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自由詩

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リーディングや投稿・寄稿で発表済の作品を掲載します。
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2016年12月の記事一覧

ことばのことばかり

ことばのことばかり考えて遠回り、
物わかりのわるい物語の横流し。
連なり、転がることばたち。横並びの
中からなかなか出ない大当たり。

ことばのフレームからはみ出した世界を虫取網で捕まえに行った子どもが帰ってこない。あの笛吹きに連れ去られたんじゃないか……街の噂は膨れあがり瞬く間にしぼむ。
彼は早速、旅先で面白いものに出会った。
(1)武士の侍が馬から落ちて落馬したとか
(2)鳩時計から出てくるの

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海のエスキース

日焼けした大きな手の甲 節くれ立った指 
両ひざの上に押さえる乾いた新聞紙
ゆるやかにたたまれた紙の端が時折ぱたぱたとひかえめに海風にはためく
やせ細った木の椅子に もたれるでもなく 姿勢をただすでもなく 
老いた漁師がテラスにひとり
昼寝の眠り 太陽は傾き 変わる風向き 
目覚めのまばたき
あの日見たライオンの夢を今日も見なかった 
昨日の夢も至極雑多
尻尾だけ残して骨だけになったばかでかいカジ

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Après nous le déluge

晴れ渡る空の下を流れる川のほとり
向こう岸の華やかな街を望む見晴らし
遠く時計台の屋根は金色の輝き
かすかに届く祈りの鐘の音の響き
橋桁に寄せるさざ波の穏やかさとは
裏腹なこちら側の岸の騒々しさ
叩き売る輩あれば買い叩く輩
戯作と皮肉が酒の肴、本の商人たちのたまり場

商人たちの売り声は石つぶてよろしく
飛び交ってぶつかりあって窓を震わす
青天井の売上に夜ごと祝杯を挙げるから
潰れた声が紙屑みたい

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真夜中と金魚鉢

宵の雨風、冷たく輝く夜半の月
凍りゆく水たまりに閉じ込められる落ち葉
コートを脱いでハンガーに掛けるとき
手放した体温の行き先をふと思う

夜更けの台所でひとりマッチを擦れば
生まれた朱色の小さな炎はおもむろに
身震いして縮こまり
何事か決心する

小さな炎はマッチ棒の先を蹴って
身を躍らせ水だけが満たされた金魚鉢にぽちゃんと飛び込む
お荷物になる思いなら振り払えと媚びるようにまわるエトワール

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