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たかが恋愛なんて①

なんとなく、すこしずれてきたのは感じていた。当たり前だと思う。たかが一個下ということで、色んなことが上手く回らない時期もある。それが、社会人1年目の彼女と学生の彼氏だったらなおさらそうだろう。起きる時間も、寝る時間も、使うお金も体力も違うのに、お互いに感情を共有しようとしてること自体が間違いなのかもしれない。だから、わたしは辛くなって、とりあえず初デートの思い出でも書けばなにかが良くなるんじゃないかと思い立って筆をとった。

わたしと彼が出会ったのはサークルの合宿だった。わたしがまだ大学2年生で、彼が1年生の時だから、そのときは年下と恋人になるなんて微塵も思ってもなかった。不思議なもので、わたしはそれまで付き合った人とは初対面の時点で、この人と付き合うなあ、と予測していた。いつも、はじまりは直感だった。でも、彼と会ったときは、そんな予感なんて全くしなかったのだ。このあとわたしたちは付き合うまでにおよそ半年以上かかった。実は、出会ってから2人で飲みに行ったり映画を観にいったりしていたのに(あと手を繋いだりもした)、なぜか発展しなかった。なかなかそんなスローな展開あるかい!と、昔の私ならつっこんでいるだろう。

付き合った日のデートは目黒川のお花見だった。東京のお花見は人見のようなものだな、なんてデートらしくないことを思った記憶がある。桜は、ひっそりと静かに咲くから美しいのだろう。なんだがすごい人の波と、屋台の多さに驚いた。桜とビールは似合うけど、桜とチーズトッポギは似合わないのに。なんだか変な組み合わせな屋台が多いなあなんて思いながら、すこし人ごみを抜けた路地の小さな居酒屋に入った。

そこは、ぎゅうっとした感じのお店で、隣の人との距離が近すぎるくらいだった。隣の人にぶつからないように気を使って飲みながら、彼はまだ敬語でわたしと話していた。"ねえ、先輩" 。その時の彼のわたしを呼ぶ声を思い出すと、うずうずする。"もう、先輩なんて呼び方やめてよ、呼び捨てでいいよ" 。そんな一言が言えなくてずっと我慢していた。私たちがなんだがぎこちない雰囲気なのを、察したのだろうか。お隣の男女2人組が話しかけてきた。"おふたりさん、楽しんでますか!"。 話をするうちに、この2人が昔の恋人同士だったということが分かった。今はもうお別れしてしまっているけれど、こうして2人で飲みにこれてるのいいですね、なんて話した記憶がある。"人生長いのよ。色々あるけど、人の出会いは大切にしなくちゃね" 。そう教えてくれた。更に、なんと最後のお会計の時に、彼らは私たちの分まで払ってくれた。しかしこれには理由があった。実は、私がトイレに行っている間に、彼が、「今日彼女に告白するつもりなんだ」とお二人に話したらしい。そしたら、応援するよ、と、奢ってくれたというというのだ。なんともまあかわいらしい話だ。のわりにそのあとなかなか告白してくれなくて、痺れを切らしたわたしから付き合うことを提案したのだ。懐かしいな。

そんなこんなで付き合うことになったわたしたちは、記念日には毎年目黒川の桜を見に行く。そして、このぎゅっとした居酒屋に寄るのだ。いつも思出だすのは、あのふたりの優しさと、彼がわたしを呼ぶ声だ。あのうずうずと、若さは取り戻せなくても、それでもわたしたちは確実に前に進んでいる。あの日に戻ったとしても、わたしは彼にはやく告白してよと急かすのだろう。



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