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意識と無意識

10月29日 父親の親友たちが見舞いに来る。

父親は最近、意識と無意識を短時間で行ったり来たりするようになった。いつも全身は不随運動に苦しんでいるが、それでも意識があるときは笑ったり、返事をしたりする。逆に無意識のときは目を見開いてまばたきもせず、口は尖ったり開いたままになったりして、体は右側に倒れている。残念なのは、意識がある状態は5秒続くか続かないかで、ほとんどは無意識の状態でいること。無意識の状態の時は、寝たきりになった姿を容易に想像させた。

今日はトイレに行ったところ、後ろに便座があるのを確認してもなかなか座れず、太ももを下に押しながら膝の裏を強く押すことでなんとか座らせようとした。しかし、座ることができなかった。おそらく、便座が後ろにあることを忘れているのだと思う。「パパ、トイレだから座ろうね」と言って確認しても、そのあと無意識の状態になり、何もないところに座るような感じがして怖いのだ。座ろうとし始めたところで一旦無意識になり、また意識が戻って膝をピーンと伸ばしてしまうことも多々ある。そんなことをしていたら、便座に座らせるだけで30分かかった。私の右腕は太もも、左腕は膝裏を押すので筋肉痛になり、父親の太ももと膝裏には私の腕の痕がついていた。本人が尿意や便意をあまり感じていないようで、おむつにしてしまえば楽なのに、と思った。

今日は、父親と小中高と同級生だった親友が訪ねてきた。私が連絡を取って呼んだのだ。父親が入院してから、心配のメッセージを毎日くれていた人がいたので、これは連絡せねばと思った。結果的に、呼んでよかったと思う。父親は「皆に会えて嬉しかった?」と聞けば何度も頷いた。

父親は友人たちの顔は忘れていないようで、喋ることはできないが、ずっと泣いていた。友人たちは強い人たちで、だれも泣かなかった。来月、箱根に旅行に行くから絶対に治して来いよ、と笑って言った。父親のこれからのことは全て話した上であの対応ができるとは、本当に立派な人たちだと思った。お見舞い品は、大量の箱ティッシュと除菌ウェットティッシュだった。誰か介護を経験した人がいたのだろう。

友人たちが帰り、夕食を済ませた。もうほとんど、誰かが口までスプーンを持っていかないと、食事はとれなくなっていた。

吸引歯ブラシで歯を磨いた後、寝る前に一杯の水を飲ませようとした。口に含むまではよかったのだが、なかなか飲み込めない。飲み込まないまま眠ると誤嚥の可能性が高くなるため、ならば吐き出せないかと試行錯誤した。結局30分間いろいろ試したが飲むも吐き出すもできなくなっていたため、先ほどの吸引歯ブラシを無理矢理口に入れ、水を吸い出した。

父親はさきほど、怖い夢を見たようで飛び起きた。色々と面白いことを言ったり、お気に入りのタオルで遊んだりして、たくさん笑ってくれた。ホットミルクも飲んだので、少しは眠れるだろう。明日は、精神安定剤が処方される。夜に飛び起きて動いてしまう症状が改善されれば良いが。

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