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大海のフリーランス、魚礁を望む。

去る7月21日、われわれフリー翻訳者的一大イベント、翻訳フォーラム大オフが開催された。場所は吉祥寺ROCK JOINT GB。ライブハウスだ。学生時代に何度もこういうところに立ったワタシ的には懐かしい雰囲気の場所だが、翻訳関係のイベントの会場としてはまああまりない場所。ちなみにワタシが学生時代にお世話になったのは京都河原町の今はなきBIG BANG。

コロナ前は午前中から夕方にかけて大学や業界関係のちゃんとした施設でシンポジウム、夕方からレストランとかの宴会場に移動して大オフという名のパーティーというのが定番だったんだが、コロナ禍でそれが一切できなくなり、その後はオンラインでのシンポジウムに移行した。そしてコロナが五類になり、感染もノーコントロールではなくなってきて、そろそろ対面でやりたいねということで開催されたのが今回のオフということらしい。らしい、というのはワタシは単に古株なだけで運営にはノータッチだからだ。しかしこのタイミングで感染力の強い変異株が出てくるとか、ホントやめてほしい。

で、今回のイベントは最初の1時間半で4名の幹事によるトークショー。先月にオンラインで行われたシンポジウム「AI時代の翻訳」の振り返りと質問コーナーで、諸事情によりシンポを見られなかったワタシ的には、あ、そういう話をしたのねという感じで納得しながら聞いた。そして30分間のセットチェンジ(ライブハウスだからね)を経て、3時間の大オフという流れ。

会場を見渡すと、何人か過去の大オフでお目にかかった人はいるとはいえ、ほとんどが知らない顔。業界の新陳代謝は進んでいるのだなあ。そんな中、ワタシ(と相方)が大オフに顔を出し続けるのは、そうでもして刺激を受けないと現状維持に留まってしまうから、そしてどこの翻訳者団体にも所属していないので顔をつないでおかないといけないから。

いやまじな話、ここ最近案件のタイミングが悪くて、やりたくないと言ってはいけないんだろうが、自分のためにも業界のためにもならない案件を、ちょうど手が空いてるからって請けちゃったときに限って、その直後に美味しい、あるいはやりがいのある案件の打診があって、どうにも日程の都合がつかずに失注するということが続いている。その結果ストレスのたまる案件だけで毎日が埋まってしまって、コンディションによっては質も下がったりして、いろいろもやもやしているのだ。

条件の悪い案件を体よく断ろうと思ったら、いい案件で日々を埋めるしかない。いい案件だけを請けるためには質を上げて、いい営業をするしかない。改めてその決意ができたという意味でも、刺激を受けにいってよかったと思う。

大オフには新顔の方も多くいらして、幹事が分野ごとに声かけをしてくれたおかげでいろいろな方とお話しできた。あと相方のことも大々的に紹介していただいてありがたきかな。プチ名刺お渡し会になってたのは笑ったけど。PCまわりでお困りの同業者の皆様、何かありましたらぜひご用命ください。

オフ中に新顔の方にも話したのだが、われわれがフォーラムに入った25年ほど前からしばらくは、今回のような大きな集まり以外にもしょっちゅうオフがあった。NIFTY-SERVEの翻訳フォーラムのRT(チャット)に夜な夜な集まり、たまに翻訳の話もするけどだいたいはたわいない与太話で、地方在住の誰かが仕事で上京する、逆に東京在住の誰かが地方へ行くという話になるとその場で迎撃オフが決まって、んでそのオフに10人とか20人とか集まっちゃう。近所で買い物中に「今からオフやるぞ」と呼び出されて、よれよれの普段着にドすっぴんで銀座のイタリアンに行ったこともあるw そんなことが毎週のように起きていて、よくみんなそんな暇(とお金)があったなあと、今思い返してもびっくりする。猿のようにオフをする、通称オフ猿とか言ってたよね。

NIFTYがテキストベースのパソコン通信をやめてしまったことで、そういうリアルタイムでのやりとりができなくなり、フォーラムというクローズドな場もなくなった。突発的なオフもできなくなって、気の合うメンバー同士で仕事と関係ないくっだらないおしゃべりをする機会もなくなった。くっだらないおしゃべりなんていらんがな、という向きもあろうが、そのおしゃべりの中で、誰それは何の分野が得意、この話題ならあの人に訊けば確実、みたいな有機的なつながりができて、そこから仕事につながることがけっこうあったのだ。ワタシ自身、そうやってフォーラムのメンバーから紹介してもらったクライアントも多い。

旧フォーラムのメンバーで今回来ていたのが幹事とその身内とわれわれだけというのも時代の移り変わりを表していて、業界的にはもちろん新しい人にどんどん入ってもらうのがいいんだが、一方では旧知の仲間と顔を合わせることがなくなっているのも寂しいっちゃ寂しい。いろいろなきっかけで業界を離れた人や亡くなられた人もけっこういる。もしかしたらもう会えなくなる人もいるかもしれないと考えると、ここらで一度、旧フォーラムのオフをやっておかないといけないかもな、と思ったりする。

一方、若手の人たちにもそういう場が必要なんじゃないかとも思う。団体に所属したり学校で仲間と勉強したりしている人も多いだろうが、そうはいってもみんなだいたい個人事業主で普段はひとりで仕事をするわけで、つとめて外に出て人と会わないと、どんどん世界が狭くなる(ワタシ自身何度もそれで悩んだ、というかキレかけた)。業界的な集まりとは別のぬる~っとした同業者との集まり、仕事を離れてただおしゃべりに興じて交友関係の厚みを増す機会も、個人事業主にとっては無駄ではない。普段は大海をひとりで泳ぎつつ、ときには魚礁で同じ種類や違う種類の仲間と戯れる、それが理想かもしれない。

しかしそんなことができるプラットフォーム、今あるかなあ。コロナ期にいろいろ出てきたリモート会議ツールならいけるかな。YouTubeのライブ配信のチャット欄を使うというのも考えたけど、どうだろうな。

会社員時代がファーストキャリア、フリー翻訳者がセカンドキャリアだとして、サードキャリアのことを少しずつ考え始めているワタシにも、フリーランス魚礁は必要な気がする。出かけるのめんどいとか化粧すんのヤだとか言ってないで、もっと外に出ろよと自分の尻をたたくことにしよう。あと最近サボりすぎのSNSもちょっとちゃんとしよう。発信しないと誰の目にも留まらないしね。

あ、あと、ばっかい語録のTシャツぜひ作ってくださいw>幹事どの

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