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生成型AI時代の観光企画人材マネジメント~若者の主観と思考を引き出す!リクルート編集部上司の三変化(前編)~


観光振興の担い手の育成をするにあたって今最も大きくて根深い問題ってなんだと思いますか?
それは、将来の観光の担い手である若い世代が顧客目線からはほど遠いアウトプットをしがちだと、私は思っています。
市役所の観光課の職場でも、コンサル会社との若手コンサルとのオンライン会議でも、大学1年生から4年生が受講する大教室でも。そのような若い方が急激に増えてきているな~と毎日感じています。なかには「自分の考えを「企画」に活かすことはいけないことだ」とさえ思っている若者もいます(本当です)。

なぜなんでしょう?

この章では、その要因と思われる3つの理由と、それを完璧に払拭する年長者(リーダー、上司、先生)としてのふるまい方を記します。いずれも前職のリクルート時代で、私が新人時代に実際に当時の編集長、マネージャー、制作チーフなどにこういう態度で接され、今度は自分がその立場になってから、ずっと実践して手応えを感じていること。

~若者の主観と思考を引き出す!リクルートで体感した上司のスーパー3変化~です。
長くなるので前編後編にわけてお届けします。

前編であるここでは、そもそものこの風潮の要因として思い当たる3つの要因をひもとき、後編ではそれを完全に霧散させる、上司のふるまい方(3変化)を記したいと思います。

【テーマ】
若者が「自分の考えを観光振興に活かすことはいけないことだ」と考えている3つの要因

1:教育要因
技術・技能を「身に付ける」ものばかり重要視されていて、本人の嗜好・能力を尊重し、開発していくような教育機会が貧弱である

2:ビジネス社会要因

データ・エビデンスを求められる傾向が強まってきている。また効率化を価値と置く企業では若者を育てるという風土が急激に失われてきている。

3:若者気質要因

なにかを学ぶ時に「正解」への指向が強く、「失敗」を恐れる若者は、「権威」「前例」に従って安心感を得たい。
 
それぞれひもときます。

1教育要因

 経済が右上がりの高度成長が望めない現状の日本で、人々は以前よりも「生き残り」を意識して行動しています。生き残りとは、いかに稼いで、安定した暮らしを手に入れるか、のことです。度重なる増税に、急激な物価高。コロナ禍によって激変した日常と加速する労働人口の減少。これらは、すべて人の心から「余裕」を奪っていますよね。
 これは、教育にも大きく影響を与えています。いわゆる少人数教育、きめのこまかい、しっかり向いあう指導などやっていたら、指導側は「採算があわない」のです。マスコミでよく取り上げられている「業務量と教員のマンパワー」の均衡が崩れているので、教員たちも、背に腹は替えられず、指導が浅く薄くなってきているのだです。
では、これが「観光振興のための企画立案」にどんな影響を与えているのでしょうか?
本来は、「企画立案」とは、「おもしろい遊びを考え出すこと」です。ことに観光ジャンルは「楽しさ」がその根底にあってはじめて企画が成り立ちますから「おもしろさ」は重要です。「おもしろい遊び」は、そのおもしろさの本質が何なのかと企画者が深く考えて、それを発見したら、どうしたらもっと提供価値が高められるのかと、ブラッシュアップさせてはじめて企画になります。そして企画の発想のもとはたいてい「自分の体験」だったりしますから、まさに「遊んだ経験」が重要なのです。しかし、現在は遊ぼうにも「時間的・金銭的」に余裕がない。仮に遊ぼうと思ってもコロナがその行く手を塞ぐ。そんな不遇な境遇にいる若者が、上からの命令で、健気に「観光企画」を職務として担当しているのです。当然そこに「遊び感覚」が備わってないのですが、上司も上司で目が行き届いてないので、「効率化」のみに終始し、社内教育でも「目の前の案件をしっかり腹に落とすまで考えぬき、新たな価値を生み出す」という根気と集中力と掘り下げる力が養えていないのだと思います。観光企画は多産多死しています。しかしそれでも「作った」という実績はつくから「まあ、やったよね」と、上手に報告書を書くのですね(笑)。
上司が部下に、または、先生が生徒に答えを求める時も、返ってきた回答について、「なぜそう思うのか?」と繰り返し尋ねるといった出題者自身の精神的余裕も時間的余裕もないわけですから、本人が内省し考えを深めることを意識してやれてない指導が多いのではと考えています。この繰り返しが、若い世代は思考を深められずに捨て置かれるのです。

2ビジネス社会要因

ビジネス社会では、ビッグデータの台頭により、マーケティング=データドリブンと考えられる傾向が強まっています。データを活用することは言うまでもなく重要ですが、私たちの仕事においては、戦略や事業計画を立てる際にはこれらのデータは活かせますが、それを実務に移して、消費者やユーザーと対峙する仕事(例:広告クリエイティブ、店頭販売スタッフ)などでは、もっとミクロな現場や生活感覚から得た洞察力こそ求められます。つまりデータより、眼の前の消費者・ユーザーの「今感じていること」を「顔色」と「言動」から読み取ることが必要になります。その読解力のセンスを磨くことが必要なはずなのです。
しかし、年長者は無頓着です。年長者は、上に行けば行くほど、現場感覚が乏しくなり、消費者・ユーザーの行動に疎くなるため、センスは衰えデータに頼るのです。彼らは整理されてわかりやすい「データ」が好きなのです。そんな上司だと、若手は、「データで出さないとこの事業、上に通らないよ」と先輩からアドバイスされて、自らの現場感覚を封印して、データをちょこまかとコピペして、きれいなプレゼン資料を作るのです。ただでさえ経験が乏しい彼らです。彼らとしても実体験ではなく、データからひもといたほうが安心なはずで、過去の集積されたデータの世界に逃げ込むわけです。つまり企画に「主観」を入れない癖がついてしまうのです。
さらにここに生成型AIが一役買っていて、プレゼン資料も数秒で作ってくれるようになります。重ねていいますが、観光企画は、オリジナリティこそ勝負です。その土地ならでは、その時ならではの魅力を扱い、最も価値が高まるように編集(演出)することで価値が際立つのです。一方で、チャットGTPなど生成型AIは、ネットに挙がっている「過去」の情報をもとに答えを導き、「データの数の論理」で、希少性のあるとんがった企画は顧みられずに、「一般的な、よくある」企画が答えとして検索者に返ってくるのです。日本各地の観光振興のされ方が、ますます似通ってくる。したがって、その土地の魅力にあわせた振興策が生み出されることがますます少なくなるまさに由々しい問題なのです。

3:若者気質要因

最後に若者気質による原因です。若者はいま、「失敗したくない、目立ちたくない」という傾向が強いです。失敗したくないから「正解」を求めるし、目立ちたくない、からオリジナリティは出したくない。こういう風潮です。
また、良くない意味で「仕事は仕事。自分とは別物」と考え、ことさらに自分の世界と一線を画したがる若年層も多く、そこに「主観」を入れる必要がないとさえ考えているように見えます。これはワークライフバランス推奨の目に見えにくい弊害かもしれません。
 
では、どうすればいいのでしょうか?
 
後編に続きます↓
職場で、会議室で、デスクで~若者の主観と思考を引き出す!リクルート編集部上司の三変化(後編)~|桜井篤 (note.com)

最後までご覧いただき、ありがとうございました。
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