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公任さん、行成に失言する

 今日は公任さんの失言の巻。失言だけでシリーズ化できるくらい失言している貴族、それが公任さん。

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 というわけで、冠を叩き落とされても冷静な男行成(※諸説あり)が悔しがったエピソードでした。
 本当に四納言で蹴鞠してたんなら、仲良いねあなた方って気持ち……。でも当時の貴族的には社交のうちの一つだったのかも。現代で言うとゴルフみたいな。
 蹴鞠の一般的なプレイ人数は6人から8人だそうですが、最低人数は4人とのことなので、一応四納言だけで蹴鞠はできます。後で原文も載せていますが、今回はこの四人だけで蹴鞠をやったという前提で進めています。 

 行成のお父さん、義孝は行成が物心つく前くらいに亡くなっています。若くして死んでしまったので、当然大臣などにつくこともなく……。
 ただ、行成のおじいさん伊尹(一見イイ、って読んでしまいそうになるけどこれただ又はこれまさと読みます)は太政大臣まで出世しています。だから行成も、「父が短命でなければきっと高位についていただろうに」と悔しがったわけですね。
 もし冗談だとしても、どう考えてもお父さんが早世している人間に対して言うべきではない。

 公任さんセリフのテンションは私の想像です。嫌味に言わせるか、当然みたいな顔して言わせるか、あっけらかんと言わせるか迷ったんですけど、この人失言は多いけどあとで反省することもちょいちょいあるので、多分悪気ないんだろうなと思います。というわけで、あっけらかんとした感じにしました。
 公任さんは行成とも普通に仲が良かった……少なくとも仲は悪くなかったと思うので、戯れのつもりで言ったような気はしてます。直前に諍いがあったとかなら分かりませんけど、そういったことは書いてないので分かりませんね。
 でも、言葉の中に、「俺の方が家柄が上だし〜」と、行成を若干ナメてるところは見受けられますね。確かに行成は四納言の中では若輩者だし、ちょっと立場は弱かったのかもしれない。

 原文では、公任さんのセリフと行成の反応以外は書いてないんですが、多分、行成本人以上に斉信と俊賢がドン引きしてたんじゃないでしょうか。もしかしたら公任さんに合わせて、もしくは冗談として流れるようにちょっと笑ったり茶化したりしたかもしれないけど、何にも書いてないと言うことは、なんか、固まってたんじゃないかなと。特に、俊賢は行成と仲が良いし……個人的には無言の抗議みたいなことはしててほしい。
 他にも人がいたら、周囲の人も「ひえ」ってなったんじゃないでしょうか。でも公任さんはそれに気づいてないとも思う。

 ちなみに原文(十訓抄 第四)は短め。皐月のざっくり訳と共に参考に載せます。

一条天皇の御時、四納言と聞こえし人々、寄合て蹴鞠会ありけるに、懸りの外に鞠の落ちてありけるを、その中に、公任卿、「この鞠を大臣・大将の子ならざらむ人、取るべし」と言はれたりければ、行成卿、申されける、「短命こそくちをしけれ。少将、生きたらましかば、三公の位をば嫌はれざらまし」とのたまひたりけり。
これを、公任卿の非愛なるにてぞありける。
かの行成は摂政伊尹公の御子、少将義孝の御子なり。短命にして、とく失せたまひければ、大臣・大将にのぼらず。それを思はへて、公任卿、申さるるか。 

 一条天皇の治世、四納言と評判だった人々が集まって蹴鞠会をしていたときに、「懸り」の外に鞠が落ちていたのを、公任卿が「この鞠を大臣や大将の子じゃない人が取るべきだ」とおっしゃったので、行成卿が申し上げなさったことは、「父の短命こそ悔しいことよ。少将(父)がもし生きていたならば、太政大臣・左大臣・右大臣の三公の位にもついていただろうに」とおっしゃった。
 これは、公任卿の思いやりのなさである。
 かの行成は、摂政伊尹公のご子息である、少将義孝のご子息である。短命で、早くに亡くなってしまったので、大臣や大将の位までは昇進しなかった。それを思うことなく、公任卿は申されたのだろうか。


 文法的な話。「思はへて」の訳がちょっと怪しいんですけど、「思はふ」の訳が「思い比べる」みたいな感じらしいので、要するに、「あんまり考えずに」くらいのニュアンスかと思われます。
 十訓抄の書き手にも「公任卿の非愛(=思いやりの無さ)」と批評されている。まあ……ですよね……。

 正直私は公任さん擁護に回っているところがあるので、この説話だけ客観的に見たら、嫌なやつだなと思いますよね。
 悪い人じゃないし賢いのに、迂闊というか、頭より先に口が動いているというか……そういうとこだぞ!


 ちなみに本文にある「懸り」というのは、蹴鞠のプレイコートの目印になる木のことです。植える木も決まっており、桜・柳・楓・松です。境界線がはっきりひかれているわけではないのですが、四隅に木を植えて、蹴鞠のコートの範囲を定めていたんですね。漫画にもさりげなく木を添えておきました。
 それと、鞠を蹴るときの掛け声があって、それが「アリ」「ヤア」「オウ」の三種類です。こちらもちょっとした逸話があるので、また蹴鞠のルールについて別に記事を書きますね。

 本日はここまで。
 繰り返しになりますが、公任さんのシンプルな失言話でした。公任さんの失言はまだあるので、今後もお楽しみに(?)

※作画ミスに気づいたので漫画だけ直して上げ直しました!すみません!

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