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失恋が終わった

1年半、危うく2年が過ぎるところだった失恋が、終わった。
恋が終わる、という言い方はあっても、失恋が終わるって、失恋した時点でもう終わってるわ、という感じだけれど、たしかに今日、失恋が終わった。

自分でも正直驚いた。まずそもそもこんなに長い期間ひとつの失恋を引きずったことがなかったし、それゆえに、今後誰と付き合っても彼は越えられない、いつまでもわたしはきっと彼を思い出になんかできない、と思っていたのだが、どうもそうではなかったらしい。
別に他に気になる人ができたとか、彼氏ができたからだとかではくて、ただ気持ちがなくなったことに気づいた、それだけのこと。
以下、わたしの長い恋愛と失恋の記録が続く。

Twitterでよく「地震大丈夫?」とよくわからん男から連絡が来て死んでほしい、みたいなのを見かけるが、あれ、もっと現代に即した感じにすると「コロナ大丈夫?」だよね。元彼から、何ヶ月かぶりにその旨の連絡が来て、はじめはやっぱり、通知の名前を見て心臓が変な風にぎゅっとなったし、なんて返すか、少し考えた。それでも、あくまで何気なく返すうちに、話は少しずついろんなところに広がって、近況とか、くだらないこととか、思い出とかを喋った。2年弱付き合っていたし、知り合ってからは6年が経とうとしているから、会話のテンポとか、ノリとか、そういうのは今でも楽しいと思ったけど、楽しいのはあくまであのあたたかい思い出たちがあるからだなとぼんやり思いながら何往復もメッセージを返して。
悲しかった。あれほど好きだった人をこんな風に過去にできてしまえそうな自分に泣いた。

どれだけ好きだったか、なんて誰にもわからないし、その数量を言い表す語彙力もわたしにはないけれど、それでも本当に好きだった。
誘われたクリスマスデートには行っておいて「友達にしか思えない〜」と、今考えたら最低だなと思うような断り方をしたのに、1年以上が経ってから、同じ失敗は踏めないというように慎重に、それでいて離せないというように、彼はもう一度わたしを好きになってくれて、それが愛おしくて応じたのがはじまり。
彼の存在はめちゃくちゃありがたくて、大きなことも小さなことも、彼がいたからできたことがたくさんあった。クリスマスのディズニーに、着物の京都に、分不相応な高いディナーにプレゼント、4泊5日の沖縄に、有名なイルミネーションに、温泉旅行。手を繋いで歩くこと、飽きるほど名前を呼ぶこと、写真を撮ること、死ぬほど喋ること、寝ること、深夜のトランプ、見返すのも恥ずかしいような手紙。
朝に弱かったり、追い込まれた時に余裕がなかったり、お人好しすぎたり、そういうところはあったけれど、かっこいい顔に似合わず、優しくて誠実で、かわいい、犬のような人で、わたしは彼を冗談半分、本気半分でポチと呼んでいて、それすら許してくれるような人で、愛おしいものを見る目、とはまさにこのことだな、と思うような目でわたしを見てくれる人だった。
終わったのも、大半はどうしようもない理由で、働かざるを得ない世の中と、少しの文化の違いと、そういうもののせいで。何も食べられない日が続いたし、髪も突発的に切った。別れてからも何度も連絡を取ってはその度に心を震わせたし、新幹線で2時間半の決して近くなんかない距離を超えて会いにも行ったし、彼が来たりもした。ヘッダーに使った写真は、付き合ってもないわたしの誕生日に彼が会いに来た時のもの。ずっと好きだった。少なくとも最後に会ったつい半年前までは、絶対にこの世の何より好きだった。おこがましい話、少なくとも彼もわたしのことは別れてなお、特別だったと思うし、実際、泣きながら、「妄想の話するの好き?」という前振りで、あなたと結婚したいと本当に思ってたんだよ、と言われたこともあって、それはそれはおもしろいくらいにお互いわんわん泣いた。

なのに、この上段落を書くにあたり、わたしは過去の日記を読み返したし、スケジュール帳も遡った。もちろん忘れてはないけど、それでも当時の彼を描くには、今のわたしでは力不足だから。

なんでかな、と考えてみる。別にこの半年の間に気持ちに整理がつくような出来事はなかったし、ひどいことをされたわけでもないし、彼はずっと彼のままだった。少し前までは、彼に彼女ができた時ですら、悲しいと泣きながらも、自分はずっと特別だと思い込めたし、いくらでも好意的に解釈できたのに。今はもう、彼女がいると聞いて、悲しいと泣くこともできない。もとよりそんな権利はないのだけれど。

理由もなく、唐突に、失恋が、終わった。
終わることに、理由なんかないのかもしれない。
さよなら、ありがとう、大好きだった人。

失恋は乗り越えるものじゃなくて、たぶん終わるものなんだと思う。今どうしようもないどん底にいる人がいるとすれば教えてあげたい、いつか終わるよ。

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