!」
 和田課長はそう言い残して足早に会議室を出て行った。
 何ふざけたことを言っているのだろうと、思った。胸の中を勝手にかき回されて気持ちが悪い。てか広瀬が結婚したか知らないが、まともに仕事できないやつがどうして社内のプロジェクトに関われるんだとイライラが募る。
 どうして自分は頑張っているはずなのに、頑張っているその瞬間に目の前で落とされるのだろうと思った。しかもその理由が結婚しているかとかあり得ない。まだ実力不足でとかで落とされた方が数百倍ましだった。


 その後、席に戻り、スリープしていたPCを開けると1件の個人チャットが入っていた。
Hirose 14:35[修正お願いしますね!締め切りは明日です!あと、さっきめっちゃ怖くてパワハラかと思ったんですよ。気をつけてくださいね]
 椎名はそのチャットメッセージを削除ボタンで消した。
 
 
 あれから気合いと執念で行った作業で22時になって漸く作業が終わり会社を出ることが出来た。ただ他の仕事は蹴ってしまったので、また明日も残業コースであることには変わりなく、ただむなしさだけが募った。その思いから1人で家に帰る気にもなれず、何となく空いている店に入りお酒をたらふく飲んで歌舞伎町をふらふらと彷徨って街を歩いた。
 家に帰りたくない。帰ったらまた朝が来る。それはいやだ。酔っ払いの思考停止な考え方で堂々巡りしながら、街を歩く。
 案内放送からキャッチは違法という放送が流れているにも関わらず、椎名の周りにもさっきからキャッチに呼び止められる。
 そのちぐはぐな状況に素面なら面白くもなんとも無いのに、酔っ払った今は大笑いしてしまうくらい酔いが全身に回ってきたころ、東横のゴジラ前で大泣きしている男性を見つけた。
 周りにいる可愛い髪をした若い女の子たちは、その人の側から離れて見ない振りをしていた。その様子に椎名は面白いと思い、近寄ってしゃがみ込んで話しかけた。
「あの、大丈夫ですか?どうして泣いているのですか?」
 酔っ払って絡んでくる人になっている自覚はあるのだが、行動を制限できる機能はアルコールに溶かされてしまったので、自ら止めることはできない。
 それに椎名も最初はすぐに拒否されるかなと思っていたが、椎名が来てもなお男性は泣き続けているため、逆に立ち去ろうにも立ち去れなくなっていた。もじゃもじゃの猫っ毛の黒髪でその人自身の顔もどういう人なのかもがよくわからないが、地面に落ちる涙の粒とその痕が長時間ここにいたことを示していた。
 その姿をみて、唐突に急に椎名にも悲しさが巻き上がってきた。今日の椎名も目の前の男性と同じように泣きたかった。
 仕事のミスと指摘したらパワハラだと言われたこと。
 結婚していないことが原因で仕事を失ったこと。
 自分のミスではないはずなのに、跳ね返ってきた自分のミスかもわからないものに不満も言いたかったし、泣きたかった。街の中心で涙を流せる彼に椎名もなりたいと同じように思った。
 もう一度今度は自分の想いを打ち付けた。
「あのさ、私も泣きたいんだ、今日。・・・・だけど君が泣いているから君が泣き止んだら泣こうかと思って待ってる」
と言ったあと、椎名は男性の横に腰掛けた。すると、男性は、一枚の紙を椎名に見せてきた。
 そういえばさっきから椎名と男性の地面には散らばっている紙がいくつかあった。散らばっている紙には黒色でコマ割りされた絵、マンガが載っていた。
 見せられたマンガの中に描かれていたのは、「女性」で、今の男性と同じように、街の中で泣いている。女性の周りにはネオンのビル街が書き込まれていて、女性が泣いている声が今にも聞こえそうだった。周りのビルの明るさと女性の暗さが対照的に描かれていて椎名はその絵を暫く見つめていた。
 たまにいく絵画展でもこんなにじっと見つけたことはなかったのに。
「すごいね、マンガ。引き込まれちゃう」
 椎名がぽつりと感想をこぼすと、男性は泣くのをやめ顔を上げた。もじゃもじゃ髪の向こうから光る目が椎名をいぶかしむ目でのぞいている。
「・・・・泣かなくて済みましたか?」
「え?」
「泣きたいって、泣き止むのを待っているって言ってたけど、泣かないから。泣かなくて済みましたか?」
 椎名は首を縦に振った。待っていると言ったのは何となくの詭弁であったが、男性がその言葉を嘘と思わず、今の椎名の言葉として見てくれていることが嬉しかった。
「泣かなくて済んだ。ありがとう。君のマンガ面白いよ。大好き」
 と言ったあと男性に抱きついた。男性の身体が固くなるのが全身から伝わる。でも変わらず抱きしめた。言葉では伝えられない、伝えられるほどの言葉を知らない。目の前の彼なら絵で伝えるのだろう。でも椎名にはできないから、こうやって抱きしめて今の気持ちを伝えた。
「・・・ありがとうございます」
 と男性は言うと、今度は彼の手が椎名の身体をゆっくりと抱きしめた。椎名がすっぽりと埋まって大きいことがわかる。
 顔を上げようとしたが、暗くて彼の顔は見えない。
「・・・・どうして泣いてたの?」
 もう一度椎名は彼に聞いてみた。
 彼の身体がまた、固くなる。その身体を椎名はゆっくりと撫でた。
「・・・・僕マンガ家志望で、それで今日出版社にマンガ見せに行ったけど、見せたら面白くないって言われて・・・・。それで、色々あって嫌になって泣きたくなって。それだけです・・・・」
 そんな理由かと思ったが、泣きたくなる理由も原因も人それぞれだ。男性が自分のことを話したのに話さないのもと思って椎名も今日のことを話した。
「そうなんだね・・・・、私も会社で色々あって、パワハラとか、結婚していないやつは仕事渡せないとかで、泣きたくなった。でも君のマンガは面白かったから、涙止んだ」
「・・・・ありがとうございます」
 沈黙が続く。でもいつまでもここに居るわけにはいかない。でも家には帰りたくないし、何かアクションを起こさなければと顔を上げると、彼と目が合った。
 椎名は彼の耳に自分の唇を近づけて言った。
「泣いたら眠くならない?ならどこか休める場所行こう?」
 こんなくさい台詞、どこのマンガで学んだことだろうかと思いながらも、彼の同意を確かめず彼の手を引っ張ってその場をあとにした。
 
