見出し画像

創作落語「じぶりーなお婆さんたちの巻」台本

えー今日はアニメにまつわる話をやってみようかと思っております。まあアニメと言えば私若い頃に宮崎駿監督の「風の谷のナウシカ」や「天空の城ラピュタ」なんかに感動したものですが、さて、愛知県の長久手というところにこのジブリ作品たちをテーマにしたジブリパークというテーマパークがございます。今日そこにやって来たのは二人のとっても歳を取ったお婆さんたち。この二人、とても仲の良い姉妹で名前を「サツキ」と「メイ」と申します。はい、むかしむかし「となりのトトロ」に出てきたあの姉妹です。

メイ:サツキ姉ちゃん、やっと着いたよ。ジブリパークだよ。よっこいしょっと。
サツキ:メイ、あんた、そんなに早く行かないどくれよ。あたしゃ腰が痛いよ。
メイ:何言ってんの。70年ぶりにトトロに会いたいって張り切ってたのはサツキ姉ちゃんの方じゃないか。せっかく来たんだから今日は目一杯楽しまなきゃ。
サツキ:だめだよそんなに引っ張っちゃ、また腰に来ちまったらどうしてくれるんだい。
メイ:あ、そうか、この前のギックリまだ治ってなかったんだね。
サツキ:(ものすごくゆっくり立ち上がり)よーっこらしょ。さーてと、案内板はここだね。どこに行こうかねえ。
メイ:あ、お姉ちゃん、魔女の宅急便訓練所ってのがあるよ。何か面白そうだねえ。
サツキ:何言ってんだいこの子は。この前魔女のキキが年甲斐もなく無理してほうきから落っこちてまったのを忘れたのかい?今はトンボに介護してもらってるけど・・・。
(お客さんに対して)あ、ジブリアニメ見てない人に解説しますと、トンボっていうのは「魔女の宅急便」に出てくるちょっと頼りない主人公キキのボーイフレンドです。今はもう75歳・・・。
メイ:キキちゃんも孫の前でいいかっこしたかったんだねえ・・・。それにしてもあたし60年経ってもトンボとウォーリーの区別がつかないんだよねー。
サツキ:そりゃそうさ、ここだけの話だけどジブリがキャラをパクったんだよ。
メイ:やめなさい、そういうフェイクニュースは。
サツキ:さてと、最初はこの「ジブリの大倉庫」ってのに行ってみようかねえ。よーし、今回は何をいただこうかな~
メイ:やめてよ。年甲斐もなくまたキャッツアイの真似するのは。ギックリなんだからね。
サツキ:♬街はきらめくPassion Fruit~♬ウインクしてるevery night~
メイ:「Cats Eye」杏里・・・それ、もう誰も歌わないけど・・・そもそもキャッツアイはジブリじゃないし。
(お客さんに対して)ちなみにキャッツアイっていうのはレオタード姿の美人三姉妹の怪盗が活躍するアニメです。
サツキ:あーっ、あたしもレオタード着てセクシーに決めたかったなあ。そもそもジブリってお色気が足らないんだよねえ。峰不二子みたいにさ、ボン、キュッ、パッて。
メイ:お色気って、そもそもあんた「となりのトトロ」じゃ小学生だったよね。今は80歳でギックリしてるし。お色気は無理でしょ?
サツキ:あ、ネコバスがいる。懐かしいねえ。昔これに乗って迷子になったメイを探したものさね。あんたもあの頃は素直な妹だったんだがねえ~。
メイ:あ、こら、話変えやがったな・・・だけど、ネコバス・・・確かに懐かしいねえ。
ネコバス:ニャーオ、誰かと思えばサツキとメイじゃねえか。70年ぶりだなあ。二人ともすっかり皺くちゃになっちまって・・・。久しぶりに乗ってくかい?
サツキ:もちろんだよ。だけど今ギックリやってるから安全運転でたのむよ。さあ、メイ行くよ。よっこいしょっと。ところでネコさんや、行先はどこだい?
ネコバス:ニャーオ、次は「青春の丘」だ。かなりこっぱずかしいエリアだから覚悟しなよ。

