カルフォルニア再訪に新商品発売。次のステージを描き始める|C.S. STORY 2015-16
3回目でようやく創業パーティーができた
2015年6月4日にSHIBUYA CHEESE STANDは、創業3周年を迎えました。この日の夜は、2周年の時にはできなかったパーティを、普段お世話になっている生産者さんや業者さん、そして同じマンションの方々を招待し、ささやかながら開くことができました。
配達などで顔を合わせても挨拶しかできなかったり、お店にきていただいても、なかなかゆっくり話せずにいる方が多く、周年パーティをするならそういった方と少しでもお話しできるようにしたいね、スタッフと話したこともあって、ごく身近な方々をお呼びしました。
人間でいえば3歳。女の子ならはじめての七五三の年、ようやく一人で歩きはじめることができたのかな、というのが当時の実感です。
そしてこの日からまた、挑戦の日々が始まります。
チーズの品質が安定してきたことに手ごたえ
2014年3月10日に放映された日本テレビ系《月曜から夜ふかし》でCHEESE STANDを取り上げていただいてから2年も経っていたのですが、おかげさまで平日の夜も満席、2回転以上するような忙しい毎日を過ごしていました。
また、自宅用で楽しんでいただく以外にも「チーズを手土産にする」というお客さまも増えて、雑誌でも取り上げていただけるようになりました。「手土産」というのは、自分たちではまったく考えていなかった利用シーンで、「そういう利用もあるのか」と感心したのを覚えています。
チーズ作りについては、おいしいものが作れるようになってきたと自分たちでも感じるようになったのは、この頃からでした。
クオリティが上がっただけでなく、安定してきたというのが大きな成長だと思っています。作っていて迷わなくなったんです。もちろん今考えるとまだまだなレベルなのですが、いろいろな工房を見学してきたことを自分のチーズに反映することもできていたと思います。
チーズ作りの基本は、「時間とph、温度の管理」だと僕は思っています。
それを自分で考えて少しずつ試していく。もちろん商品を作りながらなので、一気には変えらませんから(失敗すると売り物にならないので)、ちょこっとずつ変えてというように試行錯誤していく日々です。
チーズ作りは、じつは一つのことを少し変えるだけで、仕上がりが大きく変わってしまうことが多いんです。
たとえばカードのカットを大きくすると、カードの中にホエイが残ってしまう。そうすると目指している伸び方やテクスチャーがガラリと変わってしまうんです。それは、自分の目指している地点にたどり着く方法が無限にあるということでもあるのですが。ちょっと変えるとすごく変ってしまうチーズ作り。奥が深いです。
この頃は、長年製造をしてくれていたスタッフがお店を出すために退社し、僕がメインで製造をしていた時期です。おかげさまで製造数があがっているなかで大変な時期でした。
そんな状況もあって、製造のパッキングの仕事をパートさんにお願いしようと募集告知をSNSに投稿しました。うえやまとちさんの『クッキングパパ』を文字った「パッキングママ」の募集です。
そのときに応募してくれたのが、現在もパートでパッキングと& CHEESE STANDに立ってくれている大石結子さんでした。今は、製造場所が& CHEESE STANDに併設されていますが、当時は SHIBUYA CHEESE STANDの中で作っていました。その当時のことを知る唯一のスタッフで、僕も助けてもらい続けています。
スタッフを連れてサンフランシスコ研修旅行
7月13日から16日まで店を休みにし、短い期間でしたが社員研修旅行でサンフランシスコに行ってきました。
サンフランシスコは、20代の中頃、名古屋のイタリアンに勤務していた時代に社員研修旅行で訪れた地です。現在でもCHEESE STANDが目指している「地産地消」「食材を生かす」「食材に真摯である」といったことは、言葉としてではなく真の体験として理解し、感銘を受けた場所です。
そのことをCHEESE STANDのスタッフにも体験してもらい価値観を共有したくて研修先にしました。長らく渋谷店を支えてくれていたキッチンスタッフのしずかちゃんを連れていくことができました。
現地の朝に到着し、サンフランシスコの郊外のバークレーに直行。夜に予約していた「CHEZ PANISSE」に待ちきれなくてランチに飛び込みで入りました。
翌2日目は、「Bakesale Betty」や「Cheese Board Pizza」。3日目は「Tartine Bakery」と人気のお店を食べ歩きしました。
