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【移住ノート】家を見に行く②「家主居住中」物件の良さとは

前回は目的地へ向かう道中の話で終わってしまいました。
ここからが実際のお家見学の話です。


おととしから数えて4軒目の内覧である。
1軒目は、庭だと思ってたところが隣の敷地だった。
2軒目は、土地の問題でふりだしに戻った。
3軒目は、リフォーム費用が非常に高くつくことがわかり断念。
でも今回は決まる気がするんだ。今度こそ、決めよう。

今回のお家は、まだ家主さんが居住中。見せてもらうのはちょっと気がひける。しっかり見られるか自信もない。しかし、ここはチャンスを逃すまいと見学をお願いした。

私は何よりこのお家の「たたずまい」に惚れていた。
ほどよい日陰を作ってくれそうなシンボルツリーや庭の植物たち。すっきりした屋根。建物のバランス。
環境もほどよい。山や緑がたっぷり目に入る。かといって散歩してもたぶん熊には出会わない。

この家なら幸福度が上がりそう。直感的に気に入ってしまった。

仲介業者の担当の方と待ち合わせ、軽く話をする。
私たちが知りたかった「家主さんがなぜ家を売るのか」、向こうが知りたかった「私たちの本気度」をお互い確認してから現地へ。

家主さん(仮名「山田さん」とします)はニコニコしながらスリッパみたいなサンダルで雪の残る庭へ出てきてくれた。「いやいや遠くからどうも~」明るい人だ。快く案内しながら色々説明してくれる。不動産屋はいらないくらいだ。いや、不動産屋には決してできない話をしてくれるのだ。

「子ども3人いたからねえ。小さいときはここで遊びまわってた」とか「ここでバーベキューなんかもしてね」とか「退職して暇なもんだから色々作ったのさ」と、お手製のバラ棚やベンチを見せてくれる。
「いらなきゃ撤去していいからさあ」
いえ!撤去しません!!それがいいんです!!
庭に小さな祠のようなものがある。前住んでいた家から持ってきたものだという。
「こういうのもさあ、気持ち悪かったらとっぱらっちゃっていいからさ」
いえ!とんでもない!なんの神様かはわからんが、わからなくてもとりあえず頭を下げるのが日本人の謙虚な心。ありがたく拝ませてもらいます!!
庭で初詣ができるぞ。
奥様の嫁入り道具の立派な桐箪笥。「これも持ってけねえから捨てるしかねえんだ」
待って!捨てないで!ぜひ使わせてください!使わなくても、愛でたいからとっといて!!
(すっかり家を買ったつもりになってる我々)


最近、中古物件を買い取ってリフォームしてピカピカにして再販する業者がある。それは需要があるわけで立派なビジネスだと思うのだが、「何もそこまで...」というのもよく見かける。特に外構。花も木も石も何もかも取っ払って、まるでブルドーザーが通った後のようにツルッツルになった庭を見ると泣けてくる。

前に見た物件がそうだった。リフォーム前はほどよく庭木のゾーンがあったのに、リフォーム後はなんにもなくなっていた。
そこに何か残っているから、これを足そうとかここをもうちょっとこうしようとかいろいろ考えていくのが楽しいのに、あんなに「無」になったら何からはじめていいのか、わからない。

田舎の古いお家といえば二間続きの和室に広縁。阿佐ヶ谷姉妹が座ってお茶飲んでるような。これは私の大好物。
それがまとめてフローリングのLDKに変身する。たしかに広くて明るくて気持ちがいい。でも、和室と広縁の間にあった素敵な欄間は残してもいいのになあ。味があるのになあ。なんて思ったりもする。
広縁についていた、いい感じの木組みの照明器具が、無造作にもぎ取られ外に転がっていた。「これ捨てちゃうんですか?」「そうですね」
もったいないなあ...
2階の和室では、立派な鶴が描かれた襖が外され、立てかけてあった。「これ捨てちゃうんですか?」「そうですね」
もったいないなあ...

私に大型のバンと大きい倉庫があれば!私に大工技術があれば!私に人脈と経営能力があれば!こういう改築現場をめぐって捨てられるモノたちを引き取って、再生して使ったり売ったりするのに!

そんな風に悶々としていた私だったので、今回の内覧はうれしくてしょうがなかった。

「リフォームしてピカピカにして売る」のは多分、先住者の気配や生活感を消すためだろう。それは理解できる。私だって、賃貸アパートに住むとしたら前の人のパンツ(そんなもん残るか!)や歯ブラシが残っていたらいやだなと思う。
今回の内覧だって、もし家主さんが退去した後だったら、天井のシミやお風呂の古さが気になっていたかもしれない。「直してから入居したい」と思ったかもしれない。

「家主居住中」の良さは、家主さんと会えることだと思う。その人を知り、そのストーリーを引き継げることだと思う。そしていろんなお宝も!
その家に愛着が持てることだと思う。運命を感じられることだと思う。

天井のシミを見ても、「オバケ出そう」じゃなくて「ああ、あそこは前に雨漏りしたけど山田さんが直してくれたから大丈夫」と思える。
調子の悪いとこも、「絶対直さなきゃ」じゃなくて「そのうち少しずつ直していこう」と思える。
引き継いで、育てていこうと思える。

それに、
ご近所さんはどんな人か。雪かきはどんな風にしていたか。おいしい食堂はどこか。いろんな話が聞ける。

それに、
すぐ住める。だって実際いま人が住んでるんだから。

「家主居住中」物件はいいことだらけです。

ま、そう思えるのはひとえに山田さんのお人柄のおかげですけどね。


最後まで読んでいただいてありがとうございました。
ではまた。


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