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ヒップホップのすてきな三にんぐみ③RHYMESTER【後編】│ひとりアドベントカレンダー#11

三人組とは何かと魅力的である。という能書きはすっ飛ばして早速始めようと思う。昨日の「ヒップホップのすてきな三にんぐみ」では、私がRHYMESTERを聴くに至るまでの話でうろうろしすぎて、本題に入りかけたところで終わってしまった。計画性のなさにもほどがある

目下快進撃中のヒップホップユニットCreepy Nuts(R-指定&DJ松永)が、ラジオやテレビでRHYMESTERへの偏愛をこれでもかという勢いで語っている(※特にDJ松永)ので、もうわざわざ私がそのすごさを書くまでもないかもしれないとさえ思ったりする。だって松永さん、ライムスの「K.U.F.U」を自分で紹介しといて自分で感極まって涙したりするんだぜ……?

RHYMESTERにも当然30年間で作風の変化はあり、シリアスなものからとてつもなくしょうもないものまで楽曲のテイストは幅広いが、長いキャリアの中で一貫して伝え続けているメッセージもまた多い。

何も持ってない、ダサかった奴でも何かを変えられる
日本語でヒップホップをやっていることに誇りを持っている
時代とともに自分たちもアップデートしていくけれど、同時に俺たちがカッコいいと信じたものを俺たちは貫く
といったメッセージは不易のものだ。

素晴らしき音楽史のパラサイト ヒップホップはまだくたばらない(Mummy-D)

持ってるヤツに持ってないヤツがたまには勝つと思ってたいヤツ(宇多丸)

────♪ザ・グレート・アマチュアリズム/『グレイゾーン』収録
今から思えばダサくてよかった
あのダサいヤツが最後に勝った(Mummy-D)
────♪K.U.F.U./『マニフェスト』収録
繰り返してるだけじゃ何も生み出せはしないのさ
元の「らしさ」からは常にハミ出すしかないのさ(宇多丸)
────♪ガラパゴス/『Bitter, Sweet&Beautiful』収録

RHYMESTER、2MCの魅力

ここまでさんざん「宇多丸」「Mummy-D」と書いてきた通り、RHYMESTERはラップする人が2人(宇多丸・Mummy-D)、DJの人が1人(DJ JIN)の三人組である。

RHYMESTERはまず何よりも、この2MCの魅力がほとばしりまくっている。

鼻にかかった特徴的な渋みのある声の持ち主・マイクロフォンNo.2 Mummy-Dは、リフレインや間を巧く使った、メロディックで余裕感のあるラップが得意。最近ではトラップのフロウも取り入れるなど研究に余念がない。

対するマイクロフォンNo.1宇多丸は、理詰めでたたみかけるような硬派なリリックを得意とし、堅い韻で口跡よく聞かせるMCである。まさに立て板に水というべき弁舌はラジオでもおなじみ。

どの曲を聴いていても、二人の声やリリックの作風、そしてMCの芸風の違いが、相互に補完し合いながら唯一無二のバランスを作り上げていることがよくわかる。

修論と就活のおともにRHYMESTER

私がRHYMESTERの楽曲に出会ったのが2017年ごろ。その翌年2018年の後半~2019年の初めで、ほぼ全アルバムを急激に聴き込んでいる

そのころはちょうど大学院の修士論文と就職活動がどちらも難航していて、個人的になかなかきつい時期だった。研究室で一番出来の悪い院生なりに自分の研究の集大成(=修士論文)と近い将来の選択(=就職活動)もどちらも後悔したくないという思いゆえに、けっこう精神的に切羽詰まっていたと思う。そんな中で、RHYMESTERの曲を聴いて自らを奮い立たせていた

本命企業の面接に行くときは、「Come On!!!!!!!!!」。「確と見ときな格の違い KIDSとKINGの箔の違い エキストラと主役の違い」なんて、あからさますぎるセルフボースティングなので、新卒の企業面接には似つかわしくない気もするが(でもRHYMESTERがやると説得力あるしカッコいいんだよね)。

