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30年前のF14を先日ようやく離陸させて墜落させた話

先日、ふと子供のために読ませてあげたいなと思ったズッコケ3人組のシリーズを取りに、実家の子供部屋(「こどもの部屋」と呼んでいた)に探しに行った。実家は住んでいる家の道路を挟んで真向かいなので、徒歩10秒である。                               ズッコケ3人組のシリーズは小学生の時に好きで、まあまあの数が揃っていた。
「こどもの部屋」は現在、置き場に困った荷物が押し込まれまくって荷物置き場みたいになっている。もともと「こどもの部屋」にあった漫画や、本や、おもちゃや、いろいろなものはそのままに、そこに追加される形で荷物が押し込まれているのだ。特に、使わなくなった布団が置かれており、かなりの範囲を占めている。(捨てろよ)                  そんなこどもの部屋の荷物を乗り越え、かき分け、探索すると、あったあった。ありましたよ。ズッコケ3人組シリーズ。もっとたくさんあったような気がするけど、とりあえず、見つけた分を持ち帰ることにした。他に発見できなっかった分は、きっと恐竜の化石が一部しか発見されないのと同じような理由で、別の場所でそのうち発見されるのだろうという鋭い考えが頭に浮かび、納得して、「探さない」という賢明な判断をした。
しかし、ただこれらの本だけを持って帰るのではもったいない。せっかくこんな荷物を乗り越え、探索したのだ。何か他に子供が喜びそうなものはないものか、と荷物をかき分けてみると、それはすぐに見つかった。
小学生の頃に一時期ハマっていた、精度の高い紙飛行機のペーパークラフトだ。「ホワイトウイングス」という名前のシリーズである。
精巧にデザインされた、「紙飛行機」というよりは「ペーパークラフト飛行機」という方がしっくりくるような紙飛行機で、紙に印刷された部品を切り取り、貼り付け、自分で組み立てて作るものだ。手で投げて飛ばすこともできるが、ゴムでビヨーンと強く飛ばしてやることで、より高く、長く飛ばすことができる。
よしこれを持って帰ってやろう、ということで、持って帰ってきた。


小学生の頃、長い時間、良く飛ぶらしい、というこの飛行機を作りたくて、いくつか買ってもらって作成した。いろんな形をした飛行機がバリエーションとしてあって、例えばF14の形をした物などもあった。2つぐらい単品で買ってもらって気に入ったので、さらにさまざまな形の飛行機を作って飛ばしてみたくなった。そんないろんな種類が10ぐらいセットになっているシリーズを見つけ、買おうかどうか結構迷ったが、ある時自分のお小遣いで、思い切って購入した。お小遣いと言っても定期的なお小遣いはもらっていなかったので、お年玉や、臨時のお小遣い、あるいは祭りの際にもらったお小遣いなどを溜めていたものだ。多分、小学生の自分にとっては安くないお金で、思い切った決断だったはずだ。なんとなく、父か母に「買って作ってみたらいいじゃない?」と背中を押されたような記憶がある。そんな逡巡を越えて、購入した時の、さまざまな種類の飛行機を手に入れたワクワクしたような気分をなんとなく覚えている。                  そして小学生は、いざ作成にかかった。                     ところが、簡単に作ることができる物1つか2つは作成したが、あとは面倒になってしまって、放棄してしまった。                 作る作業に集中することができなかったのが原因だ。ある程度じっくりと腰を据えて作成に取り組むことと、どのように組み立てて作るか、を考えながら、これもじっくりと集中して考える必要があるわけだが、この2つのことを、子供である自分は落ち着いてできなかったのだ。
それからなんとなくこの紙飛行機から興味を失って、ずーっと30年間放置したままになっていた。     

そんな思い出があるこの紙飛行機を、今回は自分の子供のために作ることにした。

子供に見せると、興味を持って「作ってほしい」という。やはりな。
日頃から自分たちで紙飛行機を作って飛ばして遊んでいたから、好きだろうなと思ったのだ。しかも私が作成できないような結構高度な紙飛行機を小さい頃から作っていた。        

「自分で作る?」                         「いや、いい」                           

あ、そう、作ることに興味はなくて飛ばすことだけに興味があるわけね、あるいは直感的難しそうだと理解したのか。おれが小学生の時より賢いじゃねえか。じゃあ、まあ、よっしゃ作ってあげようではないか、と作成を始めたら、うむ、これは楽しい。夢中になって作ってしまった。1機目ができて、子供に見せると、喜び、家の中でさっそく飛ばしてみた。がしかし、全然いい感じに飛ばない。これはもっとめっちゃ広いところでゴムで思いっきり飛ばすんだよ、と言い訳をしつつ、2機目の製作にすぐに取り掛かった。うむ、やはり楽しい。こどもの頃は紙を切ったり、ボンドで貼り付けたり、どういう風に組み立てるといいかについて考えたりすることを、じっくりと落ち着いて進めることができなかったが、今はそれができる。                  しかも楽しみながら!                          大人になったのであるなあと実感した。                  そして、また、こうして手を動かしながら何かを作ることというのは、それ以外のことでは得ることができない視点のような物を得ることができるぞ、ということを実感することができた。                       それが具体的にはどんなものかというというと忘れた。          しかしその感覚は間違いのないものとして自分の中に残っている。(具体性がなさすぎて説得力がないかもしれないが、自分の中に残っているので別にいいのだ)

