藤原道長vs藤原公任
お久しぶりの公任さんです!
早いもので、もう年の瀬ですが、いよいよ来年から大河『光る君へ』がスタートしますね。
その予習的な意味でも、「公任さん」を今後ともぜひよろしくお願いいたします。
さて、今回はX(旧Twitter)で、ゆーっくり連載していた公任さんと道長のエピソードを紹介します。
と、いうことで、藤原道長と公任さんの弓比べのお話でした。
道長と公任というと、まだ権力を持つ前の道長が公任さんについて「いつかあいつの顔踏んだらァ!」(※超訳)と言ったなど、道長優位の話が多いのですがこれは珍しく公任さんが勝利する話でした。
最初のページに書きましたが、この逸話はすべての『大鏡』にあるわけではなく、「萩野本」にだけ収録されている逸話です。道長の弓比べの逸話は、伊周との話の方が有名かなと思います。
公任さんのお姉さんである四条院遵子は、弓好きの道長のために弓比べの場を設けて接待しようとします。賞品は、「銀でできた枝に金でできた大きなミカンをつけた木」というかぐや姫の蓬莱の玉の枝を彷彿とさせるようなもの。(この派手な賞品チョイス、やはりお姉さまも公任さんの身内~って感じがします……。吝嗇で有名な父頼忠が見たら腰を抜かしそうではありますが)
その相手としてあてがわれたのが、遵子の弟である公任さんでした。
この試合、接待試合なので道長を勝たせる出来レースでした。暗黙の了解なのか、事前に打ち合わせがされていたのかはわかりませんが、「言わなくてもわかるよね」みたいな状況ですね。
おそらく公任さんに求められていたのは、道長がしらけてしまわない程度に上手に競って負けること……。それを任せられるということは、やはり公任さんも弓が上手だったのでしょう。上手じゃないと加減もできないですからね。
そんなわけで試合が始まると、漫画二枚目のように、ほどよく負けて進んでいきます。試合のルールは、小学館の新編日本文学全集の『大鏡』の注を参考にしていますが、結構面白いですね。
ごくごくシンプルに言えば、「手持ちの6本の過半数以上が当たったら勝ち」というルールなのですが……これは「原則」であり……一発逆転できるルールがあります。
道長→公任→道長→公任→……という順番で進んで行き、道長は最後5本目で4回めを当てました。この時点で、ほぼ勝ちは確定。道長は満足してしまい、最後6本目の矢を外して終わります。
公任さんは5本終わった時点で、当たったのは2回。点数にすると、
道長 4 ― 2 公任
となっていますね。
そして、公任さんの最後の1本。
見ていた人達は、
「公任さんは空気を読んで最後の一矢は外すだろう」
と予想します。
まあ仮に当てたとしても、4-3で道長の勝ちなので、実際はどちらでもよかったのです。
――ド真ん中にさえ当てなければ。
先に述べた一発逆転できるルールが「的のド真ん中に当てる」というもの。
それは「中科」というそうなのですが、公任さんはこれをやってしまうんですねえ。
何が一発逆転なのかと言うと、「中科」を達成した者には、まず勝敗関係なく賞品が与えられます。そして、的のド真ん中は点数の数え方が異なり、3点換算になるそうです。
そう、つまり最終成績は、
道長 4 ― 5 公任
で、公任さんの逆転勝利なのです。
さて最後の最後に的のド真ん中にズバンと矢を射て、道長をはじめとしてその場にいる人々の度肝を抜いた公任さん。
すっぱりと負けてしまった道長は、逃げるように退出してしまいます。車に乗ろうとするところに、お姉さんは遣いをやって「せめて賞品だけでも!!」と例の金銀ミカンの木を持って行きます。勝敗関係なく渡そうとしているので、最初から道長に渡すお土産みたいな感じで用意したんでしょうね。
しかしながら、道長は「勝負に勝ってこそもらうものなので」とそれを断って(「捨てて」とあるので投げ捨てたのかもしれない)帰ってしまいます。
お姉さんを筆頭に、公任さんの身内の皆さんは「なんて心無いことを!」「非常識!」と公任さんを恨みます。
そしてお姉さんに直接「どうしてこんなことを!」と怒られた公任さん。お姉ちゃんと弟してるのがほほえましいですね。お姉さんはそれどころではないでしょうが……。
それに対する公任さんの原文台詞。
「そのことにさぶらふ、ほかを射はべりさぶらひつるが、吾にもあらず、あたりてはべるなり。目のいかにもいかにも見えはべりて」
このセリフがすっごく公任さんらしくて、皐月はひじょーに好きです。 マンガで書いた皐月訳を再掲しますと、
「そのことですが、私は外すつもりで的の外を射たつもりが、無意識に的に当たってしまったのですよ! あの時はですね! いかにもいかにも、この目に! はっきりと! 的の中央が! 見えてしまって!」
という感じで解釈しました。
このあとお姉ちゃんは怒ったのか、呆れたのか……。
皐月訳を補足いたしますと、先に挙げた新編古典文学全集の訳を参考に作成させてもらっております。一部、皐月の解釈で変えた部分について。
・「吾にもあらず」は「無我夢中で」という訳だったのですが、ここは「自分が自分であるという気がしない」→「無意識」という訳の方が公任さんぽいかなーと思い、そうしました。「あのときは必死でぇ~」というのもアリなんですけど、後のセリフも考慮すると、「私の手が勝手に!」くらいの方がいいかなと。
・「いかにもいかにも」は「どうにもこうにも」という訳がついていたのですが、これはそのまま感じた方が公任さんの大げさな感じが伝わってくる感じがしました。「い」にアクセントがついてるイメージですね。
「だって的の中央が見えちゃったからぁ~!!」とお姉ちゃんに言い訳するのもちょっと弟感もあっていいですね。
というわけでギリッギリですが、なんとか年内に公任さん弓比べ編を更新できてよかったです。
来年の大河ではイケメン俳優の町田啓太さんが公任さんを演じてくださるということで! とてもとても楽しみにしています。余裕があれば大河公任さんレポも書きたいですねえ…。
それでは、これが今年最後の更新となります。
みなさま、よいお年をお迎えください!
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