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アニメ平家物語を解説する 5話

 ちょっと年度末バタバタしておりまして、更新が送れました。今日は第五話「橋合戦」ですね。さて、前回の記事はこちら。

 冒頭、小松家の燈籠から始まるのが、重盛を連想させて寂しいですね。

 琵琶の目の色が変わったのが話題になり、デリカシーどこ置いてきた? って感じにからかった資盛が琵琶に手ひどくやられます。
 維盛と清経が慌てて止めに入ったところで嫌味っぽい宗盛登場。重盛がいなくなって明らかに嬉しそうですね……。最後の「ぷぴぃ」っていう効果音がかわいいですね。

 赤ちゃんの安徳天皇と遊ぶ琵琶のところに知盛登場。
 知盛に関しては、なかなか斬新なキャラ設定ですね。個人的なイメージでは、知盛は兄弟で一番落ち着いていて、文官的性格というか軍師型な感じだったので……。明るくておっちょこちょい(?)な、元気な知盛が壇の浦までどのように活躍するのか注目です。壇の浦のお掃除シーンとかで生かされるのかなと予想しておきます
 知盛の妻は殖子の産んだ守貞親王の乳母をしています。宮尾登美子作の「平家物語」では守貞親王や知盛が結構しっかり描かれていて、私の知盛像は宮尾版「平家」のイメージが強いかもしれません。余談ですが宮尾版「平家」では維盛が相当ナヨナヨしいです。
 知盛と重衡が宗盛の補佐についた話。実際、平家は宗盛飛ばして知盛が継いでおいた方が安定した気がするんですが、知盛自体が真面目で高潔なタイプなのでそれをよしとしなかったんでしょうね。このことを考えるとき、『三国志』で劉備が死ぬときに、「息子の劉禅がダメなら諸葛亮がこの国を治めてくれ」と遺言するけど、諸葛亮はそれを良しとしなかった話を思い出してしまいます。まあ清盛はそんな遺言しませんでしたが……兄弟で頑張るやろくらいに思ってたんでしょうかね。

 重盛が亡くなって引きこもる清盛の描写が悲しいですね。口をぽかんと開けて海を見て、後ろに燈籠が並んでいるのがまた切ない。

 そんな清盛の様子を無邪気……いや、邪気たっぷりに喜ぶ後白河法皇。
 維盛が受け継ぐはずだった重盛の領地を没収、盛子の受け継いだ藤原家の領地も没収。それを宗盛が報告に行くと、清盛はブチギレ。しかと立ち上がって復活します。ここのエピソードは、『平家物語』巻3「法印問答」に書かれています。
 ここの玄田さんの演技がすごいですね。前半のたぬき親父感から、息子を亡くして気力ない老人になり、そこからの傑物清盛復活の変化に感動しました。

 そして清盛、ここから元気に貴族をお掃除。法皇も鳥羽離宮に幽閉。重盛が生きていたら許さなかったでしょうね……。この行いで平家のヘイトがMAXに高まったような気もします。『平家物語』では「法印問答」に続く巻3の「大臣流罪」「行隆之沙汰」「法皇被流」の章段あたりの話になります。後白河法皇が悔しさで泣いてますが、『平家物語』(「法皇被流」)でも泣いてます。
 安徳天皇が正式に即位して、高倉天皇も一緒に厳島神社に行くのは巻4「厳島御幸」の話。
 ちなみにこの辺の会議などの集まりで維盛や資盛が入れてもらってないのは、悪意があってハブられているわけでも、維盛が引きこもってるわけでもなくて、重盛の喪中だからです。平家は貴族的に過ごしてたので、喪中とかも重視してました。親が死ぬと重服と言ってちょっと長めの喪を過ごさないといけないので、平家の大事な時期に政務に携われなかったのも、小松家の子息たちが孤立していった原因の一つでもあると思います。

 重盛邸で笛を吹く重衡。笛が上手だということで、清経が憧れているのがかわいいですね。重衡、宗盛から逃げたいとさらっと愚痴っていく。小松家の子息なら宗盛にチクることもあるまいという考えでしょうかね。みんな宗盛好きじゃないもんね……。わかる……。
 でも支持されてたのは、やっぱなんか愛嬌とかあったんですかね。清盛的に、出来の悪い子ほどかわいいみたいな感じだったんでしょうか……。口答えせずにいう通りにしてそうだし。

