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神経病院という場所

11月13日 神経病院の見学に行く。

近くの精神神経病院に転院するという選択肢も、まだ残っていた。病院のようすを見に行ってから、施設が病院かで行き先を決める。

父親のような重篤な神経病の人が入院する「特殊疾患病棟」に案内され、病院の中を歩く。呼吸器のシューシューという音は、このフロアの6割を占めるALS患者たちのものだ。痰吸引のジューッという音も、ひっきりなしに鳴っている。48床中、車いすで歩ける患者が4名、ほか44名は寝たきりだ。プリオン病患者は4名いるという。頑張って闘病している患者たちに失礼だが、正直この病棟は、死を連想させた。

結果、私たちは施設を選んだ。主治医によれば、父親は今自分がどこにいるか理解できていないだろう、という話だった。一方の家族は、父親があの空間にいることを受け入れられるとは思えない。今のように交替で泊まって父親の不随運動を抑えることもできない。病院だと面会時間も限られていて、宿泊(夜間待機)も禁止されているからだ。

父親の様子といえば、今日もミオクローヌスという全身の不随運動と、ちょっとした物音や行動で激しく反応する驚愕反射に苦しんでいる。だが苦しみも、感じていないかもしれないという話だった。自分の置かれている状況も、おそらく忘れてしまっていると。味覚や食べ物の認識も無くなっていて、その証拠に咳をして出た痰をよく噛んで飲み込んでしまっていた。また、起きている時はいつも口を開けて、「アーオー」とか「イーイー」とかいう声を出している。たまに「エオエオエオ」のような声を出して、何かを伝えようとしてくる。それ以外の時は、体をビクビク震えさせながら寝ている。

また、今日は検査の結果も出た。この悪魔のような病気は、遺伝性のものではなかった。異常プリオンタンパクも発見され、この病気で間違いないことが確定した。

この病院のフロアに、父と同じ名前の男性の看護師がいる。10月に入院していた時からお世話になっていた方で、以前は名前の話題で父親と盛り上がっていた。その方は、父親の短期間でのあまりの変わりよう驚いていたが、今の段階でできるケアのアドバイスをくれた。口腔スポンジはふきとらずら軽く転がすことで負担なく口の掃除ができる、前びらきのシャツを使うと反射の症状を持つ人の着替えが簡単にできる、など有益な情報をたくさん教えてくれた。

明日から、施設に移る準備をはじめる。落ち着くまではこの病院に寝泊まりし、父親の意識があるわずかな期間を一緒に過ごす。でも私はこの段階になっても、まだ明日起きたら全て夢でした、なんてことはないかなと思っている。

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