ただしアルバムのジャケットはめちゃめちゃダサい

論文も就活も思ったように進まなくて心が折れそうになったときは、「The Choice Is Yours」。RHYMESTERの曲の中で一番聴いているナンバーだし、RHYMESTERの中で好きな曲ベスト3を訊かれたら常にランクインすると思う。自分の未来は他でもない自分で選択するんだろ? へこたれてる場合か? と自分の心を立て直すのに必要不可欠な曲となった。

川崎CLUB CITTA'で遂にライブを見る、そして泣く

年始のうちにチケットを確保して臨んだ、2019年11月のRHYMESTER30周年記念47都道府県ツアー・川崎CLUB CITTA'公演。修論執筆真っただ中の時期だったが、そんなことを理由に躊躇している場合ではなかった。このライブに行ったほうが、修論も含め自分の生活全体にいい感じの影響がありそうだったから。加えて、「好きなアーティストのライブに行く」ということ自体が私の人生史上初だったので、楽しみで仕方なかった。

当日のセットリストは、30周年という大きな節目ということもあって、最新曲から過去の曲へとさかのぼっていく「RHYMESTERミュージアム方式」。曲と曲の間、宇多丸さんとDさんが「このアルバム出したころの俺たちどんな感じだった?」と、部室よろしくゆるい掛け合いの”ギャラリートーク”で、ミュージアムを案内していく。「箸休めコーナー」ことDJ JIN単独のおしゃべりコーナーも、絶妙な匙加減の中身のなさでオーディエンスを爆笑の渦に叩き込む。

そして、曲中でもしっかり聴衆を盛り上げ、ここぞというタイミングで手を挙げて振ったり、コール&レスポンスが完璧にできるように短時間で育成してしまう(育成された)。

ポッと出リスナーでライブ初参加の私でも、気づけば思い切り身体を揺らし、リリックの脚韻部分で声を重ね、全力で声を上げて叫んでいた。なんだこれすごい。「きょうのライブは全編クライマックス、スターウォーズでいうともうデス・スターが何個爆発すんだって感じ」と宇多丸さんが言う通りだった。

中でも、序盤のデス・スター、「The Choice Is Yours」(上に動画を貼ってあるのでぜひ再生しながら読んでほしい)のイントロが流れ始めて3秒もたたないうちに、自分の両眼から涙がものすごい勢いで噴き出すのを感じた。自分でも若干引くほど、涙が止まらない(それにしても私ほんとよく泣くよな……)。

なにを隠そう、きつかった時期に私を支えてくれた一曲を、いままさに目の前でRHYMESTERの三人がやってくれているということそのものに、心を激しく揺さぶられたのであった。

こういう現象、身に覚えのある人もいるんじゃないだろうか。自分の人生において、誰にも共有できない痛みやつらさを抱えていたとき、自分の心に寄り添い救ってくれた映画や演劇、音楽、文学などのコンテンツがあったとする。いくらかの時を経てそれらと再会したとき、べつに悲しくもないのに突然涙が溢れてきてしまう

それは何か、無二の友との再会を喜ぶような、あのとき深いところで私を救ってくれたあの●●(映画、音楽、etc)にまた会えたのだという、感動や感謝のようなものだ。

噴き出し続ける涙もそのままに、「選ぶのはキミだ キミだ 決めるのはキミだ キミだ 考えるのはキミだ 他の誰でもないんだ」のフックを、満場の聴衆といっしょになって歌った。

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「The Choice Is Yours」に支えられた時期ののち、就職して働き始めてからは、今度は「It's A New Day」が時折ふっと寄り添ってくれている。「時間が経つのが早くてホント泣きそう」な気分は年末ほど強くなるけれど、明日も少しだけがんばって生きてみようかなという気持ちにさせてくれる。

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