被災家屋に降りかかる公費解体と固定資産税のわな
NHKの報道(2024年5月1日)によれば、能登半島地震で「半壊」や「全壊」となり、全額公費で解体される家屋は石川県で約2万2千棟と想定され、これまでに着手された公費解体は1%程度とのことです。
公費解体が進まない理由の1つに、被災家屋が相続登記がされてないケースが考えられます。本記事では、相続登記の難しさについて例を挙げてできるだけかみ砕いて説明しましょう。(わかりやすくするため、詳細や例外は省略して書いていることをご了承ください。)
相続にかかる親族が多数いて困る場合とは
相続登記がされていないため、所有者を確定するのは大変です。
まずは、夫が死亡した時点での相続人
次に、本人(妻)が死亡した時点での相続人
相続人が亡くなっている場合は、その妻や子どもの特定
親族とはいえ全員と連絡が取れない場合もあるでしょう。そうなると、公費解体と固定資産税の支払いには困難が伴います。
公費解体
能登半島地震で家屋が半壊以上と判定されると、公費で解体される制度があります。大規模災害にのみ認められる制度なので、適用されるのはありがたいです。
ただし、手続きにはハードルがあります。必要とされる書類集めも大変ですが、一番の課題はすべての所有者の同意です。
すべての同意取得が難しい場合、環境省のマニュアルには公費解体の申請者がほかの相続人へ責任を持つ宣誓書方式が記載されています。(公費解体マニュアル4〜5ページ)
しかし、あくまで宣誓であり、窓口で受け付けた職員や公費解体した自治体が訴えられる可能性があるそうです。マニュアルがあるとは言え、被害の甚大な奥能登の自治体(輪島市、珠洲市、穴水町、能登町)で取扱いがばらつくのも仕方がないかもしれません。問題があることは報道されているので、行政に問題意識はあるはずです。制度の整備を望みます。(宣誓書方式の他に、災害救助法による「応急措置」や民法による「緊急避難」があるそうです。)
固定資産税
固定資産税の支払いは、公費解体のような特例はありません。納税義務者が亡くなると、相続人が納税義務を逃れられないのです。
特例ではないのですが、相続人全員が納税する代わりに、代表者がまとめて支払う制度があります。(納税義務の承継)
今回の例では、夫が亡くなった時点で妻と夫の親(親が亡くなっていれば兄弟)に納税義務がありますが、妻がすべての相続人を代表して納税していたとします。行政は納税されていればよいので、相続登記の完了は求めません。妻も自宅として住んでいたので、税金を納めることに抵抗感はないでしょう。
問題は、代表して支払っていた妻(本人)が亡くなったことです。今から対策できる場合とできない場合があるので、現時点での納税義務を分解してみます。
第1段階
夫が亡くなったので、納税義務の3/4は妻に、1/4は夫の兄弟にあります。これまでは、妻が払っていましたが、今後は兄弟に納税義務が発生します。過去に相続が発生しているので熟慮期間(後述)が過ぎており、義務を免れる方法はありません。
第2段階
妻(本人)が亡くなったので、妻の兄弟に納税義務があります。兄弟が亡くなっている場合は、その配偶者や子ども(場合によっては孫)にも義務があります(代襲相続)。ただし、相続手続きには猶予期間があるので、期間内であれば相続放棄などの対策が可能です。
相続を考える上で抑えるべきポイントを2点あげます。
1.相続を考える期限
原則として、「自己のために相続の開始があったこと(被相続人が亡くなったことと、それにより自分が相続人となったこと)を知った時」から3か月以内に家庭裁判所で申述しなければならないとされています。(熟慮期間)。法務省に寄れば、令和6年能登半島地震による災害の発生日である令和6年1月1日において、令和6年能登半島地震に際し災害救助法(昭和22年法律第118号)が適用された同法第2条第1項に規定する災害発生市町村の区域に住所を有していた相続人については、熟慮期間(相続の承認又は放棄をすべき期間)が令和6年9月30日まで延長されています。
2.相続登記の義務化
今回のように所有者が複雑になることを避けるために、令和6年4月1日より相続登記の申請が義務化されました。能登半島地震発生時には義務化されていませんが、必要性は十分に感じられる出来事となりました。
相続登記義務化の主なポイントは次のとおりです。
相続が発生して(または、知って)から3年以内に相続登記の申請が必要
正当な理由がないのに相続登記の申請義務を怠ったときは、10万円以下の過料の適用される
過去に発生した相続にも適用される
まとめ
相続登記がされていないと、公費解体と固定資産税の納税義務の問題が発生します。特に相続人が多数にのぼる場合、固定資産税の納税義務は難題です。相続関係をクリアするには、弁護士や司法書士などに依頼する必要があります。ただし、相続人への根回しは親族が行う必要があるので注意しましょう。事務的な手続きは専門家に任せられても、説明して理解を求めることまでは任せられません。突然、相続に関する書類が送られてきたら困惑しますよね。
令和6年4月から相続登記の申請が義務化されました。申請がまだの方は早めに専門家に相談しましょう。
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