 さて、重衡の口から宗盛が仲綱の名馬を所望した話が語られます。これは『平家物語』巻4「競」にある話。『平家物語』では、宗盛のこの所業を見て、人々は重盛のことを思い偲んだと書かれています。アニメでも仲綱が泣きながら言ってましたね。死してなお讃えられる重盛。
 鵺退治と和歌大好きな源氏で有名な源頼政の嫡男が仲綱です。元々、頼政は平治の乱で源氏方につかず平家についた珍しい源氏なんですよね。もっと大事にしてやらんと……。
 宗盛、馬のお尻に仲綱って焼印押すのは普通に馬が可哀想なのでやめてやってほしい。あと、『平家物語』には続きがあって、頼政の家の侍の渡辺競(きおう)という人が、宗盛んちの馬にやり返してるんですよ。宗盛の馬屋に侵入して、宗盛の名馬のたてがみと尻尾の毛を切って、「平の宗盛入道(馬の毛を切ったから)」という焼印を押したらしい。宗盛激おこで「競を生捕りにしろ! あいつノコギリで首切ったる!!」と物騒なことを言ってます。こっちも馬がかわいそうすぎる。子供じみた喧嘩に馬を巻き込まないで……
 この話、そんな感じでまあまあ後味悪いし、宗盛ってホント馬鹿〜って感じの逸話なんですけど、アニメですごい楽しそうにしてたのは吹っ切ってて、悔しいけどもはや可愛かった。声優さんがいいですね……。

 琵琶をからかう資盛に「そんなんじゃ女の子にモテないぞ」的なことをいう重衡さすがですね!!! ここの重衡、色男・モテる男って感じでめちゃめちゃいいです。琵琶は困ってましたが。
 維盛は顔が良いのでモテてましたが、重衡は顔も性格もおモテになっていたそうで、『平家公達草紙』もですが、『平家物語』でも女の人との艶っぽいエピソードが多いんですよ。それでいて奥さんとも仲がいいんだからこの人は。一応公式の記録では子どもはいなかったようですが、どうなんでしょうね。

 仲綱の件をきっかけに、以仁王が立ち上がりますが、早々に平家方にリークされます。頼政が以仁王を説得するのが書かれているのは『平家物語』巻4「源氏揃」の章段です。ちなみに『平家物語』で以仁王は「高倉宮」って書いてあることも多いので、慣れてないと「高倉上皇」と混同しそうになります。以仁王って書いてくれ。
 ここ、以仁王が女装して逃げますね。これはちょっと前後して先ほどの「競」の一つ前のエピソード、巻4の「信連」にあたります。以仁王、女装しながら溝を飛び越えたときの所作が「女のくせにはしたない」と怪しまれたという話があります。女装レベルが低い宮様。

 以仁王が園城寺から脱出するのは巻4「大衆揃」にあります。
 この辺の寺との力関係がちょっと私の苦手とする分野なので落ちがあるかもしれませんが……。地図でルートを示してくれているのは助かりますね。
 六度も落馬する以仁王かわいそう。ストレスもあるでしょうね。ちなみに六度も落馬した件は『平家物語』では巻4「橋合戦(タイトル回収)」の冒頭に書かれています。

 知盛、重衡に出立の命令を出し、「それから……」とちょっと笑顔で言う清盛。維盛も指名されましたね。この時から、維盛にも実戦を経験させて、重盛の家もちゃんとケアしてあげようという清盛の気遣い的なものが見える気がします。
 以仁王の乱に維盛が参加したのは史実であり、「延慶本」や「長門本」という読み本系の『平家物語』には維盛の名前があるのですが、今解説のベースにしている「覚一本」の平家出陣者リストに維盛の名前はないんですよー。だから、ここで維盛にフォーカスしてくれているアニメ非常にありがたい。
 おそらく「覚一本」は意図的に、この先にある「富士川の合戦」を維盛の全くの初陣ぽく見せようとしていたのかなと思いますね。

 というわけで維盛の出立シーン。薄化粧してるのが非常にいいですねー!!!!
 平家の武士たちは、鎧を着ていても薄化粧にお歯黒をしていた、と言うのが一の谷の戦いの際の『平家物語』の描写にあります。(ちなみに巻9「忠度最期」と「敦盛最期」です)
 琵琶ちゃんが琵琶を弾いているときに、「うるさくて眠れないよ」と言う資盛。多分これ、維盛が心配で寝れなかったのを琵琶のせいにしましたね。かわいいですね。

 橋合戦の弾き語り、勢いや臨場感があってすごかった。めちゃカッコよかったので確認したんですが、ここで読み上げられているテキストは「覚一本」のものではなかったです。手元に他の『平家物語』がないので確認できてないのですが、橋合戦に気合が入った描写は、源平盛衰記とかかなー。

 矢切の但馬(五智院の但馬)、アニメで見るとやたらかっこいいですね。
 アニメでは出てこなかったけど、「橋合戦」には変な人が出てくるんですよ。武装解除して橋桁走り回ってた僧兵(浄妙房明秀)とか、読んでて「???」ってなりました。一種の威圧なんですかね。舐めプというか……。

 川を渡ることを提案する重衡。馬を繋ぐ案は、『平家物語』では足利忠綱という若武者が「馬いかだ」として提案し、知盛が採用したという形になっています。史実ではなく創作という指摘もあるらしいです。
 重衡はアニメではブレーンみたいな役割として描かれていますね。維盛のメンタルケアまでしてくれる重衡。
 維盛が川を渡っている途中、なぜか未来を見る。こんなところで富士川の負けフラグが……。維盛の目から涙が流れる描写で戦は終了。
 泣いてたけど、この戦は平家が勝ちました。勝ち戦なのに涙というのも、富士川だけに限らず、今後の平家が転がり落ちていくフラグっぽい感じがします。

