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日暮里駅 味噌煮込みうどん

仕事に使用する道具を見に行くついでに、食事をしようと日暮里へ。
遅くに起きて、今朝はやけに寒いなと思い、天気予報をみると雨。
最高気温は一桁台。
ゆっくりと熱いシャワーを浴び、身支度をして家を出たのはお昼をまわったところだった。

暖かい格好をしてきたつもりだったが、
なかなかに体が冷える。
日暮里に着き、お目当ての店に向かって歩きはじめると、駅前のビル街を通り抜ける風が、やたらと堪えた。

5分も歩くと可愛らしい小さな紺の暖簾が目に留まる。
ちょうど1人が通り抜けられる程度に開いたままの自動ドアから中に入ると、小さな店内に騒々しくない程度の先客が座っていた。

先代の女将さんといった感じの方が、厨房の見えるカウンターに案内してくれた。
レインブーツの先まで冷えを感じていたこともあり、品書きを見て、味噌煮込みうどんを注文する。

持ってきていただいた熱いほうじ茶を両手で包み込みながら、店主の動きを目で追う。
さっぱりとした感じで、職人の方によくある神経質な印象はない。
目の前で、スムーズに、丁寧にオーダーをこなしていく。
もうもうと湯気のあがるうどん釜、天ぷら油、紺の半袖シャツが、夏の厨房の猛烈な暑さを想像させた。

15分も経っただろうか、店主自らお盆を運んできてくださり、載っていた土鍋の蓋を取ってくれた。
『エプロンはご利用になりますか?』
店内でエプロンをしている方はいらっしゃらなかったが、白いセーターを着ていたからだろうか。
このお店が繁盛している理由の一部を垣間見たような気がした。

さっさと写真を撮ってカメラをバッグに戻し、木杓子で熱々の出汁をいただく。
喉から身体の中心へと流れて、そこから身体中に流れていくように温まる。
最初に感じたのは赤味噌特有のまろやかな酸味、甘味、旨味、その後に だし そのものの酸味と旨味、薫りが続く。
魚介だしであるのは間違い無いと思うが、いくつかのだしがブレンドされているようで、鯖節が入っていそうなことぐらいしかわからない。
はっきりと言えることは、日本人のDNAを心地よく刺激する美味しさであるということ。
滋味、というのだろうか。
単に美味いだけでなく、身体に染みるような感覚さえ覚える。

目の前にある七味に手を伸ばし、耳掻き一杯ほどの量をつゆに落として、口に運ぶ。
赤味噌のコクに、これがよく合う。

次に小皿で添えられていたネギをぱらり。
ネギの役どころの素晴らしさを、改めて思い知る。

割り箸をわり、うどんを口に運ぶ。
波打ち、ところどころ太さの違う手打ちのそれは、弾力というか、コシというか、がかなり強い。
人によっては硬いと思うかもしれない。
しかしその腰の強さと均一で無い太さが、口の中でちょうど良い具合に跳ね回り、とても楽しい。
且つ、肝心の麺の味と香りも、後からしっかりとついてくる。

具は、舞茸、油揚げ、小松菜、蒲鉾、卵、しばらく麺を食べると鶏もも肉が下から顔を出した。
いくつかの具はだしの役目も担っていて、このもも肉ももちろんだが、舞茸と油揚げの仕事の良さが光る。
それぞれが、出汁に薫りの装飾をも施しているかのようだ。
中央に載っている卵が、良い具合にまわりの出汁を吸って、少し赤みがかっている。
熱々の白身に恐る恐る歯を立てると、トロトロと濃厚な黄身が舌の上に流れ出す。
赤味噌と合わない訳が無い、と心の中で独り言ちた。

土鍋の横に、白米の装われたお茶碗が載っている。
最初、これはサラリーマンへのサービスかと思っていた。
しかし、箸で米をひと口、そこにうどんと出汁を立て続けに流し込むと、この味噌煮込みうどんは『極上のご飯のお供』としての顔を見せた。
合い間に上品に漬けられた白菜の浅漬けをつまみ、口の中がさっぱりとしたところに再びご飯とうどん、そして出汁をほおばる。
この連鎖がタマラナイ。。
日本人である事に、何に向かってか感謝をしながらこの出逢いを楽しんでいるうちに、残った出汁を木杓子で飲み干そうとしている自分に気がついた。

お勘定を済ませ、じんわりと汗ばむほどに温まった身体で外に出ると、
今度は寒風が気持ち良く思えた。

楽しい食事でした。
また伺います。
ごちそうさまでした。

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