アナーキーインザCB


大体あの池田にリリックのセンスなんかある訳ない。俺は田村君の提案を却下しようとした。
いつも通り、俺が詞を書けばいい話だ。
でも、このバンドに新しい風を入れたいなんて、田村君が言い出すとは思わなかった。
「最近、マンネリじゃない?世界がどうしたとか君と会えた奇跡とかって歌詞ばっかでさ。池田さん歌詞とか興味ないの?」
田村君は毒舌だ。きついことを平気で言う。池田の歌詞にも平気で駄目出しすることだろう。
最近彼女と別れたとうわさの田村君はスタジオ練習のあいだずっと機嫌が悪かった。
池田は「いいっすよ、再来週までに書いてきます。」なんて一発返事した後にいつも失敗するリフの練習を始めた。
 四年もベースを弾いてるのになぜかあいつはちっともうまくならない。シド・ビシャスに憧れてベースを始め、いつか観客を己のベースで殴るのが夢だなんて、ばかじゃなかろうか。
 練習がたりないからきちんとフレッドを押さえられないし、他の楽器の音をちゃんと聞いて演奏していないから、独りでリズムが乱れている。俺が口を酸っぱくして注意しても、池田はにやにやしてるだけだ。
田村君は中学生からアコースティックギターを習っていてうまいし、やまさんはいろんなバンドをかけもちしているドラマーだし、俺だってリズムギタ-としてバンドに貢献している。
池田だけがいつもへたくそのまんまなのに、一番堂々としているのはどういうことなのか?
紅一点なのは結構だがぜんぜん華がない、池田がバンドにいても。
俺がベースを弾いてスリーピースバンドにする事も考えたが、やっぱり俺は恥ずかしながらギタリストだからギターを弾きたいんだ。
スタジオからの帰り道、俺はでかいベースケースを背負った池田に近づいた。
「無理なら無理っていえよ。この四年間一度も歌詞なんか書いてきたことなかったろ?」
「や、まぁ。詞なら小学生の頃やったことありますし。」
池田は本当はパンクがやりたいのだと思う。
好きなバンドはセックスピストルズだし、それはシドに憧れてるから仕方ないとして俺の作る曲にも興味がないから、まじめに練習をしてこないのだろう。
田村君の言う恋だの愛だのはもう飽きたっていうのにも一理あるかもしれない。そんなバンドは世の中にいくらでもあるから。
池田はどんな詞を書くのだろう、英語詞か?
全く検討がつかない。
「では、再来週~。」よたよたと乱れた足取りで池田は柏の駅を後にした。

で、今日が池田の詞の発表の日。
田村君はにやつきながら「池田さん、書けた?」と聞く。
解ってるくせに。俺は辟易した。
「はいー。じゃあ歌も作ってきたんでうたいますわー。」

ピーナッツのトンネル抜けたら
口元に咲く黄色いお花
モジリアーニ首が伸びだした
深夜愛犬魂を知る
ああ ああ 眠れなくなっちゃうよ
カフェオレにしておきな
Gがかかってマウンテン
パイレーツたちが楽しそう
リトマス試験紙 青色に
カエルは両生類!

田村君は呆気にとられていた。 
俺は痛快、痛快。
池田はいつも想像の上をゆく。

「コレ、オマヌケブギっす。」
「田村さん、リードギターがんばってくださいね。」

池田は嫌みをかまして、マウンテンデューを飲んでいた。


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