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成長のカギは「逆算思考」。SmartHR創業者・宮田昇始が千葉道場で見出した社会インフラへの道しるべ

こんにちは、千葉道場ファンドです。

千葉道場ファンドの投資先起業家でつくるコミュニティ「千葉道場」のメンバーから、株式会社SmartHRの前代表取締役CEOで現在は取締役ファウンダーを務める宮田昇始さんのインタビューを掲載します。

宮田さんは2013年に株式会社KUFU(現・株式会社SmartHR)を設立。2度のピボットと、10あまりのアイデアの検証を経て2015年11月、社会保険・雇用保険の手続きを自動化するクラウド型ソフトウェア『SmartHR』をリリースしました。

2016年8月には総額約5億円の資金調達に成功。その後2018年1月に約15億円、2019年7月に約61.5億円、2021年6月には約156億円の資金調達を実施。ついにユニコーン企業の仲間入りを果たしました。この間、SmartHRの登録企業数は4万社を超え、業界シェアNo.1※サービスの地位を確立しています。

※デロイト トーマツ ミック経済研究所「HRTechクラウド市場の実態と展望 2021年度」労務管理クラウド市場シェア

千葉道場の中でも指折りの成長速度でユニコーン企業の仲間入りを果たした宮田さんに、コミュニティとの関わりで得た知見や、事業戦略の変化について語っていただきました。

また、宮田さんは2022年1月1日をもってSmartHRのCEOを退任し、現在は同社100%子会社のNstock株式会社で新規事業に取り組んでいます。飛ぶ鳥を落とす勢いで成長を続けている今、あえてCEOを交代した理由や新規事業についても聞きました。

千葉功太郎との出会いと千葉道場コミュニティで得たもの

合宿で千葉道場メンバーと語らう宮田さん

ーー千葉と出会った経緯を教えてください。

「SmartHRは、2016年5月の『IVS(インフィニティ・ベンチャーズ・サミット)』のプレゼンコンテスト『IVS Launch Pad』に参加し、優勝したんです。その時、会場に千葉さんがいらっしゃっていて。表彰式が終わった後に『一度お話できませんか』といった感じでメッセージをいただいたのが、最初の出会いです。その頃、ちょうど我々も資金調達をしていた時期だったので、後日千葉さんの自宅に呼んでいただき、具体的な出資の話を進めていきました」。

「当時も千葉さんは着物を着てイベントなどに参加していたので、直接の面識こそなかったものの一方的に知っていて『目立つ人だな』とは思っていました。私の同世代の起業家たちが『千葉道場』というコミュニティで合宿をしていることも、当時から知っていたんです。そのコミュニティに入れるのであれば、千葉さんから出資してもらいたいなと思ったことを覚えています」。

ーー千葉道場というコミュニティに当初から興味があったと。具体的にどのような部分に魅力を感じていたのですか?

「僕はライバルがいる方が燃えるタイプ。お互いに切磋琢磨できるライバルが欲しいという思いもありました。それに、『起業家同士のコミュニティ』という特殊な場でしかシェアされていない情報があるなら知りたいという好奇心もありました」。

「起業家同士のコミュニティならではの情報でいえば、例えばSmartHRは2017年11月に『信託活用型ストックオプション』というスキームを導入しましたが、これはまさに千葉道場をきっかけに知った手法です。今でこそ信託活用型ストックオプションを使っている会社は多いと思いますが、当時はまだ事例が少なく、どのようなリスクがあるのかも不透明。そんな時に千葉道場が勉強会を開いてくれて、そこではじめて信託活用型ストックオプションというものを理解でき『これめちゃくちゃ良いじゃん!』と」。

「こうした最新の情報を紹介してくれるほか、似たステージの起業家とライバルとして切磋琢磨できるのも千葉道場のひとつの良さでしょう」。

ーー千葉道場コミュニティ内で、起業家同士はどんな関係性なんでしょう?

