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カラーボール野球の備忘録(其の一)
その日も中学の同級生でもあり、元チームメイトでもある男と二人でキャンプの真似事の様な事をしながら、焦げたお肉を譲り合っていたと記憶している。
酩酊状態でも嫌な記憶というのは翌日になっても意外とアンインストールされていない物だ。
焦げたお肉を半ば強制的に譲り受けた事
席を外して戻ってから飲んだビールが痛烈な酸味を纏っていた事
タン塩を食べようとレモン汁を振るも容器が空になっていた事
脳内のフォルダ内にはその男がニヤニヤとこちらの様子を伺っている顔もついでに保存されている。
キャンプを語る程の知識や技術もないが、その男とは頻繁にお肉を焼いたり星空の下で温かいコーヒーを飲んだり、お酒を飲みながら思い出話に花を咲かせたり、まぁほとんどくだらない話ばかりでその日も盛り上がっていた。
その男は毎回そうだ、いつでも無計画でぶっきらぼうなのだ。
「見てみ面白いからこれ」
主語の欠落と文法の指摘はさておき、その男のスマホを覗き込むとそこに映っていたのはゴムボールとプラスティックバットを使用して野球を楽しんでいるSNS動画であった。その後もいくつかの参考映像を見せて貰ったが、どれも私の目にはキラキラと眩しく目に写り、自分もこの名称不明の野球をやりたいなという気持ちに駆り立てられた。
かくいう私も高校の途中までは野球部に所属していたので、痩せこける程の厳しい練習や強制的な坊主による毛先での遊戯禁止、神と民ほどの差が生じている上下関係、監督がキレた時に外野まで飛んでくるノックバットを避ける毎日。そんな戦禍を潜り抜けてきたのだから、野球のキラキラした裏側で何が起きているのかという事は知っている。
しかし野球から離れている期間の方が長くなり、本格的でバチバチとぶつかり合うレベルの高い野球はもう自分にはできないなとバッティングセンターの後、毎回痛感していた私がカラーボール野球に魅力を感じたのは、やはり動画内の楽しそうな姿、年齢を問わずできるという事は自分でもできるのでは?という期待がそこにあったからだと思う。
私は声を大にして、その男を誘う
「来週にでもカラーボール野球やろうぜ!!」
その男は毎回そうだ、いつでも無計画でぶっきらぼうなのだが意外と的を得た事をいつも言う。
「友達いないから俺達できないじゃん。」
動揺を悟られないよう平静を取り繕い、落ち着いたトーンでお互いの友人の数を合わせる提案をした。
二人合わせて片手で足りた友人達へラブコールを送るも全て撃沈に終わり、動画で見たカラーボール野球の背中が遠く小さくなっていったのであった。
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