 重衡といえば東大寺と興福寺を焼いちゃうのが有名ですが、まさかの園城寺も焼いていたという。
 戦のショックで泣いてしまう維盛。「源氏もこれだけやったらおそれをなすだろうから、これ以降はそうそう戦も起こらぬ」と励ます、というか、自分に言い聞かせているような重衡。
 むしろここから始まるんだよなあ……。

 徳子は、殖子に二人めの子が生まれたことで静かに悲しんでいます。ここで語られる高倉上皇の紅葉の話は『平家物語』の巻6「紅葉」にある話です。これは重盛の燈籠エピソードと同じで高倉上皇が死んだ後の「生前の高倉天皇をご覧ください」コーナーです。相変わらず上皇様のお声が雅で大好きでした。
 徳子の「許すの」という気持ちが切ないですね。おとうと重盛に救いを求める琵琶。お父は言葉を返してくれなかったけど重盛は返事してくれたのが、幼い頃に一緒に過ごしたお父と、少し成長してから関わっていた重盛との差なんでしょうかね。

 最後は悪夢にうなされて起き、泣いてしまう維盛。
 トラウマになっとる……。
 私の個人的な解釈では、この頃の維盛は「やったるぞ!!!」という若武者らしい勝ち気に溢れてた頃かなと思ってたんですが、「優しい維盛」の描写が非常に寄り添って描かれている感じがして好意的だなと思います。

 はい、ここからは今日の維盛コーナーです。本編の方でも触れてるので重複している箇所もありますが、流してやってください。

・琵琶の目の色が変わっている指摘からの喧嘩仲裁
 一番先に「琵琶は父上の片目を受け継いだのかもしれないね」と好意的な感じで言っているのが良いですね。
 飛び降りた琵琶を追って、自分も飛び降りるとこアクティブでかっこいいですね!! 気が弱くてもオロオロしてないで、すべきことはするというのがこのアニメの維盛の人物像なわけです。好き。

・以仁王の乱に出立する
 本編でも書きましたが、薄化粧しているのがいいですね!!
 鎧の下の若草色のお召し物が若武者らしくて大変良いです。着ている鎧の色はピンクベースで可愛いんですが、胸の模様は桜でしょうか?
 維盛のあだ名である「桜梅少将」の桜がベースになっているのなら最高ですね!!
 ここでは(清経の)お母さんに見送られていますが、先に妻子ともバイバイしたんでしょうかね。維盛をからかう資盛は、和ませようとしたんでしょうが、まだ戦に関する危機感や現実味が薄いという感じですね。一方維盛はちょっと浮かない顔をしているのが、少し前から覚悟していたことを伺わせます。資盛の軽口に何も返せないところが、これからの戦にナイーブになってる感じが出ています。微笑みを絶やさなかったのは、母を心配させまいとする気遣いでしょう。

・合戦中
 矢切の但馬の勇ましい描写のあと、矢を射かけようとするも躊躇い、おろしてしまう維盛。まだ戦に対する覚悟ができていないのがわかります。
 負傷者のそばにいて「気を確かに」と声をかけますが、これは心から気遣っているというよりは、「自分は負傷者についている」というアピールって感じがして、ちょっとヘタレっぽいところ。慣れてないから仕方ないよね! 維盛が声をかけることで救われる命もあります。(推し全肯定bot)
 呆然と戦の様子を見ているところに、重衡が来て肩を支えてくれます。叔父にメンタルケアをしてもらっている。
 流れそうになる人を助けてあげてる力があるとこいいです。武士だから、優雅にしているようでちゃんと鍛えてるんだよね……。
 ちょっとした未来視ができてしまうのは重盛の遺伝なんですかね。めちゃくちゃはっきり富士川の予知してたんですが。

・清盛の前で
 祖父の顔も見ることができず、心ここに在らず状態。
 重衡が寺を焼き討ちしたことも含めて、傷ついて泣いてしまうところ……泣かないで……。戦としては本当に最初でしかも勝ち戦なのに、最初からこの調子では先が不安だな、と思わせる場面でしたね。がんばったねって言ってあげたい。

・悪夢
 花びらまみれの髑髏の悪夢を見て泣く維盛。
 すごく比喩的な感じですが、ちょっと今は読み解けなかった。積み重なっている死体に花びら……沙羅双樹ですかね……。なんでしゃれこうべかって言えば、当時は首を切って持って帰りますから、その印象でしょうね。
 例えば戦慣れしている清盛だと、あの山も「わしの手柄の山」に見えるのかもしれません。維盛から見たら、生きていた人の痕跡であり、いずれ自分もそうなるかもしれない不吉なものってイメージなのかもしれません。

 と、いうわけで今回はここまで!
 ちょっと苦手分野の寺関係で漏れがある気がしているのですが、主要な場面については押さえたかなと思います。

 来週は6話。だんだん戦が激しくなってきましたね。
 同時進行で富士川の解説記事もコツコツ書いているので、早めに完成できるように頑張りたいと思います。

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