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短編小説『思い出のハンバーグと出発のクレープ』①

ゆらゆらと電車の中で読書をしていた。
今日は休日。朝目が覚めてクレープが食べたくなった。

そういえばまだあのクレープ屋さんあったかなと、ベッドの中で店名を検索する。

営業日が土曜、日曜、木曜だけのクレープ屋さん。
今日は土曜日だから開店している、はず。

服を選び化粧を施して家を出る。
友達は誘わず1人でぶらぶらする。

駅に着いてスマートフォンを開く。
前に行った時は数年前で、全く場所を覚えていなかった。

マップを開くと徒歩で10分程度。
夏が近づいてきた季節だから少し暑いけど、手元に記された経路を辿る。

お店は商店街の中にあるらしい。
そういえば最初に行った時は恋人と行ったんだなと、思い出そうとするも鮮明に思い出せない。

付き合っていた事実はあっても、どんな笑顔をしていたとかその人の誕生日すら何にも思い出せない。

正直、未練とかもよく分からない。
友達には冷たいねと言われるけど、別れた男がどうしてようが興味がない。

商店街をぼうっと歩きながら進んでいると、ハンドメイドのお店やアイス屋さん、占いなど色んなジャンルが揃っていた。

きっと初めてではない景色なのに、どれも新鮮に見える。

スマートフォンを見るともうすぐ着くらしい。
朝から何も食べずに出てきたから少し空腹を感じた。

そういえば、クレープ屋さんを調べた時、近くにハンバーグが有名な店があるって書いていた。

そこに行ってからクレープを食べようかなと、店名を調べて入力する。

画面には今いる場所から徒歩2分と書いていた。
ほぼ目の前にあるんだと歩みを遅める。

「あ、あった」とネットの画像と照らし合わせる。

もしかしたら予約がいる店だったらどうしようと、恐る恐る店内に入る。

『いらっしゃいませー』と遠くから女性の声が聞こえてきた。

続けて『少々お待ちくださいー』と言われたので入り口近くに立つ。

店内はウッド調で、ところどころにフェイクグリーンが飾られている。

中にいてもテラスでご飯を食べているような雰囲気だった。

お客さんもカップルや友達、奥のカウンターには一人で来た様子の人も居た。

丸い眼鏡をした少し小柄のボブの店員さんが来て、私一人だと伝えると、奥のカウンターの席に通された。

メニューを渡されて目を通す。
最初のページには大きくハンバーグの写真が載っていた。

ページを進めると、おろしハンバーグやチーズハンバーグ、トマトソースのチーズハンバーグの三種類と、ドリンク、ケーキメニューが書いていた。

私はトマトソースのチーズハンバーグを注文する。
お水はセルフサービス形式だった。
場所を教えてもらってお水を汲みにいく。

席について10分くらい待つとジューと音を立てながらハンバーグがやってきた。

『熱いのでお気をつけください』と目の前に置かれる。
音だけでも熱そうなのに、トマトソースがピチピチと小さく跳ね上がって当たると火傷しそうだ。

セットになっていたライ麦パンとサラダを食べながら、ハンバーグが少し冷めるのを待つ。

ライ麦パンを齧って『あれ?』と引っかかった。
このパンの味知っている気がする。どこかのパン屋さんだったかな。

フォークとナイフを持ってハンバーグを切る。
ナイフは力を入れなくても柔らかくて、ふわふわしていた。

ソースをつけてふぅふぅと冷ましながら口に運ぶ。
また「あれ?」と引っかかった。

『ここ、来たことあるかも…』と、またハンバーグを食べる。

少しづつ昔の景色が蘇ってきた。

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