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ちょっとニッチな児童文学⑤『ソラモリさんとわたし』

こんにちは。Maemichiです。「ちょっとニッチな児童文学」へようこそお越しくださいました。このnoteでは世の中にあまり知られていないであろう児童文学作品をネタバレ込みで紹介します。ご注意ください。

さて今回は。はんだ浩恵さんの『ソラモリさんとわたし』をご紹介いたします。

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初版は2021年の12月。ごく最近出版されました。ちなみに第3回フレーベル館ものがたり新人賞受賞作品だそうです。わたくしは「フレーベル館ものがたり新人賞」というものがあるということを、この本で初めて知りました。

前置きが長くなりましたが、『ソラモリさんとわたし』はこんなお話。

美話は学校の宿題で童謡コンテストに応募するための詩を書かなければならなくなった。
いくつもの詩を秘密のメモ帳に書いているが、どれも書きかけのままになっている。途中で詩が思い浮かばなくなってしまうからだ。その秘密のメモ帳を拾ったのはコピーライターのソラモリさん。ソラモリさんは「大人気なく、ときどきだらしない」。美話は夏休みの間にソラモリさんと過ごしながら言葉について考えたことで、自分の内側にある言葉を外側に表現することができるようになる。

ソラモリさんの毎日

美和はソラモリさんの仕事を真似て夏休みの自由研究として映画のキャッチコピーを考えようとする。

ソラモリさんの仕事とポリシーは
1、ホワイトボードに思い付いた言葉を書いていく
2、午前中の1時間半で10個のキャッチコピーを考える
3、午後は昼寝
4、思考の途中は人に見せない

5、言葉を輝かせようとしている人は放っておかない

『ソラモリさんとわたし』を読んでいると、寺山修司のこの言葉を思い出した。

「詩人にとって、言葉は凶器になることも出来る。私は言葉をジャックナイフのようにひらめかせて、人の胸の中をぐさりと一突きするくらいは朝飯前でなければならないな、と思った。だが、同時に言葉は薬でなければならない。さまざまな心の痛手を癒す薬に。」
(寺山修司名言集)


ソラモリさんは言葉と向き合って、言葉で人の心を掴むことを生業としている。
寺山修司の名言を借りると、言葉で「人の胸の中をぐさりと一突き」する仕事。
美話のような小学生から見れば日中好きなように遊び、時にはぼーっとしていてだらしないように見えているかもしれない。ソラモリさんは午前中の1時間半しか仕事をしない。
それを知った美話はソラモリさんに、コピーライターの仕事は「ちょろい」と言い放つ。


ソラモリさんは美話の秘密のメモ帳を拾った時から(正確にはメモ帳の中身を見た時からだが、美和の前では頑なに見ていないと言っている)美話のことを「言葉を輝かせようとする人」だと判断したのかもしれない。
だから美和といる時に少しふざけたふりをしながらも、美話を子供だからと侮らず、美和が「言葉をちゃんと使えるようになる」ように毎日少しずつ気づきを与えていったのかもしれない。

同じ鳥でも飛ばないとりはなあんだ?/それは「ひとり」というとりだ。(寺山修司・「両手いっぱいの言葉」より)

美話はひとりで童謡の詞を考えているとき、助走はしていても言葉の翼を最後まで開かせることができなかった。言葉と飛び立つことはできなかった。ソラモリさんと出会い、ソラモリさんに導いてもらうことで言葉の翼を広げ、言葉と飛び立つことができた。書きかけだった詞は、ソラモリさんとふたりになることによって、自分が良いと思う詞として完成させられた。

子供の頃にソラモリさんのような大人に会いたかった、とわたしは少し思った。
大人げなくて、ときどきだらしないけど、言葉と、言葉に向き合う人に真剣になってくれる人。出会っていたけど、わたしが見落としてしまっていただけかもしれない。
もうすでに大人になっているわたしはソラモリさんと美話のように言葉を輝かせる人になりたいと思いながら、読書とnoteの投稿に勤しんでいる。

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