はんなり???!!!着付師物語 第7章②ニューヨーク再び
未来のフットワークを活かした仕事ぶりは、海外からの依頼まで引き寄せた。
ニューヨークのとある大きな日本人コミュニティの代表から連絡があった。そのコミュニティでは、毎年のように大きなパーティーを日本のお茶会形式で行う。そこに集まる人たちは、在住の日本人のみならず、日本やその文化に興味のあるアメリカ人たちだ。日本のお茶会形式と言えば、やはりドレスコードは着物だ。ゲストはそれぞれ自慢の着物でドレスアップして参加したい。けれど問題なのは、日本人でさえ、現代に生きる私たちは、着物を自分で簡単に着れますと言える人が一握りであることだ。ましてや、キチンと美しく着こなせるかとなると本当に難しい。そこで、未来に声がかかった。未来のブログを見た主催者が、この人ならニューヨークへでも来てくれるだろうと思ったのだ。人を集めるので、数回に分けて着付教室を参加者たちのために開催してほしいという依頼だった。
「やった!!ニューヨーク!!」
未来にとってニューヨークは、初めて渡米した15歳の時から憧れの都市だっだけれど、その時も、そのあと20代で訪れた時もあまり良い想い出ではなかった。どちらも死ぬ思いをしている。
「三度目の正直ね。ちゃんと自分の仕事で依頼を受けてニューヨークに行くんだから、今度こそ憧れのニューヨークとして胸に刻める渡米にしたいな。」
依頼者からの要望で貸衣装も準備して行くことになったので、何と荷物の重さの限度が無いファーストクラスでの渡航費を主催者が負担してくれることになった。しかも、ティファニー本店で開催されるパーティーにも招待されるという好待遇だ。未来は、ワクワクしすぎて小躍りしたい気持ちだった。
久々にニューヨークにやって来た未来は、そのノスタルジーにふけりながら、街を歩き、依頼された会場へ向かった。
会場に着くと、なんと三十人以上の人が集まっていた。未来は通常、初めて着付を習う人には5回のレッスンと2回の復習レッスンで綺麗に自装出来るところまで教える。それを2回分ずつをまとめて、3回に分けてレッスンをすることにした。未来の着付の特徴は、出来るだけ工程を省きながらもそれさえきちんと言われた通りやれば、本当に美容室で着付けてもらう以上に綺麗に着れるし、とても楽な着心地なのだ。教えるということが昔から得意な未来のレッスンは楽しく、人々を魅了した。
日本人もアメリカ人も着物を着るということを本当に楽しんでくれていることに未来は感動した。
最終日はいよいよパーティーだ。未来は粋な黒の着物に合わせて、オードリーへプバーンの帯を締め、レーシーなインナーを首元にあしらい、黒のハイヒールに真っ赤な髪と爪、そしてハットをかぶり、なんともお洒落な着こなしだ。オードリーヘプバーンの帯なんかは売ってるわけもなく、たまたま見つけたクッションを和裁のできる友達に頼んで帯に仕立ててもらったのだ。裁縫屋のおばあちゃんのもとで幼少期を過ごし、父親もハイブランドの下請けで洋服を作る会社を経営しているような環境で育った未来は、独特のセンスと着たいものが売ってないなら作れば良いという発想を持っている。
そんな未来の姿を見たニューヨーカーたちは、その個性的ないでたちを称賛し、一目を置いた。着付をただ学ぶだけではなく、自分スタイルの着こなしをできるようになりたいからと、別のお客様からの依頼も来たのだ。
もちろん未来は滞在を延長することにした。それを小耳に挟んだまた別のゲストも着付け教室と撮影の際の着付けの依頼をしてきた。また未来は延長した。そうしたら、最初の依頼者がその次の小さめのお茶会にも来て欲しいと誘ってきた。そこで更に新しい人を紹介されて、着付を教えることになり、結局1週間の滞在予定は5週間まで延びたのだ。
「ああ、また日本にいる旦那は私のこと鉄砲玉って思うんだろうな、、」
こうして、未来のニューヨークでの仕事が、年間行事の一つになったのだ。
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