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取材テクニック10 ~地域の魅力を発掘して観光集客企画にするために~


朝日新聞が一面全面で紹介した、佐賀市県庁通り商店街の「猫による地域おこし」
猫の普段の様子を聞いて、スポットを特定して観光名所にし、エピソードを紹介するまち歩きツアーを作ったが、それもすべて、商店街の方々への綿密な取材から生じたものでした

私は、取材記者~旅行情報誌の編集長~魅力発掘プロデューサーとして現在に至る35年間の間、その時その時の立場で、ずっと地域資源を活用した観光振興に取り組んでいます。
その中で実践してきた取材を通して「テクニック10」としてまとめました。
 
取材は、その後の企画の成否に直結します。私はこれまで取材記者、編集者、広告ディレクター、企画担当者など様々な立場で35年にわたり取材を経験してきましたが、それらの経験を通して立場を問わず、取材活動における「基本ポイント」と、観光振興に直結する「特別ポイント」の二つにわけて記します。
あまりたくさんあるとやる気が失せる(笑)ので全部で厳選して10を選びますね。
 
基本ポイント5
1 目的を取材対象者に伝える
取材対象とは接する時間が長いほどよい結果になります。では、どうしたら時間をさいてもらって、相手が喜んで話しをしてくれるか?それは「なぜ話を聞きたいのか?それによって、何をしたくて、どんな形でその方に喜んでもらえるのか?」を示すことです。当たり前だと思うかもしれませんが、意外にできないんですよ。これを相手の腹に落とす形でお伝えします。この時、完成系のイメージが明確であればあるほどいいです。私の知っているディレクターには、最初から文章を書いてしまって、わからないところだけ聞くということをしている人もいました。
 

取材内容をもとにどういう企画を生み出してかを、きちんとお伝えすることで、協力が得られます。写真は県庁通り商店街の猫の飼い主のひとり 寺田さん


2 事前に情報を集めて、いったん忘れる
一番簡単なことはネットで検索すること。しかしここは要注意。なぜなら、ネットに出ていることは、すでに「他の誰かが書いた」こととイコール。つまり、あなたが取材して新しい価値を創出するには、そのネットで書かれていること以上のものでなければ、そこにあなたの介在価値は生まれません。まずは、ネットや書物で、調べられるだけ調べること。しかし、時間はあらかじめ決めておくこと。たとえば2時間とかね。そして、さらに大切なことは、調べるほど相手に対して予備知識が増えますが、その予備知識というのは、悪い言い方でいえば「先入観」。だから、実際の取材対象者に会う前にはほとんどそれらを忘れ去るくらい、一定の時間がたってから取材したほうがいいです。
 
3 5W1H をもらさない
いつ、どこで、誰が、何を、どうした、なぜ。これは基本ですね。基本なので、一応ここに記しておきます。もらすと大変なので、取材ノートには、最初から項目とスペースをとっておくと安心です。
 
4 2つの質問を使い分ける
オープンクエスチョンとクローズドクエスチョンともいいますが、「はい、いいえ」で答えられるのが、クローズドクエスチョン。そうではないのがオープンクエスチョンです。基本はオープンクエスチョン→クローズドクエスチョンの順で、取材は進みます。個人的に大切だと思うのが、オープンクエスチョンの中でも、最も漠然とした尋ね方をしておくこと。「趣味がゴルフ」と事前に知っていた方に、「最近はゴルフのスコアはいくつですか?」と聞く前に、「最近は時間のある時に何をされていますか?」というもっと漠然とした質問をしておきましょう。意外や意外で、ゴルフ好きと聞いていた人が、実は今は釣りに夢中になっていて、暇さえあれば釣りをしている、なんてこともあるのですから。この質問の有無で、その後の取材内容が大きく変わります。これを意識的にやっていると、思わぬよい情報が得られますよ。
 
5 「ちゃんと聞いてますよ」を見せる
うなずいたり、時にレスポンスをしたり、ふだんのおしゃべりでもそうですが、相手が聞いてくれているとわかるのはうれしいことですよね。それと同じです。加えて、相手がいうことを復唱したり、自分が理解した言葉で言い直して、自分の言葉で置き換えて「こういうことですか?」と聞いてみるといいです。コミュニケーションギャップが生まれないように、復唱、言い換えして確認をぜひ行ってみてください。
 
