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天候と体調

12月4日 久々に父親が笑顔を見せる。

朝の9時ごろ、父親が上体を起こそうとしていた。私はベッドに乗り上げて父親の両脇に手を入れ、せーのの合図で父親の上半身を起こした。ちょうど抱きかかえて座るような姿勢になり、父親は私の肩越しに青空を見ていた。

天候によっても、体調はかなり変化する。病状が右肩下がりなのは変わらないが、その中でもムラがあるのだ。特に晴天の日は機嫌が良いことが多い。

この日も朝に2回、夜に1回と、計3回上体を起こすことができた。以前に座る姿勢になったのは、おそらく一週間以上前のことなので、驚いた。

この日は笑顔もよく見せていた。もう笑うこともなくなってしまったとばかり思っていたので、これにも驚いた。言葉の内容は理解できていないと思うが、私が笑った同じタイミングで父親も笑った。なんとなく最後のような気がして、写真を撮った。

写真で見るとよく分かるが、父親は本当に骨と皮になりはじめていた。蓄えていた脂肪を使って命を繋いでいる最中なので、あばらは浮き出て、眼球も飛び出た。今後、どのような姿になってしまうかは、今は想像がつかない。


12月5日 父親が入浴する。

この施設には、寝たきりの入居者も楽に入浴出来るような設備が整っている。介護用のジャグジータイプの浴槽があり、これなら点滴のルートや導尿カテーテルが入っている患者も利用できる。

父親は自分の身だしなみをきれいにすることも、温泉に行くことも好きだった。病院にいた頃は丸々二週間風呂に入れてもらっていなかったのだから、苦痛だったのだろう。こちらに来て入浴してから、明らかに表情が変わってきた。父親の病気は「良くなる」ということがめったにないので、表情が明るくなったことは本当に嬉しいことだった。

今日も、こちらに来てから何度目かの入浴を楽しんだようだった。風呂に入っている時の父親は、本当に穏やかで表情も良いという。職員しか浴室に入れないのが、残念だった。

ミオクローヌスは、手足よりも横隔膜に顕著に起こるようになった。しゃっくりやげっぷのような動きが頻繁に見られ、たまに胃液や痰を大量に吐いてしまう。最近では、発作が始まったら吸引器のカテーテルを口に入れ、口内に溜まる前に吸い出してしまうことにした。

また、点滴を再開したため、痰はとても頻繁に吸引しなければならない。看護師が行う一般的な喀痰吸引では、かなり喉の奥の方までカテーテルを挿入する。父親も苦しい表情をしてむせるので、素人である私たちが行う際は、喉の奥の壁(ペンライトなどで照らしてギリギリ見える部分)までの痰を吸引している。

深夜2時半ごろ、痰が絡む大きな咳の音で目が覚めた。吸引の準備をする間もなく、父親は嘔吐し、上半身とベッドが痰とどす黒い胆汁まみれになっていた。急いでナースコールを押して、看護師と二人掛かりで着替えさせた。なるべく嘔吐を誘発させないように、慎重に行った。鼻の穴からも嘔吐していて、顔中が真っ黒になっていた。

気持ちが悪いだろうに、顔を拭こうとするととても嫌がった。しばらくそのままにして、完全に寝入ってからこっそり拭いた。使ったタオルは汚染物として廃棄処分になった。

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