otherwise ≠ それ以外の場合は
産業翻訳の世界ではどこのエージェントもクラウドや自前のCATツールを使うのが当たり前になってきたこの時代、ワタシもご多分にもれず、エージェント指定のCATをいろいろ使って作業している。
個人でやっていれば自分の訳文しか見なくてすむけれども、複数人で分担していると、どうしても他人の訳文をTMで見ることになる。ああこの訳語はいいなと思うことはまれで、えー、この訳語そのまま使わにゃいかんのかヤだなあ、でも既訳は一字たりともいじるなっていうソークラ様のお達しだしなあ、と思いながら作業を進めることの方が多い。
(100%マッチでも必要に応じて有償で修正するように指示してくれるエージェント様ありがとうございます)
気になる訳語はいくつかあるけれども、その中で最近とても目に付くのは、「otherwise」が機械的に「それ以外の場合は」と訳されているもの。確かに辞書を引けばそう書いてある。けれども、このふたつは完全にイコールではない。
具体的にいうと、こんな原文の場合だ。
The options are A, B and C. If you choose A, click "Yes." Otherwise, click "No."
この場合は選択肢がA、B、Cの3つある。で、「Aの場合はYesをクリック」し、「そうでなければNoをクリック」するということなら、「それ以外の場合」でいい。
一方、
The options are A and B. If you choose A, click "Yes." Otherwise, click "No."
この場合の選択肢はAとBの2つしかない。で、「Aの場合はYesをクリック」して、「そうでなければNoをクリック」だとすると、この場合のotherwiseは「それ以外の場合」ではなくて「Bの場合」しかありえない。
MTPEでない案件であってもしょっちゅう「それ以外の場合」に出くわすというのは、最近はこれがスタンダードになってしまっているのか、大元の翻訳がMTPEで、それがTMとして我々に提示されているのか、それとも他の翻訳者がこっそりMTに原文ぶち込んで仕事しているのか。
いちばんありそうなのはふたつ目だよなあ、だとしても前の人そこはちゃんと直しといてよと思いながら「Bの場合は」と修正するワタシ(100%マッチはお金もらえないからいじらない)。んでこれを納品した後、レビュアーに「それ以外の場合は」て直されてたりしてな。あり得ない話じゃない。