観光振興のための特別ポイント5
1 相手のツボ(行動の源泉)を見つける
観光振興とは、観光客など訪問する人を迎え入れて、ともになんらかの価値を共有することです。ですから、迎え入れる側には、必ず何か理由があります。その理由、つまり、行動の源泉(欲求ともいう)を見つけることが、良い話しを引き出すコツです。たとえば「居酒屋を開いた」ご主人にその動機を聞いても、人それぞれ。単に「何か商売したかった」人から「料理の腕を披露したい」「地域の産物を広めたい」、はたまた「友達から店を譲り受けたから」なんて人までいますから。理由は十人十色です。ですから、「なぜ」を探りあてましょう。そして、そのツボをあなたが満たしてあげることができたら、観光振興の最初の一歩はうまくいったと言えます。
 
2 一緒に考える
観光振興を成功させるにあたって、まず大切なことは「オリジナリティ」です。他とは違うなにかを聞きだしましょう。そして、もし答え淀んでいたら、一緒にオリジナリティを考えてあげるとか、ご自分のもつ情報を提供してあげることも信頼関係を築く上で役に立ちます。そう、もうこれができたら、取材した人から、一緒に考えてくれる人にランクアップしています。
 
3 うける
そう、観光振興を考えている人はなんらかの価値を提供したい人ですよね。言ってみれば、取材者はそれをはじめて聞いてくれる存在。つまり、取材対象者からしたら、あなたははじめて情報をオープンした相手ですから、反応が気になります。ここで、いかに「おもしろがれる」かは重要です。基本的に観光の根っこには「楽しさ」があるはず。ですから、「どうしたら楽しいんだろ」と考えながら、素直な気持ちで「うけ」てください。
 
4 いいところを伝える
相手がやろうとしていることには必ずいいところがあるはずです。たとえば、あなたがトマトが苦手だとして、トマトの生産農家さんの話を聞いて紹介する立場だとしたら、「じゃ、どんな人だったら、このトマトを食べたくなるだろう」を一生懸命妄想してください。自分のまわりから具体的に誰かいないか思い出してください。そして、その人だったらこういうことを知りたいのでは、と想像して、その人のかわりのつもりで話を聞きだしてくださいね。
 
5 自分が来れるか、シミュレーションしてみる
観光振興策に共通している大事なポイントだけど意外に忘れられていること、それは、「来れる」ということ。物理的にも時間的にも、来れるかな?ちゃんと来れるようにするには、他にどういう情報が必要かな、と細心の注意を払ってください。車の運転ができずに、公共交通しか使えない人、土日しか時間がない人、ペットを飼っていて外泊が出来ない人などなど、様々な人をイメージして、その人が来れるように情報を開示してあげてくださいね。私が取材経験を養ったリクルートでは、情報を「情報」と「アクション情報」とわけていました。この「アクション情報」をいかに丁寧に書くかが、観光振興の成否を大きく左右しているんです。
 
以上です。
 
例に出している「猫団」は、実は上記のような積み重ねで生んだものです。
商店街の活性化のために、その商店街にいた8匹の猫をマスコットにしている商店街がありました。観光協会としてそのまちに赴任した私はその商店街に興味をもち、商店街の方々に上記のポイント10を念頭に取材しまくりました。そして、8匹の猫の特徴と商店主たちが見た猫のエピソードを見つけて、それを「猫エピソードスポット」として新たに生み出し、地図を作り、まちあるツアーを作り、そのスポットを紹介して好評を得ました。

一見何の変哲もない生垣だが、地元の猫「おふく」がやってきて魚や鶏の骨を積み上げていた『おふくの骨塚』

地元の新聞、テレビはもちろん、エピソードスポットは人気テレビ番組の「なるほど珍八景 特別版」で珍八景に認定を受けたり、新聞の一面ほぼ全面に掲載されるなど、大変な話題となりました。(佐賀市の県庁通り商店連盟「八福猫団」)
 

駐車場に猫を紹介するギャラリーを作ったお弁当屋「林檎亭」の岩瀬さん

最後までご覧いただき、ありがとうございました。
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