「例えば、ウェルスナビの柴山さんと私は同じ時期に出資を受けて千葉道場に入った、いわば同期です。実はウェルスナビは2015年の『TechCrunch Tokyo』のプレゼンで競い合った間柄ですし、千葉道場に入ってからも同じくらいのペースで事業が伸びていて、僭越ながら私はライバルと思っています」。

「その柴山さんは、ご自身の知見を惜しみなく教えてくださったり、助言をくださったりして、とても感謝しています。正直、人間の大きさは柴山さんが何倍も上です(笑)。とはいえ、やはり同じ頃に起業し、千葉道場から出資を受け、同じくらいのフェーズにいる柴山さんには『起業家としては負けたくない』という気持ちもある。そうしたライバルと切磋琢磨できるのは、何にも代えがたい貴重な経験だと思います」。

「時価総額1,000億円は当たり前」。千葉の言葉で事業戦略に変化

ーー千葉と接していて印象に残っているエピソードはありますか?

「出資いただいた当時、千葉さんに『(千葉道場の企業は)みんな当たり前に時価総額1,000億円くらいにはなってほしい』と言われまして。ある意味、僕の世界観を変えた言葉ですね」。

「SmartHRはシリーズDで約156億円の資金調達に成功し、いわゆるユニコーン企業の仲間入りを果たすことができましたが、実は当初はここまで会社を大きくすることは考えていなかったんです。『いつか時価総額100億円くらいで上場できたらいいな』と、なんとなく思っていたくらいで」。

「時価総額1,000億円を目指すというのは、当時の私にとっては、小学校の野球チームに入っている少年が『メジャーリーガーになる!』なんて言っているような感覚だったんです。ところが、千葉さんはそれを『当たり前の目標として目指せ』とおっしゃる。本当に、さも普通のことのようなトーンで話すんです。それが僕にはすごく刺さったし、自分の中にある『当たり前』の基準も引き上がったことも感じました」。

「SmartHRのようなSaaSのビジネスモデルではARR(Annual Recurring Revenue:年間経常収益)を基準に考えるのですが、時価総額1,000億円を達成するにはマルチプルを20倍と見積もったとして、ARRが最低でも50億円くらいは必要です。そもそもマルチプルを高くつけてもらうためには高い成長率を維持しなければなりません。解約率も低くなければいけない。市場の大きさも証明していかないといけません」。

「となると、次に狙うべき市場はどこかをきちんと考える必要がある。といった具合に、狙う目標が明確になったことで、きちんと『逆算的に』事業戦略を考えられるようになりました」。

「元々、我々のお客さんはIT企業やスタートアップが多かったんです。ところが時価総額1,000億円という目標から逆算して考えると、この市場だけでは足りない。そこで、例えば飲食店さんや小売店さんなど、従業員を多く抱える企業を狙っていく戦略に変更したんです。ちょうど2018年の頃ですかね」。

ーー2016年には2,500社だった登録企業数が、2018年にはおよそ7.5倍の約19,000社に、さらに2020年には30,000社を突破しています。時価総額1,000億円という目標に向け順調に推移していったように見えます。SmartHRの中では、この伸びをどのように捉えていましたか?

「社内では昨年くらいから『来年にはユニコーン企業になれるんじゃないか』という実感が出てきていました。でも、同時に『目標迷子になりそうだよね』という話もVP陣から出てきてた。そこで『社会インフラを目指そう』という目標を掲げ、あえて時価総額を明示しないしないことにしました」。

ーー宮田さんの自身は時価総額1000億円をひとつの目標として考えながらも、社内の目標として時価総額を掲げなかったことにはどんな理由があるのでしょうか?