もちろん食べ歩き以外にも、今回の研修のもう一つ目的でもある産地訪問もしてきましたよ(笑)。食に関心が高いサンフランシスコの生産者さんがどういったスタンスでモノを作り、どんな想いで続けているのかを実際に聞いてみたかったのです。
まず伺ったのが、日本でも人気の高いジャムを作る「ジューン・テイラー」でした。1990年にジューンさんが設立したブランドで、フルーツ菓子と保存食を丁寧に手づくりしています。
ジューンさんとは「ランドスケーププロダクツ」が行っていたイベントで何度かお会いしたことがありました。そのときに「いつか行くね」と話していたので、その約束を果たすことができました。
サンフランシスコから車で1時間ほど、ワインの産地のソノマ近くにある「アンダンテファーム」というチーズ工房を見学することもできました。
500頭ほどのヤギを飼っていて、搾った乳からチーズを作っています。チーズを製造するのはスヤン・スキャンランさんです。
キッチンスタッフのしずかちゃんは、帰国してからさっそくニンジンの葉を使ったサンドウィッチを作ったりして、サンフランシスコでの体験がいい方向に出ていたように感じたのは嬉しかったことです。一緒に行けて本当によかったと思っています。
新商品開発「スフォリアテッラ」に
「モッツァレラバーガー」
4年目には、新商品をたくさん作りました。なかでも思い出深いのは、11月から販売を開始した「スフォリアテッラ」です。
イタリア語で"ひだを何枚も重ねた"という意味をもつナポリの伝統の焼き菓子で、生地の中にはリコッタとオレンジピール、シナモンが入っています。リコッタをたっぷり使えるのはチーズ屋ならでは。生地はサックサク、中はしっとりしていて「リッチ・リコッタ スフォリアテッラ」という商品名で販売をしました。
スフォリアテッラは、妻の千鶴が2005年くらいにイタリアに滞在していたときに現地で習ったものでした。ずっと作りたいといっていたのをついに商品化することができました。
人気商品だったのですが、3年ほど前に生地を作っていたメーカーが製造を中止したことで作れなくなったのは残念ですね。
現在も& CHEESE STANDで販売している「出来たてモッツァレラバーガー」が完成したのもこの年でした。
もともとは、2016年3月19日と20日に国連大学で開かれた「第8回 青山パン祭り-Wonder of fermentation-」に出店する際の限定メニューとして考えたもの。パン屋さんが出店するパン祭りにチーズ屋が出店するので、パン好きな方にも響く商品を作ろうと開発しました。
バンズでチーズを挟むのではなく、モッツァレラでパンをはさむという逆転の発想。サクサクにベイクされたパンとモッツァレラのキュキュっとした食感、ほどよく塩味の効いた生ハム、ジューシーで甘みのあるトマト、そしてルッコラ。丸かじりした瞬間、モッツァレラのミルクが溢れ出します。
このあと「出来たてモッツァレラバーガー」は、CHEESE STANDが出店する催事で販売されたのち、2018年3月から& CHEESE STANDのレギュラーメニューになります。
大きな工房への移転を考え始める
創業4年目は、ブランドの認知も広がっただけでなく、スタッフも成長し、チームとして成熟していました。売り上げが上がるだけでなく、新しい商品も開発できたりと、順調に成長していたと思っています。
一方で、卸事業が2年目ぐらいで店舗の売上を抜くと事業計画に書いていたものの、この当時はまだまだ遠くおよばなかったのも事実です(これは7年目になってようやく達成します)。
ひとつの要因は、製造場所のキャパシティーの問題。一度に作れる量に限りがありました。オンラインショップを充実させたいとも考えていましたし、何よりも4年間で多くの人に出会い、つながりができてきたことでやりたいことがどんどんあふれていました。
在庫や備品を置く場所も必要です。そういったアイディアを実現するためにも、直面した物理的な問題を解決するため2016年4月頃から大きな製造場所への移転を考え、物件を探し始めます。
いよいよ工房にショップを併設した新店舗「& CHEESE STAND」が誕生することになるわけです(このお話は、次回に)。
そういった意味では、創業4年目はCHEESE STANDとしての第1章が終わり、次の第2章へと向かう時期だったといえるかもしれません。
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語り=藤川真至
文・構成=江六前一郎
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