見出し画像

ガザとは何か

最近、学術系のコミュニティからガザへの送金リストが送られてきた。リストには現地のパレスチナ人の名前と、彼らが置かれている状況、具体的にいくら必要としているのか、身元確認が取れている金融機関があれば、その情報などが羅列されていた。
国連の支援が届かないため、SNSで直接見ず知らずの外国人に助けを求めているそうだ。彼らの多くは銀行口座を持たず、詐欺が混ざってもそれを調べることが現実的でないため自己責任で募金する。だからリストから募金者が納得できる人を選ぶ必要があるのだ。
どの人も命の危険が身近にあり緊急で支援を必要としている。この中から自分が助けたい人を選んで支援をしたり、資金を分散するにしても全く選択基準を持っていないため判断もできなかった。
そもそも昨年の10月にガザ地区から、イスラエルに向かって一斉に奇襲攻撃が行われたため、イスラエルはそれに応戦し多くの人命が失われたことは知っていたが、それと送られてきたパレスチナ人のリストがどうしても結びつかなかったのもある。
だから、ガザで起こっていることが知りたくて岡真理さんの本を購入した。

本を読む前に、夫の勧めでこの動画も見てみた。
最初に”強く”お伝えせねばならないのが、彼の動画の説明を見て理解できるのはイスラエルとパレスチナをめぐる諸外国の関係までで、ハマスが過激派組織であることや、これを「戦争状態」と呼んでしまっていることは間違いで、タイトルにある「なぜパレスチナ人はイスラエルに攻撃を仕掛けたのか」については「わからない」と説明している。ガザ地区の問題の一番大事なところが抜け落ちている。

しかし、今後の国際状況を理解にする一助にはなると思われるので、中東の戦争の歴史はさっぱりわからないと思っている人は「この動画は最も大事な説明を欠いている」と理解した上で見るのは良いと思う。

2023年の10月7日の奇襲攻撃を10月10日にすぐ報じたNHKの記事では、この攻撃が「テロである」とハマスを非難したイスラエルの首相とG7の5つの国の主張と、「ガザの多くのパレスチナ人がイスラエル軍に殺されてきた」としてイスラエルを非難したアラブ連盟と日本の中東政治の識者の相反する意見を淡々と並べて掲載している。
現在は当時よりもっと多くのことがわかり、後者であるアラブ連盟や日本の識者の見解が正しいことが明らかになってきている。最初は「ハマスがテロ攻撃をしかけた」と非難していた国の一部も意見を翻している。

この問題の一番大切な点は、これは戦争などではなく、イスラエルに住むユダヤ人がイスラエル建国以来続けているパレスチナ人への一方的なジェノサイドに他ならないということ。戦争や民族紛争だと思っていると「どっちもどっちだよね」「戦争は、正義と正義のぶつかりあい」なんて言葉が出てくることになる。それがいかほど恥ずかしいことか著者も指摘している。

日本に住むパレスチナ人のインタビューが本に収録されているが、その中には未だにパレスチナ人が犠牲者であり、テトリストではないこと、他国を侵略しているわけでないことを”証明”しなければならないことに胸が潰れる思いだと応えている。それはどれだけしんどいことなのだろう。
ある日自分がずっと住んでいた土地に体の大きな人間がやってきて、自分たちは狭い地域に閉じ込められ、生きるか死ぬかのギリギリの劣悪な環境に置かれてしまう。非暴力的に訴えても受け入れられない。
ある日殴られ続けているうちに振り払った手が、大きな人間にあたったことでより殴られてしまう。助けて!と叫ぶと、世界中の人が「どっちもどっちじゃない、喧嘩両成敗、自業自得」と通り過ぎてしまう。想像しただけで胸が潰れそうな思いになる。

苦しさをこらえながら本を読んでいると、夫に何を読んでいるの?と聞かれ岡真理さんの本だと応えた。読んでみてどう?と問われたので、「世界は私が思っていたよりずっと悪い。イスラエルが大嫌いになった」と答えた。
すると夫は「戦争はさ、互いに言い分があるから沢山の本を読むといいよ」と言った。あなたはこの本を読んだの?と問い返すと読んだことがないという。そうであれば読んだほうがいい、と返すと、夫が知っている中東の歴史を話し始めたので

「私はこの本の感想を聞かれたから答えただけで、私の感想に疑問があって議論したいなら、まずは同じ本を読んでからにして欲しい。本を読むつもりもないなら、この本に関しての私の感想など求めないで欲しい。私の言葉を受け入れる用意のない人に説明する意味が見いだせない」

結構きっぱりとそう伝えたので、夫はちょっとびっくりしたようで、その場でKindleに本をダウンロードして読み始めた。
翌朝までに読み終えた夫は開口一番にこう言った。
「昨日はごめんね。僕の中で世界公正仮説が働いてしまったのかもしれない。世界がそんなにひどいと、とても生きていかれないとそう思ったから、君の意見が間違っていて欲しいと思って、否定したのだと思う」

実は夫に読書感想を否定された同じ夜に、別の男友達からも今なんの本を読んでいるの?と問われて同じように答えて「戦争はさ、正しさと正しさのぶつかり合いだからさ」という御高説を賜り、彼が昔むさぼるように読んだ民族紛争の本の自分の結論を私にご披露してくれた。
「ようは銃を降ろせってこと」
「…説明するのも面倒だから、本を読んでから話をしてよ。疲れる」

夫も友人も大変私に優しく好意的な対応をしてくれる人々だけど、マンスプはどうもそうしたこととかかわらず発動するものらしい。ふむ。
情報がよく届く人と届かない人がいる。何かを伝えたい時、発信側の力量より、情報の受け取り手の力量のほうがそれを大きく左右することがわかってきている。この本はとっても大事で多くの日本人が読むべき本だと思うが、どうも私がこの本の大事さを伝えるには、まずは私にかかるバイアスを払拭する労力を要するようだ。そんな時私は、バイアスをかけたほうが自主的に外してくれよ、といつも思うのだ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?