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バレンタインデー2022

昨日はバレンタインだった。
コロナの影響なのか今年世間は例年ほど盛り上がっていなかったように感じた。私が年を取って盛り上がりの輪から弾き出されているだけの可能性も否めないが。

学生時代は好きな相手に渡せるかなとドキドキしたり、校内では男子が皆ソワソワしていたりとその日1日空気がフワフワしていたような気がする。
大人になるとそんなときめきなんてどこかに行ってしまい、私が新卒で入社した会社では女性が義理チョコを配らなくてはいけない慣習が出来上がっていて、自らの財布を痛めてジジイ達に甘味を施すボランティアデーと化していたりとあまりバレンタインにいい思い出が無い。

職場で義理チョコを配る時のあの微妙な空気が物凄く苦手だ。
1人1人全員に配っているからとっくに気付いてるはずなのにいざ渡すと「お、おー、あー!そっか今日バレンタインかぁ、ありがとー」
という白々しい芝居が始まる。

出張のお土産のお菓子を配る時にも同じ空気になる。
隣の人が渡されてるのをいかにも気付いてませんよーというテイで眉間に皺を寄せて書類を見たりして自分の番を待つ時のあの気まずさ。
あまりにも居心地が悪すぎて配布の気配を感じるとトイレに行ったりしてデスクの上に置かれた頃を見計らって戻るという姑息な手段に出てしまうのだが、自分が配っている立場の時は
「あ。わざと席を外しおったな」
と気付くので、私もきっとバレていると思う。

バレンタインが来る度に私は
「男性に生まれていなくて良かったー!」
といるんだかいないんだかよくわかんねぇ神に感謝している。
私は自意識過剰なので自分が男性に生まれていたらバレンタインの日にはそれはそれはキショムーブをかましてしまうと思う。
私が男性だったらどういう感じの一日になるかシミュレーションしてみた。



まず、二週間前くらいから変に周りの女性に優しくしたり無駄に奢ったり女性の友人知人に
「元気ー?最近どうよー」
と連絡する事から始める。

バレンタイン前日には入念に風呂に入り、当日は無駄に早起きして身支度を整える。
一番いいシャツとネクタイを選び、鞄の中は必要最小限の荷物しかいれない。チョコが入らなくなったら困るからだ。

早めに出社して渡しやすいシチュエーションを作った方がいいかなと考えるが、いつも同じ電車に乗る女の人達の中にもしかしたらチョコを渡そうと思ってくれている人がいるかもしれないから却下だ。

いつもより早めにホームに立ち、電車を降りた後は改札にゆっくりと向かう。
人混みから少し離れた場所でほどけてもいない靴紐を結び直したりして隙を作り、声を掛けやすい雰囲気づくりに勤しむ。
駅から会社までへの道のりもゆっくりと歩く。いつもはスタスタ早歩きだが、それでは声を掛けづらくて女の子が可哀想だからだ。
よく行くコンビニの店員が自分にチョコを渡したいかもしれないので買いたいものも特にないが立ち寄り、普段絶対に買いもしないミネラルウォーターを買ってみたりする。

出社して一番に引き出しを全て開ける。チョコは入っていない。
まぁバレンタインは始まったばかりだし、朝っぱらから渡すのは気が引けたのだろう。直接渡したいかもしれないし。
次にPCを立ち上げ、女性社員から
「今日ちょっとお昼の休憩の時に時間空いてますか?」
といったようなメールが来ていないかチェックをする。特に来ていない。

業務中は用もないのにあちこちの他部署に顔を出したり無駄に自販機に飲み物を買いに行ったりしてここでも出来るだけ隙を作る。

ランチは社食へ。いつもは仲のいい同僚や先輩後輩と何人かで行くがバレンタインの日は一人で行く。こっちが複数人だとなかなか声を掛けづらいだろうから、シャイな女の子へ向けての配慮だ。

まだ今時点で誰からも貰っていないが午後休憩の15時に合わせて配る事が多いので、その時間までまた他部署に行ったり自販機に行ったり廊下で黄昏てみたりする。
既に缶コーヒーを6本も飲んでお腹はタプタプだ。

15時、メールが届く

〇〇部 男性社員各位

皆さんお疲れ様です。本日バレンタインという事で給湯室にチョコレートを用意しておりますのでご休憩の際にお召し上がり下さい。

〇〇部女子社員一同

給湯室に行くと【一人一粒!】という付箋が貼られているデカい缶に入った雑なチョコが置いてあるので一粒つまんでパクリと食べる。

ふと見まわすと、あちらこちらで個人的に受け渡しが行われている。
デスクの所にサササと近付き
「いつもありがとうございます★」
と渡す女子社員と
「え!ありがとー!」
と受け取る男性社員
「すいませんちょっといいですか…!」
と廊下から手招きをしている女子社員とウキウキと席を外す男性社員。
キラキラしている。楽しそうだ。
自分と同じように誰からも声を掛けられない男性社員達はいかにもそんな事には気付いていませんよという顔をして仕事をしているが目に光が全く無く顔は土色だ。
この個人的に貰える人間とお情けで大容量チョコ1粒配給される人間の違いは何なのだろうかと暗澹とした気持ちになる。

そうこうしていると終業時間。勇気が無くて渡せなかった女の子がいるかもしれないので無駄に残業をして待つが、1時間経っても2時間経っても誰も来ないし殆どの社員が帰宅してしまったので自分も帰り支度をする。
もしかしたら昨晩緊張しすぎて今朝寝坊して同じ電車に乗れなかった女の子が駅で自分を待っているかもしれないのでトイレで髪を整えてから退社。

