主治医のことば

11月19日 自分のことを、はじめて主治医に相談する。

私は、相手の立場や職業をわきまえず、なんでも自分の話をする人が嫌いだ。例えば、叔母が医療の専門である医者に「家族がいなくなると思うと本当に辛くて眠れなくて、睡眠薬を飲んで寝てるんです。」話したとき、正直すごく無駄な時間だと思った。誰彼構わず自分の弱いところを見せるのも、無意味だと思っている。

朝の回診の際、「病気の原因は5年前の離婚である可能性はあるか」を確認した。相手は主治医だ。主治医は、やっと娘さんが一人で話しに来てくれましたね、と言った。

私は、自分が思っていた以上に、主治医のチームから心配されていた。うちの場合は離婚して妻がいないから特例かもしれないが、父親が倒れた時に介護休業を取る20代の女性は見たことがない、と。きっとお母さんとも仲が良かったから、やりづらかったでしょう。話し合いの時も、家族の中でいつも一人、黙って俯いているなと思っていました。つらかったでしょう。そう言われて、この人には全部言おう、と決心した。

まず、病気の原因のことは、叔母さんが言っていることはデタラメで私たちは一切信じません、と断言された。辛いことを経験している人がこの病気になるのなら、もっと沢山の人がなっている。医学的に見ても、あなたや妹さん、お母さんが原因、という可能性はゼロです。同時にご両親も自分を責めていたようですが、ご両親が原因という可能性もゼロです。原因は、不明です。そう言い切られて、もう自分を責めることは辞めた。

「あなたが自分を責める気持ちもわかります。お父さんにもっとこうしていれば良かった、と思うことは沢山あるでしょう。でも、あなたはあの環境の中、充分すぎるほどやったんです。お父さんもきっと褒めてくれるんじゃないですか?自分を、許してあげて。」

先生は、私の心を全部わかっていた。医師として色々な家族を見ているんだから、当たり前のことだった。今、この病院を去る前に先生に相談できて、本当に良かった。私は救われた。

「人間は弱い生き物です。だから、原因や理由を求めます。あれがいけなかったんだ、これがいけなかったんだ、と。それが今、貴方に向いてしまった。」

「本当に辛いときは、周りの人を頼って下さい。家族から逃げて下さい。今つらかったら、私でも仕事でも何でもダシに使って、うまくサボって下さい。ドライなことを言いますが、本当にどうしようもなくなったら、縁を切ることだってできるんです。どうか、自分を責めないでください。」

この主治医を持った父親も、私も、本当に幸せものだ。

明日、父親は施設に移る。私は、全部終わった時、この病院にお礼を言いに来ようと決めた。退院を強く勧めてくれ、父親や私たちに大切な時間を与えてくれたこと。そして、私自身を救ってくれたこと。すべてに「ありがとう」と言いたい。

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