未来の介護を支えるのは人?テクノロジー?

最近、介護業界の話題といえば介護施設の人員配置を3対1から4対1に段階的に変更していく、というニュース。

普段、介護のお仕事に携わらない人にとっては、『へー』って過ぎちゃうようなニュースかもしれません。
介護に関するニュースは、若い人にはあまり注目されにくくて、自分が介護が必要になったり、介護家族になって初めて、関心をもったり。誰にでも将来起こりうることだけど、意識しないと中々思考の中に入ってきませんよね。
(どの業界もそうだと思いますけど)

介護を必要とする年代の人口が増え、働く世代の人口は減っていく。
そのためあらゆる業界で、生産性の向上、ICTの活用が行われています。
この波は、介護業界でも避けられることではありません。むしろ、大変な職業としての印象が強い分、人手不足はかなり深刻な問題となっています。

さて、現在の基準では入居者3人に対して職員1人という基準が設けられています。
一見十分なように見えるかもしれませんが、介護・看護職の常勤の総数で計算されるので、時間帯によって職員の人数は増減します。規模にもよりますが夜勤は1人で、なんてことも珍しくはないでしょう。
介護のお仕事は、人の生活を支えるお仕事なので、予想がつきにくい部分があります。おトイレに行きたくなるタイミングが重なったり、急に体調を崩したり、食が進まなかったり。できるだけお一人お一人の生活リズムを大切にしようと思うと3対1では厳しくて2〜2.5人対1人の体制をとっているところが多いようです。

そんな中4:1の基準緩和はどんなことをもたらすのか…
理想は、ICTの活用による記録の削減、センサーを利用した不必要な夜間の訪室やおむつ交換の回数の適正化、間接業務の削減をし、少ない職員でも効率よく業務を行えるようにしよう!ロボットを活用し移乗時の職員の負担を軽減しよう!といったことのようですが…現在HPで公開されている全世代型社会保障検討会議(第6回)配布資料を確認する限り、介護の質や入居者のQOLの向上、職員の労働環境の改善や教育体制、情動的な関わりの時間の確保、といった部分への検討がまだまだ足りないようにも感じられます。

私個人としては、ICTの活用による業務改善には賛成です。
データーの収集や分析、といった点では大いに介護現場に役立ってくれるのではと思います。

しかし、効率的であること=質が高い介護では決してありません。
例えば、移動や移乗。リフトの活用は介護者にかかる負担を一見軽減し、介護を効率化するかもしれません。しかし私たち介護の現場にいる人間は、全介助で全く歩かなかった人が、関わりと介護の工夫でご自身で歩くようになったり、車椅子で移動できるようになったりする姿を目の当たりにしています。一度骨折して歩けなくなった方が、毎日の少しずつの立ったり座ったりする動作の繰り返しで、再び歩き出す姿を目の当たりにしています。生活の中のちょっとした不便が、トレーニングになることを知っています。

若い世代においても、生活の利便性の向上とともに運動不足が指摘されています。日常の中に一駅歩く、とかできるだけ階段を使う、なんて取り入れている方も多いのではないでしょうか?ご高齢者の生活において、日常のちょっとした動作の重要性はそれ以上です。

人生の終わりに近い時間を過ごしている時に、寂しさや不安に涙することがあること。眠れない夜があることを私たちは知っています。

認知症の進行で、言葉で伝えることができなくなった時に、ソワソワしたり、イライラしたり、行動が変わることを私たちは知っています。どうしたのかな?いつもと違うな?お手洗いかな?体調が悪いのかな?関わりの中で原因を探り、不快の原因を取り除くことで落ち着かれることはたくさんあります。

介護のお仕事は、ご利用者様の急な体調変化や最期の時への立ち会いも経験します。病気のこと、薬のこと、他職種との連携…学ぶことは山ほどあってつきません。人の死に立ち会う、そんな特殊な環境としっかりと向き合うには「時間」も必要です。職員の心を守るためにも。

また、QOL(生活の質)を高めるためには「人との関わり」が重要であることが指摘されてます。介護が必要な方が住む場所である高齢者施設において、効率だけを重視して人員を削減してしまったら、そこにある「関わり」の減少は確実でしょう。もちろん、入居者同士でうまく関われればいいのですが、それができる方ばかりではないのは火を見るよりも明らかです。

人員基準を緩和することで、望んでいない「介護の質の低下」や「QOLの低下」「職員の疲弊」が起こるのではないか、と懸念しています。一部の資本やノウハウ、マンパワーのある環境での事例に合わせていくと、テクノロジーをうまく活用出来ないまま無理な施設運営をする事例も出てくるのでは…と。

未来の介護を支えるためにテクノロジーの活用による業務改善は、特に書類の作成やデータ管理の分野では間違いなく必要でしょう。
しかし同時に、そこで働く人の存在もとても大切です。
人がいればいるほどいい、とは言いません。
しかし一定数の人員を確保しておくことで守れるものが確かにあって、それはとても大切なもののように思います。

みなさんは、人生も終わりに近づく高齢期に、どんな生活を送りたいですか?
介護が必要になった時に、どんな介護を受けたいですか?
その生活を支えてくれる人材と環境はあるでしょうか?

問いかけていて、一番痛いのは自分の心だったり(笑)
人と人との繋がりを大切に、できることをやっていこう。

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