【エッセイ】ラジオ好きとの会話が盛り上がる確率は、地中でモグラ同士が出会う確率よりも低い

自分が深夜ラジオを聴き始めた頃、まだ今ほど市民権を得ておらず、だいぶニッチな趣味だった。
隠れキリシタン的な、バレないようにこっそり聴くものだと思っていたし、実際そうだった。
初めて人に言う時は「俺、シコったことあるんだよね」と打ち明けた時ぐらい緊張した。
相手によっては「エロじゃん!」となり、クラス全員にエロ認定されかねない。
なので、深夜ラジオ好きと出会った時は「俺もシコったことあるんだよねw」と打ち明けられたぐらい「おま、早く言えし!ww」となるし、絆もグンと深くなった。
大袈裟さじゃなく、それぐらいの出来事だった。

時代は変わった。
今じゃラジオはちょっとしたムーブメントだ。
数年前は秒で終わっていた提クレ(提供クレジット読み上げ)も、今では10社も20社もスポンサーが付き、まあまあな尺を食っている。
番組イベントが横浜アリーナで開催され、チケットが即完する。
カルチャーショックだ。
古参なのに、カルチャーショックを受けている。
そして実生活でも、結構な確率で深夜ラジオ好きと出会うようになった。
最初のうちは、俺もハシャいでいた。
もうコソコソ聴かなくて済むし、自分の趣味が世間に認められるのは嬉しい。
話の合う相手が見つかるのも幸せなことだ。
だがそのうち、そこには大きな罠が潜んでいることに気が付いた。
「僕もラジオ好きなんですよ!」から始まる会話の多くは、乙女ゲーぐらいの分岐ルートがあったのだ。
順を追って解説していこう。

①「僕もラジオ好きなんですよ!」→「本当ですか!どういうの聴きます?」→「FMとかっすね!」→詰み

まずFM聴く奴がラジオ好き名乗んなハゲ。
「僕ヒップホップ聴くんですよ!ヒプノシスマイクとか!」か。
本当のラジオ好きはAMないし芸人がパーソナリティのネットラジオしか聴かないので、FMを出された時点で会話が終わる。
(ここではサンドリをAMにカウントしています)
厄介なのが、なまじ趣味の話を始めてしまっている手前、興味のないFM話も掘り下げなきゃいけないところだ。
あー面倒臭い。家帰ってラジオ聴きたい。

②「僕もラジオ好きなんですよ!」→「本当ですか!僕ANNよく聴きます」→「あ、僕JUNK派です」→詰み

AM・FM分岐を乗り越え、ようやく深めのラジオ談義ができると思った矢先、突然目の前に崖が現れる。
トロッコアドベンチャーか。
深夜ラジオ好きは、おおかたANN派とJUNK派に分かれる。
当然聴いている番組が違うので、話が合わない。
お互い、Twitterのトレンドでたまたま見たようなラジオトピックの上辺だけさらって終わる。
全てを手広く網羅する深夜ラジオ猛者も居るには居るが、かなり少ない。
せっかく友達になれそうだったのに、合わせる周波数が違っただけで引き裂かれてしまった友情。
なんともはや。

③「僕もラジオ好きなんですよ!」→「本当ですか!僕オードリーとか聴いてます」→「僕も聴いてます!」→「マジっすか!先週のアレめちゃくちゃ面白かったですよね!」→「いやー、最近あんま追えてないんですよね」→詰み

①と②の分岐をくぐり抜け、ついに同じ番組を聴いている同志との邂逅。
にも関わらず、ラジオ好きは時に非情な運命を迎える。
聴いている時期が違う問題。
これは長寿番組であればあるほど陥りがちな罠だ。
単純に、週に2時間のラジオを消費するのは結構な労力を使う。
時間も取られるし、寝落ちしたら寝落ちしたところまで遡ってもう一度聴かなければならない。
暇な時期なら良いが、忙しい時期の2時間をラジオに割くのは至難の業だ。
そのうちどんどん溜まっていって、休日一気に消化するか、そのまま聴かなくなるかの二択となる。
そういった理由から、同じ時期に同じ番組を聴いている確率は極めて低い。
人間ってきっと、分かり合えないようにできているんだね——。

しかし、ごく稀にこれらの分岐を全てクリアし、運命の相手と出会うこともある。
その後の会話がこうだ。
「いやー、先週の霜降りおもしろかったですねー」
「あの、ニキビと鼻毛でイジり合うやつねw」
「出たwニキビ押せってこと?ってやつww」
「鼻毛引けってこと?ってやつねww」
「wwww」
「www」

いや、お前とそのくだりやるぐらいならプロのラジオ聴いた方がよくない?

ラジオ好き同士の会話が盛り上がらないのは、そのトークがラジオを上回ることが絶対にないから、かもしれない。

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