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伸びしろのある家

とうとう移住する家が決まりました。
好みが違いすぎる夫と私にとって、奇跡と言っていいでしょう。
お互いが納得する物件によくぞ巡り会えた。

契約を済ませ、引渡し。
家主さんが退去して空になった「新居」へ、いざ入場。そこで待っていたのは…


カメムシたちによる大歓迎。
家具やモノがなくなってあらわになる、想定以上の汚れ、劣化。

一度は倒れそうになりました。

しかもその日、初めて家に泊まる…

だいたい、無謀なんですよ。
初めて行って、いきなり泊まろうなんて。
布団を持って行けば済むと言う問題ではない。

必死で掃除をしました。
まずは家中にばらまかれているカメムシ(9割は御陀仏)を集めて、庭へ自然葬。
どうしたらこうなるんだ?この前まで人が住んでいた家なのに。巣でもあるの?

掃除はどこから手をつけてよいのかわからない。とにかく今夜寝る場所の安全確保から。
でも部屋の隅なんてあまり見ちゃいけない。
見えるけど、見ちゃいけない。

「こんな〜はずじゃあ〜なかったよねえ〜」というトシちゃんのあの曲(昭和生まれにしかわからない)が頭の中に流れるのを必死に打ち消しながら布団に入る。

こうなると、家の広さも不安を煽る。夜中に起きてトイレに行きたくないなあ。廊下にカメムシいたらいやだなあ。

やっぱり、もっとコンパクトな家がよかったんじゃないか?お客さんが泊まる部屋なんかなくてもいいから、全部見渡せるくらいのサイズの方が安心感があったかもしれない。

今までに見た、他の物件が目に浮かぶ。
あの総リフォーム済みの物件にしておけば、こんなに不安な夜を過ごすことはなかっただろうに。清潔で、すっきりした部屋で爽やかな朝を迎えていただろう。朝ごはんはどうしようかな、なんてワクワク考えていただろう。ブルドーザーが通った後みたいなツルッツルの庭でも、また木や花を植えればいいことだ。


眠れるか?ここで?こんな気持ちで?

…結果、よく眠れました。
多分、疲れで。

でも目覚めてもまだ、うっかりするとトシちゃんの曲が聴こえてきます。

やっと夫婦とも気に入る物件に出会い、しかも家主さんがいい人だからすぐ決めちゃったけど、今思えば契約前に全然細かいところを見てなかった。
家主居住中の物件はいいよ〜、なんて書いたけど、このザマよ。

いや、家主居住中のメリットは絶対ある。
でも一方で、やはり細かいところはチェックしづらい。私は目が悪いし、さすがにキッチンの扉の中やサッシの隅々まで見るわけにいかないし。

これは思ってたよりリフォームにお金と時間がかかるかもしれない。
ひょっとして毎日カメムシを拾う生活かもしれない。
すぐに新生活スタートできないかもしれない。
というか、新生活に二の足を踏んでいる自分…もう引き返せないのに。


しかしですね。
今の私は希望に燃えているのです。
今、楽しくてしょうがないんです。
ウッキウキです。

どうやってまた前を向いたかと言うと…

まずは、掃除。
ショックで思わず取り替えの見積を頼んでしまった、サッシ。

汚れなのかカビなのか劣化なのかよくわからないけど、とりあえず磨いてみました。

するとですね。蘇ったのです。
多分30年前の姿に。
サッシ再生です!ピッカピカです!

私の秘密兵器、重曹のおかげです。
重曹と重曹スプレーとウェットティッシュとマイナスドライバーで、サッシもゴムのパッキンの黒いシミも、ほぼ取れました。

重曹はすごいんですよ。汚れの取れ方が気持ちいいし、変な匂いもしないし、大好きです。おすすめです。
但し、木には使っちゃダメですよ。傷がつきます。

諦めたサッシの再生。
これだけでまず希望が湧いてきました。

「掃除をすると気運が上がる」とよく言うけど、ほんとかも。

それから、リフォームやDIYの動画を見まくった結果、自分の手でなんとかできることが結構あることがわかりました。
ドアは塗り替える。壁も塗る。床も張る。
できるだけ自然な素材を使って。

こうなるともうワクワクが止まりません。
今すぐにでも行って、あの暗い色のドアに白いペンキを塗りたい。
今、心だけはDIYの鬼です。
実績ゼロですけど。

悩みを抜け出す鉄則その一。
悩んだら、とにかく動いてみる。
そうすると何かが動き出す。何かが生まれる。

中腰の作業でギックリ腰を発症する私。
水分不足で痛風発作を発症する夫。
まあまあヨボヨボな二人です。
なかなか思うようなスピードでは進みませんが、希望は見えています。

そんな中、天気の良い日に近くの高原へ行ってみました。車で30分ほど走り、そこからロープウェイに乗って上まで上がります。

なんとまあ気持ちのよいこと。キラキラ輝く新緑と、遠くにそびえる雪山。心が洗われます。

そうでした。私はこの雪山が見える生活に魅力を感じているのです。

ロープウェイ乗り場も山頂も、GWというのにほとんど人がいません。痛風でびっこをひく夫に肩を貸しながら展望台まで行きます。

私たちがこれから住もうとしている町が見下ろせます。

ウグイスの声。目の前を飛び交うツバメ。

雪解け水で冷やしたお茶は冷たくて美味しい。

ああ、やっぱりここに来てよかった。
雪山に囲まれ、空気が澄むこの町に住むんだ。

家の中でカメムシ100匹見つけた?それがなんだ?
家の間取りがどうとか、ドアの色がどうとか、そんなことはいい。
私の居場所は家だけじゃない。この町だ。

わざわざ遠い町へ移住して、ずっと家の中に閉じこもろうとしてたの?私は。
誰とも会わずに?
違うでしょ?

自然とつながる暮らしがしたかったんでしょ?

ちゃんと五感を使う暮らしがしたかったんでしょ?

「消費するだけの生活」から、「自分でつくる暮らし」にしたかったんでしょ?

そんなことを忘れて、自分の小さな城のことばかりで頭がいっぱいになっていたことに気付きました。

やはり自然って偉大だ。

悩んでる時って、たいていそこしか見えなくなってるんですよね。頭がガチガチになってる。

机の上では出ないアイディアも、散歩中にひらめいたりします。

悩みを抜け出す鉄則そのニ。 
一歩外へ出る。そこから離れる。
すると、俯瞰できる。自分のいた場所がいかに小さいかがわかる。頭のガチガチがほどける。

さてと初心にかえったところで。
この伸びしろだらけの家。自分の手でコツコツと楽しみながら育てていくのが本当に楽しみです。

あの総リフォーム済みの物件ではこの楽しみが得られなかったと思うと、すごく得した気分です。

いっときの快適さ、便利さ、速さ。もちろんそれが必要な場合もあるし、それはそれでいい。

でも、時間をかけて自分の思いを形にしていくことも、人生においてとても贅沢な楽しみのように感じます。

新たな楽しみを見つけた私たちです。
湿布と水分と痛み止めを携え、これから息長くDIYライフを楽しむ所存であります。

まだ実績ゼロですが!

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