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メンバーインタビューVol.13 ラ・ボンヌ・ターブル 中村 和成

C-BlueインタビューVol.13は、「ラ・ボンヌ・ターブル」の中村和成シェフです。“Farm to Table”をモットーに掲げ、信頼を寄せる生産者から届いた食材の魅力を最大限引き出しながらクリエイティブな料理に仕上げて提供しています。一方、コロナ禍での営業停止を機に、レシピのライブ配信や他店のシェフとのトークセッションなど様々な動画をSNSに投稿してきました。その真意とはどこにあるのでしょう? C-Blueの活動がクリエイションに与える影響と共に話を聞きました。

Chefs for the Blueの発足当初から活動に参加している「ラ・ボンヌ・ターブル」の中村和成シェフ。海の現状への理解が深まるにつれ、より多様な魚に目を向けるようになったと言います。特定の魚種にこだわらず使ったことがない魚を仕入れてみたり、信頼する仲卸にお任せでオーダーすることもあるとか。

「魚によっては骨の入り方が複雑だったりして、苦戦することもありますが、それも料理人として大事な経験だと思っています。馴染みの魚はリスクは少ないけど、面白い発見が生まれにくいし、個性も出しづらい。挑戦が必要な魚こそ表現の幅を広げてくれるのではないでしょうか」。

中村さんは冷凍魚も積極的に活用しています。良い芭蕉カジキが揚がったと聞けば、半身を買い取って使いやすい大きさに柵取りし、マイナス30℃で急速冷凍した後、真空保存します。使いたい時に使う分だけ半解凍し、調理しています。

「昔と違って冷凍技術が進化していますから、一番良い状態で冷凍できれば、まったく問題なく使えます。ロスを減らせるのもメリットとして大きいですね。
たしかに解凍することで水分量などに若干の変化はあります。でも、そもそもフランス料理は、鮨のように素材そのものの状態を突き詰めるものではなく、味を重ねていく料理です。水分が失われたことで生まれるテクスチャーを逆に利用することもできます」。

春先には冷凍のクロマグロを使った料理もメニューにのせています。クロマグロはフランス料理では通常あまり使われない魚です。それを扱うようになったのは、やはりChefs for the Blueが主催したキャンペーン「マグロ コレクション!」がきっかけでした。

大西洋クロマグロは、乱獲などが原因で一時、絶滅危惧に瀕していましたが、国際的な資源管理が功を奏し、順調に数を増やしています。延縄(はえなわ)漁業を行う※気仙沼の遠洋漁業会社「臼福本店」も、冷凍前の迅速かつ丁寧な下処理、電子タグでの個体管理や詳細にわたる漁獲報告など、大西洋クロマグロの資源管理や品質を高めるための取り組みを徹底して行ってきました。キャンペーンではそのマグロを使った料理を、都内8軒のレストランで提供しました。

「期間限定の取り組みでしたが、僕の店ではそのままグランドメニューにのせました。クロマグロは山菜の苦味や柑橘との相性が良く、春になると毎年使いたくなるんですよね」。

大西洋クロマグロを定期的に使うことにしたのは、サステナブルであることだけが理由ではないと言います。
一番に考えるのは、お客様に喜んでもらうことです。その引き出しを増やすために勉強会に参加したり、日頃からアンテナを高く張って、いろいろな情報を得るようにしています。サステナブルであることは、僕にとって目的というより、クリエイションのきっかけといえるかもしれません。
一方で、世の中や時代が求める料理を作っていきたいとも思っています。お客様だけでなく、スタッフ、生産者、地球環境……料理に関わるすべての人やものに対して良いことをしていきたいし、その責任があると考えています」。

臼福本店の水揚げを見学した際、マグロの内臓が大量に廃棄されているという現実を知った中村さん。そこに価値をつけられないかと、現在、商品開発を進めています。

「世界的にたんぱく質が不足していると言われる中で、今まで捨てていたものを見直すことが大事だと思っています。昔は脂が多すぎて捨てられていたトロのように、価値がつけばみんな喜んで使うようになりますよね。
その価値を多くの人に知ってもらうために、もっと発信力をつけていきたい。良い商品ができても、自社で販売しているだけではニッチなもので終わってしまい、何のアクションにもなりません。まったく異なる価値観の人に伝わってこそ意味があると思うんです。それができるのがSNS。世界の数億人を相手に発信できますから」。

コロナ禍をきっかけに地道に発信を続けてきたYouTubeの登録者数は約4万人。動画再生回数は最も多いもので180万回を超えています。

多くの人に自分の声が届くだけじゃありません。発信力が高まると、仲間がどんどん増えて、やれることも広がっていく。足し算が掛け算になるんです」。アイデアをアクションにつなげたい。そのために、中村さんは動画を回し続けます。

※ 延縄漁業・・・100m~150㎞ほどの幹縄に釣り針をつけた数百~数千本の枝縄をつけて海に流す。狙った魚種がピンポイントで釣れるため漁獲量をコントロールしやすく、身に傷がつきにくい。血抜きや神経締めなど、船上ですぐに処理できるため鮮度も維持しやすい。


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