2機目が完成し、 やはり部屋の中で飛ばしてみた。が1機目と同じでイマイチであった。子供が部屋の中で飛ばしているうちに調子に乗って3機目に取り掛かった。今度は下の子供が選んだF14だ。最後の2工程を残してその日は作成を終了することにした。作成を終了する、というほど格好いいものでもないが。

発見したキットには説明書があったはずであるが、見当たらなかった。多分こどもの部屋のどこかで、これもまた別の場所に眠っているはずなのであるが面倒であったので、探さなかった。同様に、飛ばす際に使用する大きなゴムもなかった。本格的に広いところで飛ばすにはゴムが必要である。   ということで、子供と一緒にホームセンターに買いに行った。       

ホームセンターで、輪ゴムのちょうどいい大きさのやつを選んで買い、帰りの車の中で箱を開けたら、買ったつもりの物よりもずっと小さいやつがいっぱい入っている物を選んでしまっていたことが判明した。子供に「小さいじゃないか」と言われたが、大丈夫だと、さっと2つを組み合わせて長くして見せた。そして帰り道に、そのままグラウンドで飛ばしてみることにした。その日は学校が休みの日で、グラウンドには誰もいなかったのだ。

ゴムを飛行機に引っ掛け、飛ばす。が、やはりたいして飛ばない。2機とも試していくうちに2機目に作った飛行機がまあまあ面白い飛び方をしそうな時があって、子供も少しだけは楽しめたようであったが、しかし自分としてはこの飛行機のポテンシャルを知っているので、満足しないままにその日は帰ってきた。

しばらく忙しい毎日が続き、2工程を残したF14は私の机の上に置かれたままになっていた。下の子供も忘れてしまっていた。

しかしこの日曜日、時がきた。雨降りが続いていたが、やっと天気のいい日曜が来て、午後になってから飛ばしに行くか、ということになった。                    未完成のF14は、ちょうど2日前の金曜に完成させてあった。       しめしめ。

風は少しあり、グランドに人は誰もいない。そんな条件で、3機の飛行機をそれぞれ飛ばしてみた。以前も飛ばした2機はやはりたいして飛ばない。  F14はどうなのか。「トップガンマーベリック」では過去の遺物みたいなことを言われていたが、私にとっては期待の星のF14だ。          ゴムを引っ掛けビヨーンと飛ばす。                  むむ。大して飛ばねえ。しかしちょっとだけ飛行機らしい飛び方を見せてくれたので、これは可能性があるぞ、とわかった。

そこで、ふと気がついたがゴムを2つ繋げた長さでは、自分の腕の長さには全然足りてない。これでは本来の飛行能力を実現できないはずだ。ということで、ゴムを4つに繋げてみた。私の腕の長さからするとベストのゴムの長さになった気がした。

飛ばすときに子供が「上に飛ばしてくれ」と言った。確かに、思いっきり上に飛ばして落とすことで、風に乗りやすくなるであろう。        頭いいじゃねえか。                         長くしたゴムで思いっきり上に飛ばすことにした。

3、2、1、発射、という掛け声と共にゴムを離し、飛行機を離陸させた。手に持っているから、もともと離陸済みだけど。

するとどうでしょう。                         めっちゃ遠くまで飛行機らしい軌道を描きながら飛ぶではないか。    すげー、と子供たちも喜んでいる。                  ああ、そうか、飛行機らしく飛ぶ、ということを求めているんものなんだなと思った。                                しかも最後に地面に着陸する時に、たまたま地面の柔らかいところに着陸し飛行機の先端部分が地面にブッ刺さった。                着陸ではなく墜落だ。                         子供達と爆笑した。

パイロットは死亡した、と子供が笑う。

その後も何度も飛ばし、羽の角度を子供が調整し、その度にすげー、とか50mは行ったとか、時々草むらに落ちて取りに行くとか、子供も自分も興奮し、笑い、さまざまな飛行を、空が暗くなるまで楽んだ。

30年前、小学生だった自分は、未来の自分のこどもと、そして子供と一緒に遊ぶ大人になった自分ために、この飛行機のおもちゃを用意してくれていたのだ。


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