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「かわいい人だな」

『撫然』(ぶぜん)とする体験をしました。

傘をさすか、ささないかで迷うような天気に大きな通りを歩いていた。

私は雨粒がメガネを濡らすのが気持ち悪いので、そのときも傘をさしていた。

あぁ、また喫煙スペースだ、といつもの場所を通るとき、向こうからやってくる背の高いおじさんがニコニコして歩いてくるのがわかった。

その喫煙スペースは、愛煙家の集まるところで駅からはそう離れていないため、スモーカーが1人や2人はいる。歩道や縁石はあるが、ひとがすれ違うには狭くなっている。バスターミナルに近く、バスが何台も通り、緊張する場所でもある。

私はそのニコニコおじさんが知っている人かと思いながら、隅に寄りながら歩き、電柱の手前から減速した。
全く知らない人だ‥‥?

するとニコニコおじさんも減速して、目でどうぞの合図をくれて、先に通された。
通りすがりに、

「かわいい人だな」

と言いながら、駅に向かわれた。

一瞬のことで、混乱した。
冗談でしょ!と思ったが、まわりに人が見当たらず、恥ずかしくて早足になった。
少し頭の毛が少なめだったが、ちゃんとした身なりの方だった。

「かわいい」なんて、何年も言われてなかったから、柄にもなく動揺した。
キラーワードである。
冷静に考えてみたら、マスクで顔の半分は隠れていた。
おばちゃんがかわいいのではなくて、控えめな行動がかわいかったのだ。

ドキドキじゃあない。
けれど、心臓が音を立てた気がした。

この年になると、動悸がしたのか?と思い、病気を心配する。

交通量の多い危険ゾーンでの緊張感。
吊り橋効果というのがあるが、コレか、と。
おばちゃんは、平面の道路の端っこでも吊り橋になっちゃうぞ、参ったか。

世のおじさま、かわいいを簡単に使わないでください。若い子と違って、おばちゃんにキラーワードはキツイのです。

うれしかったけど、危うく好きになるところだった。あぶない、あぶない。

若い頃は、指輪を真っ先に見たのになぁ。

老化は、瞬発力をも奪い去る。

そうか、かわいかったか。

友達に話して、笑われよう。



※撫然とは、驚いて呆然とする(あっ気にとられる)様子をいいます。

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