という訳で二人のお婆さんはネコバスに乗って「青春の丘」にやって来ました。

サツキ:なんだい、このやけに眩しい場所は・・・。これが青春の光ってやつかい?
メイ:サツキ姉ちゃん、どこかから「カントリーロード♬」が聞こえるよ。これかなりこっぱずかしい。
月島雫:♬カントリーロード~私の名前は月島雫(つきしましずく)。中学三年生よ。バイオリン職人になるためにイタリアに留学した天沢聖司くんをこの青春の丘で待ってるの~。そう、「耳をすませば」は1995年公開よ。
サツキ:1995年って、あんた30年もその聖司って職人くずれを待ってるのかい?そんなのもうとっくにイタリア女とよろしくやってるに決まってるじゃないか。
メイ:サツキ姉ちゃん、そりゃそうだけど、言い方ってもんがあるよ。
月島雫:♬カントリーロード~そんなことないわ、私たちの青春は今でも輝いているのよ。聖司くんはりっぱなバイオリン職人になって帰ってくるんだから~。
サツキ:いや、あんたももう40過ぎだろ?いいかげんアオハルやめようよ。職人くずれなんかもうやめて結婚相談所にでも行ってさ。いいとこ紹介してやるよ。入会金は20万円ね。
メイ:サツキ姉ちゃん、それ大きなお世話だよ。
月島雫:♬カントリーロード~ああ、聖司くん、好き好き、早く白馬に乗って私を迎えに来て。ポルシェでもいいわあ~。
サツキ:わあー、こいつは重症だ。こっぱずかしいったらありゃしない。これじゃ結婚相談所からのリベートバックが貰えないじゃないか。これだからジブリは・・・。
メイ:やっぱりそういう魂胆か・・・。
サツキ:しょうがないから次行こう。おーい、ネコバスぅ~
メイ:あきらめるの早っ!
ネコバス:ニャーオ、もういいのかい?それじゃあ次は「もののけの里」だよ。あそこはサスティナビリティにうるさいから注意しなよ。
サツキ:サスティナビリティ、あたしも好きだよ。あの熱っつい部屋で汗かくやつだろ?
メイ:それは、サウナブロ・・・。語呂も合ってないし。

という訳で二人が次にやって来たのは「もののけの里」です。ここは自然を破壊する人間と自然を守る神様が戦っているエリアなのですが、サツキには関係ありません・・・。

サツキ:さてと、ここにも「行き遅れ」いないかなあ~?
メイ:やめなさい。その言い方はコンプラ違反だよ。
サツキ:お、今度は男だ。あれは確か「もののけ姫」と恋仲だったアシタカだったかな。確かあのアニメは1997年公開だからあいつ今50歳ぐらいかなあ?ちょっと腹出てるし髪の毛もずいぶん薄くなってないかい?「もののけ姫」って確かメンクイだったからきっともう振られてるな。えー、ちょっと、お兄さん、アシタカさん、その様子だと「もののけ姫」とはもう別れたのかい?
アシタカ:え、どうしてそれを・・・ハゲは無理って言われて・・・お婆さんは誰だい?
サツキ:私は恋のキューピット、サツキだよ。安心しな、ハゲの味方だよ。やっぱりあんたついてるよ。こんな所であたしに会うなんて。
アシタカ:サツキさん、本当にハゲてても大丈夫なのかい?「もののけ姫」はハゲにうるさくて。
サツキ:もちろんだよ。入会金30万円で私の相談所に入会すればもう来月はハッピーさ。
メイ:すげー怪しいキューピットだなあ・・・。入会金も上がってるし。
アシタカ:祟り神(たたりがみ)を退治した時にもらったお金がちょうどあるけど・・・。だけどこれはサスティナブルに使わなくちゃいけないお金なんだ。
サツキ:安心おし、それ私がサウナブロに使ってやるから大丈夫さ。

