白いチューリップ
ここは様々な“香り”が溢れている。
大切に育てられ、限られた命を伝える花々の“香り”が…
セーラー服を身にまとった女子高生が、かれこれ1時間も店内を彷徨っている。五感を研ぎ澄ました真剣な表情で。
「なにかお探しですか? お手伝いさせていただきますよ。」
「あの子を探してるの…、あの子の匂いを…」
“匂い”
ここにいる花々に相応しくない、生々しい表現だ。
「その方へのプレゼントですか?」
「…プレゼント。部屋に飾っておきたいなと思って」
「ご自身へのプレゼントですね。でしたらご自身が一番好きなお花を選ばれるのがいいですね」
「そう…、だからあの子の匂いを探してるの」
体育の授業の前に、制服を脱いだあの子の肌から“匂い”がして、それをずっとそばに置いておきたくて、花々の香りに誘われてやってきたらしい。
「香りのヒントになるイメージはありますか?」
「白くて、可愛らしくて、あたたかい…」
「素敵な方ですね。その方は、あなたにとって大切な人?」
「大切、うん。あの子が笑顔じゃないと嫌だし、あの子を悲しませるヤツは嫌い。」
「あたたかくて、白い。そうですね、春一番が吹いた今の季節でしたら、こちらの花はいかがでしょう?」
瑞々しい生命力を放つ白いチューリップに恐る恐る触れ、そっと鼻を近づける。目を瞑って、耳を閉ざして、嗅覚を研ぎ澄ます表情が美しい。
「あ、いい匂い」
「白いチューリップの花言葉はご存知ですか?」
きょとんとした表情で首を傾げる。
「“永遠の愛”ですよ」
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?