「もちろん『時価総額〇〇円を目指そう』という言い方も考えましたが、それだと言葉だけが独り歩きしてしまう可能性があるなと」。

「仕事や生活を営むなかでいつの間にかサービスを利用している会社って日本にはたくさんありますよね。例えばANAさんや、味の素さん、LINEさん、大手電力会社さんといった各社のサービスを使わずに生活するのって難しい。そういった社会インフラとなっている会社の時価総額を調べてみると、だいたい時価総額1兆円を超えている。だったら『時価総額1兆円を目指そう』というよりも『社会インフラを目指そう』という言い方にしようということになりました」。

「働いていれば自然とSmartHRに関わっている、そんな存在になりましょうと。今は、この新しい目標を社内に徐々に浸透させ始めているかたちです」。

「先ほどの逆算の思考でいうと、時価総額1兆円という目標はSmartHR単体では難しいんです。SmartHRと同じクラスの事業をいくつか作らなければいけないと思っています。この2年くらいで人材マネジメント領域向けプロダクトをいくつか作っていますが、今後はそれらを2本目の柱として成長させ、さらに第3、第4の柱を作ろうと考えているところです」。

「私はSmartHRの社長を退任し、代表の座をCTOの芹澤雅人に譲ることにしましたが、この代表交代も『社会インフラを目指そう』という新たな目標の実現に向けてのことです」。

「というのも、私のような起業家は、少なからず『社会を変えてやるぜ』といったような、社会に対するカウンター的なマインドを持っている。でも、社会インフラを目指すということは、いわば社会を構成する側に回るということでもあるわけです。そう考えた時に、カウンター的なマインドを持っている自分が代表でいるより、別の人間が新しいリーダーとなって会社を引っ張っていく方が良いだろうなと」。

「それで、自分はSmartHRの100%子会社としてNstock株式会社を立ち上げ、新規事業に集中して取り組んで、次の柱をつくろうと考えたんです」。

スタートアップのおかげで人生なんとかなった。だから、スタートアップで働く人が増える仕組みをつくりたい

ーー宮田さんは引き続き「取締役ファウンダー」としてSmartHRに残りながらも、今後は新規事業に90%以上の時間を使うということですが、新事業についてお聞かせください。

「Nstockでは、ストックオプションなど株式報酬をテーマにしたSaaSの開発や、 Fintech事業に取り組みたいと考えています。スタートアップ界隈に人材が流れ込みやすくする仕組みづくりをしたいんですよ」。

「というのも、私はスタートアップのおかげで人生がなんとかなった。最初に入った会社はリーマンショックで大きなダメージを負ってしまい、2社目に入った会社も自分が働いている時に強制捜査を受けてしまいました。『一発逆転するにはスタートアップしかない!』と思って起業して今があります。だからスタートアップの界隈にはとても感謝しているんです」。

「今、スタートアップ界隈は活気が溢れてお金も集まっています。コンサルティングファームや外資系銀行に勤めていたような優秀な人材が続々と起業家として乗り込んできている。でも、まだまだ人材が流れ込んできてもいいと思うんです」。

「そこで、例えばストックオプションを活用しやすくするためのサービス開発に取り組んでスタートアップで働くリターンを大きくすれば、スタートアップへの人材流入を加速できるんじゃないかと考えています」。

ーー育ててきた事業の舵取りを後進に託して、自分は新たな事業に取り組む選択肢は珍しいと思います。千葉道場コミュニティのメンバーにとっても、起業家の新たな進路として参考になりそうですよね。

「そうですね。参考になりそうな選択肢を増やせたのは、良かったことかなと思っています」。

「起業家のキャリアって、あんまり多様性がないんです。経営し続けるか、上場してしばらくしてから辞めるか、あるいは会社を畳んでしまうか。そうではなくて、会社のトップの座は譲りつつも籍は残しておいて、そこで新しいことに取り組むという選択肢もある、ということを示せたのが良かったと思います」。

「実はSmartHRを辞めて独立して、ゼロから新規事業に取り組むということも考えました。それでもSmartHRグループに残って100%子会社を作ったのは、SmartHR事業とシナジーがあるからでもありますが、私の心情や美学といった個人的な理由もあります。そのあたりのことや新規事業の詳細については、ブログなどで徐々にご説明していくつもりです。楽しみにしていただければと思います」。


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