そこに「サスティナブル」という言葉を聞きつけたアシタカの元恋人「もののけ姫」が登場します。

もののけ姫:正体を現したわね!欲張りな人間め!サスティナブルとサウナブロじゃ大違いよ。アシタカ騙されちゃダメ!あなたはたとえハゲても自然を守る人でなくちゃ。
アシタカ:だったらもう一度付き合ってくれ。
もののけ姫:いやよ。私、ハゲは無理なの。
サツキ:えーい、何でもいいからその金をよこしな。わあーっ、何だ、狼の群れが。
メイ:やばいよ、サツキ姉ちゃん、逃げなくちゃ。もののけ姫は狼を使うんだ。おーい、ネコバスぅ~。
ネコバス:ニャーオ、早く乗りな、よーし、行くぞ。
サツキ:あー、危なかった。もののけ姫め、30万円あとちょっとだったのになあ・・・。
ネコバス:ニャーオ、だから言っただろ、サスティナビリティってやつは怖いんだよ。
サツキ:まあ、何にせよネコさん、あんたのおかげで助かったよ。次はどこに行くんだい?
ネコバス:ニャーオ、次は終点「どんどこ森」だ。ここは二人の良く知っている場所だよな。オレが乗せられるのはここまでさ。この森の出口がちょうどジブリパークの終わりだから気を付けて帰るんだよ。じゃあ、元気でなー。

という訳で二人は最後の目的地「どんどこ森」にやって来たのでした。

サツキ:懐かしいねえここは。あれ私たちが暮らした「サツキとメイの家」だよ。
メイ:あ、トトロのいた大きなクスノキもあるよ。
サツキ:今日トトロに会えたらわたしゃいつお迎えが来たっていいさね。
メイ:またまた~。姉さん、さっきまでの強欲はどこに行ったんだい?
サツキ:あれ、あんなところにトトロに似たやつがいる。たしかモリゾーとか言ったっけ?おーい、あんた確かモリゾーだっけ、愛・地球博でがっぽり稼いだっていう。
キッコロ:いや、オレはキッコロの方だよ。モリゾーじいちゃんは今リハビリセンターでリハビリ中さ。最近はボケちゃっていつもあのバブルな日々を夢見てるけど。
サツキ:ええーっ、あの可愛かったキッコロがもうこんなになっちまったのかい・・・おっさんじゃないか。
キッコロ:失礼な婆さんだなあ。もう30年経ってんだよ。
サツキ:それよりお前さんトトロを知らないかい?この森に来ればトトロに会えるかと思ったんだけどいないみたいだねえ。
キッコロ:トトロだったらモリゾー爺ちゃんと一緒にリハビリセンターさ、キャラかぶってるから二人はいつも一緒。あいつも最近の地球温暖化で元気なくてさー。あの大きなクスノキの祠がリバビリセンターだよ。二人にお迎えが来る前に会ってやってくれよ。
サツキ:全くどいつもこいつもヨボヨボになりやがって・・・
メイ:まあ、あんたもかなり来てるけどね。
サツキ:さーてと、ここがリハビリセンターかあ。おーい、トトロぉ~。
トトロ:ん?誰かと思えばひょっとしてサツキとメイかい?二人ともこんなに皺くちゃになっちまって・・・。
サツキ:トトロこそ、どーしちまったんだい!あんた、一頭身だよ!
メイ:いや、トトロ昔からこの体形だし。
トトロ:ああ、70年ぶりに二人が会いに来てくれて嬉しいよ。モリゾーも俺もこうやって毎日リハビリしてるけど地球温暖化でおれたちもう長く生きられないかも。
サツキ:何言ってんだい。そうならないように私らはやって来たのさ。さあ、モリゾーと一緒にそこに横になっておくれよ。実は私ら姉妹は今あんたら妖精専門のマッサージ師をしてるんだよ。70年前の恩返しさ。メイはモリゾーの方をやっておくれよ。
メイ:あいよ。任せといて。
サツキ:さあ、うつ伏せになっておくれよ。背中をこうやって、さすって、さすって、と。
トトロ:うーっ、効くねえこれ。
モリゾー:ふにゃ、ふにゃ、極楽じゃのう。
サツキ:さすって、さすって・・・
    さすって、さすって・・・

さて、もうみなさん、おわかりですね。これがほんとの、さすって・な・ビリティ・・・。

えー、じぶりーなお婆さんたちの一席でございました(お辞儀)

〈ケミカル亭もりきゅうから一言〉
最後まで読んでいただきありがとうございました。先日ジブリパークのある愛・地球博記念公園に行く機会がありジブリパークをネタにして何か書いてみようと思い立ちました。生まれて初めて書いた落語の台本です。しかしあのサツキちゃんが・・・時の流れって怖いですねえ(笑)。あ、宮崎駿監督ごめんなさい。まあ何はともあれ死ぬなよ、トトロとモリゾー。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?