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ファイルメーカー!

 2016年1月1日にめでたくアメリカで刺繍屋を始めた私たち。起業といってもオーナーチェンジという形で買い取った会社は、お客さんからみると、毎日の業務も、起業前と変わらない。ところが、私たちは経営は力いっぱいシロウト、刺繍も趣味でやっていた程度、そして目の青いお客さんと会話するのもしどろもどろの私。会社を「正常に」「滞りなく」「ミスなく」稼働させるのが本当に大変だった。

 まず困ったのは、キャビネットの数、カズ、かず。狭い事務所にはところ狭しとキャビネットがビルのようにそびえて、その中にはお客さん毎に刺繍データの概要、糸番号、針数など、刺繍や請求書作成にはかかせない大事なデータが【紙】で保存されていた。大事なデータが書いてある紙=なくしてはいけない紙だけど、刺繍をするときに必要だったり、請求書作成に必要だったりするので、社内のあちらこちらに旅をする。旅を済ませた後、誰かが責任をもってキャビネットの同じフォルダーに戻しくれればよいのだけれど、ここはアメリカ。そして零細企業。そんなきちんとしたスタッフはいない。そのため、紛失は日常であり、再オーダーが入ると、刺繍データのその”紙”を探すのだけでも30分以上はかかる場合がよくある。それでも見つからないと、社員全員で探す。見つかるまで、探す。

 そんな古典的な会社を買ってしまった私たちはもちろん、データベースでファイルを管理できないかと考えた。多少なりともITの知識がある私は今をときめく(当時は。そしてIT浦島太郎の私。)PHPとSQLServerを使って開発しようと考えた…けど、挫折。仕事をしながら、たった一人で、一からのシステム開発は気力も、体力も持たない。ITベンダーを雇うにも、お金がない。
 そこで採用したのがファイルメーカーだった。謳い文句としてはコーディング不要で簡単にデータベースとUIを作成できる。…まぁ、最終的な感想としては、コーディング不要は言い過ぎだと思うけれど、スタートアップにいくつか簡単なテンプレートがあって、マニュアルを片手に何とかUIとデータベースを作ることができた。管理するのは顧客マスタ、刺繍データマスタ、糸マスタ、オーダーのトランザクションと経理ソフトにJASONで送信して請求書を送る機能、オーダーの確認のためのレポートも必須だ。ところが、いくらITの経験があるといっても、一人で、しかもなれないDBを使ってのシステム構築は大きなプレッシャーだった。日本のコンサルティング会社(ライジングサンシステムコンサルティング代表の岩佐さんにはすごくお世話になった。(https://risingsun-system.biz/)TeamViewerというリモートツールで日本からアメリカの弊社のシステム作りをバックアップしてくれた。

あれからちょろちょろとできる範囲で機能を足していき、今ではずいぶんと充実したシステムができた。特に、2020年夏にステージIIIの乳がんになり、抗がん剤治療の副作用で思うように仕事ができないときに、やれる範囲で開発したものの中で、UPS(アメリカの宅急便会社)のシステムと連携して、弊社のソフトウェアからクリック一つで送付伝票を作成。人為的ミスを防ぐためにバーコードリーダーも導入した。1つの注文で複数の送付先に簡単に送付できるようになったので、コロナ下の中で、自宅にてリモートで働く社員に会社のロゴを刺繍してクリスマスにプレゼントする企業さんに大いに喜んでもらえた。

癌になって、できないことが増えた一方、じっくりと腰をすえて、できることもあった。そしてもちろん、今ではキャビネットはほとんどなくなり、書類を探すこともなくなったとさ。

参考:
ファイルメーカー:Claris International Inc (日本語) 
ライジングサン システムコンサルティング:迷える子羊だった私に手を差し伸べてくれたシステムコンサルティング。ファイルメーカー専門。
Amazon AWS:いわずと知れたアマゾン。AWSのおかげで安価で安全にサーバーをセットアップできた。
Team Viewer:無料(制限あり)で簡単にできるリモートアクセスツール。


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