 
 次の日、起きた瞬間から椎名は今の状態を瞬時に理解していた。
 酒はとうに抜けており、今の自分が素面であることもわかる。そして酒の記憶喪失はしないため、昨日の自分がどうしたかも理解している。
 ベッドに自分ともう1人、昨夜東横で泣いていた髪の毛もじゃもじゃの男。服がドアのあたりからここまで点々と散らばり、使用済みであるコンドームがゴミ箱に捨てられていた。
 椎名に残った現実は、好きでも無い、名前も知らない、街で会った男に泣きたいと甘え、セックスをしたという事実とその男が隣で寝ているという事実。2つの事柄は変えられない出来事で、事実であることに椎名の心には罪悪感という3文字がのし掛かった。
 もう一度横目で彼を見てみる。どう見ても椎名より、肌つやがあって若い気がする。(いくつだこの子?もしかして未成年じゃないよね?)と昨日とは違った意味で頭を抱えながら、うーと考え寝返りをうつと、目をぱちっと開けた彼がこちらを凝視した。
「うわあああ」
 椎名は驚いて後ろに下がった。下がったせいでベッドから落ちそうになる椎名を彼は素早く起き上がって、腰を支え、もう一度ベッドに座らせてくれた。
 沈黙が続く。その空気を割るように、彼はベッドの上で土下座をした。
「ご、ごめ、んな、さい」
 どちらかと言えば先に椎名のほうが謝るべきなのだが、彼が裸で土下座する姿に驚いて声が出ない。
「あ、あの、ぼ、・・・ぼく、そのせ、っせっくす、・・・した、のは、覚え、て、いて、でもその言動は覚えて居なくてあなたに迷惑をかけてごめんなさい」
「いや、違う違う。私が連れてきてというか、その昨日のことどこまで覚えてる感じかな?」
 椎名も同じく裸で彼に向き合って、正座をして質問を投げかける。
「昨日は、色々、あ、あって酔ってて、・・・気が、つ、いたら、ここ、に、い、て・・」
 ゆっくりと言葉に詰まりながらおどおどした話し方にさらに罪悪感という文字が突き刺さる。それに迷惑と言っても昨日同意も確かめずにホテルに連れてきたのは椎名のほうだ。責められるのは椎名のほうで彼は謝る必要は全く無いのである。
 ただ彼は昨日の泣いた出来事の始終を昨日の椎名と同じく酔っていてどうやら全て覚えていないようだった。
 
 その時、ふと悪いことを思った。
 嘘付けるかも。

「あのね、昨日泣いている君を見かけて思わず立ち寄ったらマンガが散らばっていたからそれを読んだの。ちなみに私マンガ編集者なんだけど、そのことを伝えたら見ている私に君は、このマンガ面白いか?って聞いてきたの」

 これは掛けだ。
 ばれたら終わりの掛けだ。
 自分の罪悪感のために、酔いに任せて昨日泣きたかったと彼に甘え、セックスをした自分の恥ずかしさを消したかった。それを今昨日見たマンガに、自分も好きなマンガに変えようとしている。

「それ見て私面白いって思ったから面白いよって君に言ったら、君はあなたの出版社でマンガ家としてデビューさせてほしいといったのね。出来なくてもサポートしてくれないかって言ってきたの」

 そんなこと言っていない。
 彼はただ椎名をただ抱きしめてくれただけだ。

「最初は断ったけど、何度も君が言うから身体払うならでってなって今この状況なの」

 彼の顔が青くなっている。
 最低だ、私。と思いながらも口からスラスラとでてくるまやかしの言葉は怖いくらいに点と点を線で結ぶ。

「でも、私も昨日酔っててそんな普段じゃ絶対しないことをやったから、君の事をそのどうこうする気はなくて。
 ・・・・君のマンガは面白かったし、だからお詫びじゃないけど、これからサポートするから、一緒にデビューまで頑張らない?」

 人って自分の保身のためなら何だって線を引けるのだと椎名は目の前の彼の絶望と困惑の顔を見て、自分自身を最低と思った。

#創作大賞2024 #漫画原作部門 #女性マンガ

星を描くものたちへ 第二話|ななめぎ (note.com)

星を描くものたちへ 第三話|ななめぎ (note.com)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?