駅に着き電車に乗り自宅の最寄り駅に着いたが誰からも声は掛けられなかった。
残業したせいで諦めて帰ってしまったのかもしれない。可哀想な事をしてしまった。

自宅に到着。
郵送でチョコが届いているかもしれないので郵便受けを見るが入っていたのはガスの検針表だけだった。
帰宅したがもしかしたら電話とかLINEが来て呼び出されるかもしれないので、即座に対応出来るようにスーツから私服に着替える。
お風呂に入っていて連絡に気付かないなんて事になるといけないのでまだ入る訳にはいかない。
LINEを教えてない女の子からFacebookやインスタにメッセージが来るかもしれないのでそこも忘れずにチェックだ。

気付いたら時間はもう23時59分。あと8秒で今日が終わる。

8,7,6,5,4,3,2,1
2/15 0:00

風呂に入ろう。明日も仕事だ。



最悪。最悪だ。
男性の殆どは大人になるとこんなこじらせ中学生男子のような感じにはならないのだろうが私はなる。絶対になる。心から自信がある。
「別にバレンタインとかどうでもいいし興味ない」
と言いつつも心のどこかで(もしかしたら…)と期待をしてしまう非モテ男な自分の姿が目に浮かぶ。

バレンタイン、それは男性が女性からの好感度やモテ度を無理矢理可視化される1日である。
一年に一度、女性から男性へ渡される成績表のようなものだと思う。
残酷すぎて私だったら耐えられない。

別にチョコレートが欲しいわけじゃない。でも
「はーい、この日は好きな男の子にチョコレートをあげましょーう!
あげてもあげなくてもOK★誰にあげてもOK★何人にあげてもOK★
恋愛として好き、友達として好き、人として好き、家族として好き、とにかくあなたが好きな人にあげましょう!よーいドン!」
という自由競技が始まると、せめて1つは欲しいと思ってしまう。
自分が自分以外の誰かから好かれている、気にかけてもらえている証があの茶色くて甘い塊なのだ。
欲しい。欲しすぎる。喉から手が出るほど欲しい。
何て残酷なイベントなのだろうか。
私が男性だったら鬱病を発症してチョコレートを見ただけで発作を起こしてしまうと思う。

下らない事をダラダラと書いてしまったが、私の今年のバレンタインの話も一応しておこうと思う。
相変わらず恋愛の動きは何も無い。彼氏もいない。
男友達や仕事関係の人にわざわざ渡す気にもなれず、今年も何かやってんなと遠巻きに眺めるのみだった。

デパートの催事場のバレンタイン特設コーナーで
「どれが美味しいかな?どんなのが好きかな?」
とウキウキしながら好きな人にチョコを選びたかった。
そしてその日の夜はちょっと豪華なディナーでも作って一緒に食べて、食後のデザートだよ、と渡したかった。

「彼氏という確実に手渡しで渡せて喜んでくれる存在…ッ!!!」
と血の涙を流しながら自分用に買っていたロシェを勢い良くバクバク食べたせいで右頬に吹き出物が3つも出来てしまいロシェみたいな質感の肌になってしまいもう散々だ。私が何をしたっていうんだ。いい加減にしろ。

年末年始の時のお礼も兼ねて高橋にあげようかなとも思ったのだが、職場も家も遠いし近々会う予定がある訳でもなく、正月以来連絡も取ってなかったのに付き合ってもない相手から平日に会おうって言われてチョコ渡されるってこの歳でそういうのって何か重くない?キモくない?となってしまい買いに行く気になれなかった。
自分が男性だった場合の妄想ではとにかく誰からでもいいからチョコを欲していたが、イザ現実に戻り渡す立場となると腰が重くなるのである。
渡せるか渡せないか分からないチョコを買い、結局渡せなかった時のあの何とも言えない虚しく悲しい気持ちを味わいたくないのだ。

なので、去年に引き続き今年もLINEギフトでチョコを贈る事にした。
去年のバレンタインは自粛ムードも凄くて不要不急の外出なんてとてもじゃないけど出来ない空気だったので利用したのだが、まさか今年も使うとは。
因みにざっくり説明すると

【LINEギフトの流れ】
商品を選んで支払い後、好きなカードを選んでメッセージを入力

贈りたい相手にLINEで送る

受け取った相手はリンクから住所や受取希望日・時間を入力

数日後商品が届く

という仕組みで、送料や手数料分で割高ではあるのだがこのコロナ禍には適したサービスだなと思う。
今年はバレンタインクーポンとやらで20%オフだったので店舗で買う値段とほぼ同じくらいになったので良かった。
選んだチョコはベタにPIERRE HERMÉ。

メッセージカードには何を書こうか悩みに悩んで
「重くならずウザくないメッセージとは…」
と考え抜いた結果、サラっと二行だけにした。

カードは自分で好きな画像を選べるやつにした。
自分ツッコミくま大好き

あまりにもそっけないかなとも思ったけど、チョコを贈ってる時点でそっけなくないし、重いとかウザいとか思われるより5億倍マシだ。

一応私も参加したという事で、2022年のバレンタインこれにて終了。
来年こそ彼氏か夫とラブラブで幸せなバレンタインを過ごせますように!!

クソみたいなスピリチュアルグッズを買って台無しにします