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100層のミルクレープを紹介した雑誌が1970年代に存在した|100層のミルクレープの実態とそれが生まれた理由

かなざわ

ミルクレープが好きで時々食べるのですが、20層を超えるミルクレープを見ることはほとんどありません。

しかし1979年に出版された雑誌のなかで、今では考えられない驚くべきミルクレープが紹介されたことがあります。100枚のクレープを使った100層のミルクレープです。

女性誌が紹介した100層のミルクレープ

今では考えられない100層のミルクレープを紹介したのは、1979年4月1日刊行の『MORE』(集英社)という雑誌です。本誌は20代~30代の女性を対象にしたファッション誌です。現在でもそうですが、ファッション誌は流行りの食べ物と、それが食べられる店やレシピを紹介することがあります。『MORE』1979年4月1日号で紹介されたのが、当時流行っていたクレープと、クレープを使った料理のレシピで、その1つとして紹介されたのが100枚のクレープを使ったミルクレープだったのです。

ミルクレープの"ミル"は、"1000"を意味します。ミルクレープは直訳すれば「1000のクレープ」といった意味になりますが、あくまでものの例えです。実際に1000枚のクレープ生地を使ったミルクレープは存在しません。前述のとおりだいたい20枚以下です。しかし1979年の『MORE』は、100枚のミルクレープという、1000のクレープに挑戦した形跡が見られる、ミルクレープを紹介したのです。しかもおふざけではありません。真面目にです。

実際の記事では次のように説明されています。

1000枚のクレープという意味のミル・クレープ。ここでは100枚にしましたが、もちろん何枚重ねても構いません。

『MORE』(1979年4月1日号、集英社)

ひとまず100枚にしたがもっと重ねても大丈夫ですよ、余裕があったら1000枚で挑戦してみてくださいね! といった雰囲気が感じられます。

具体的なレシピも掲載されています。

■材料(15人分) 甘いクレープ100枚 カスタードクリーム<強力粉25グラム コーンスターチ25グラム 牛乳4カップ 砂糖160グラム 卵黄6コ ブランデー大さじ2 バニラエッセンス少々> はちみつ適宜 ラム酒大さじ3 粉糖少々

『MORE』(1979年4月1日号、集英社)

「甘いクレープ100枚」という記載が確かにあります。おもしろ記事ではありません。実用的な料理のレシピを紹介するページです。つまり本気で作らせるつもりなのです。

またレシピは15人前です。15人前のケーキなんて誰がつくるんだとツッコミたくなりますが、その秘密は後述します。

本誌には、100枚のミルクレープの写真もしっかり掲載されています。見たことがない高さのミルクレープです。確認したい方は、国会図書館などで実際の雑誌をご覧になってみてください。

100層のミルクレープは当時流行ったホームパーティ用か?

それにしても、なぜ100層のミルクレープという、今の感覚では考えられないようなレシピが紹介されたのでしょうか。

察するにこのレシピは、当時流行っていたホームパーティ用に提案されたレシピだったのではないでしょうか。

『小林カツ代と栗原はるみ―料理研究家とその時代』(阿古真里、新潮社)では1970年代から1980年代のホームパーティの流行について述べています。

国民の九割が中流意識を持った安定成長期、文学や百科事典などの全集をそろえることが流行った。命が脅かされる戦争、急激な変化を伴う高度成長期を経て、人々は教養や文化で心を満たそうとした。料理のシリーズ本も教養として受け入れられた。  
このころ、主婦たちが憧れたのがホームパーティである。

『小林カツ代と栗原はるみ―料理研究家とその時代』(阿古真里、新潮社)

高度経済成長を経て、郊外に移り住んだ家族が憧れたのがホームパーティでした。1979年にはホームパーティで作るための本格的な西洋料理のレシピをまとめた本として『パーティをしませんか』(入江麻木鎌倉書房)が出版されています。さらに当時注目されたテレビドラマ『金曜日の妻たちⅢ』でも、ホームパーティをするシーンが多かった、そう本書は述べています。70年代、80年代はホームパーティをする家庭が多かった時代なのです。

100層のミルクレープを紹介した『MORE』は、20代~30代の女性をターゲットにした雑誌です。1979年当時の女性の平均初婚年齢は、25.2歳となっており(https://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/whitepaper/measures/w-2004/html_h/html/g3350000.html)、この頃の『MORE』の読者のなかには、家族を持ち、休日は近所の友達とホームパーティをする人も多くいた可能性があります。

100層のミルクレープは、家族を持つ女性が、ホームパーティで提供する気の利いた料理の1つとして、紹介されたのではないでしょうか。前述のとおり100層のミルクレープは15人分となっていますが、ホームパーティなら15人分も納得できます。作る手間に関しても、普段のお菓子作りには大変ですが、月に一度のパーティーであれば、できるような気がしなくもありません。

今とは少し違う70年代後半のミルクレープ

ちなみにですが、70年代は、現在とは少し違ったミルクレープが多かったように思います。

たとえば1976年6月5日刊行の『an an』にもミルクレープのレシピが掲載されているのですが、こちらは現在一般的なミルクレープの上から、いちごソースをかけている他、最後に生のいちごをトッピングしています。またクレープとクレープの間に使うのは生クリームではなく、バタークリームであり、さらにブランデーを使用しています。ファッション誌に掲載されるお菓子のレシピにしては手間がかかります。一方で、現在のミルクレープに比べると、いちごをトッピングするあたりはだいぶミルフィーユに近い食べ物であったことがわかります。

1976年9月20日刊行の『non no』にもミルクレープのレシピが紹介されています。こちらはクレープとクレープの間に煮たりんごを挟み、完成したミルクレープを最後にオーブンで焼いています。クリームは、オーブンで焼いたミルクレープの上から最後にトッピングとしてかける程度です。クレープに挟むのはりんごのコンポートであり、さらにオーブンで焼くという、現在とはだいぶ違ったミルクレープが紹介されていました。

70年代後半は今のようにミルクレープが一般的ではなかった時代だと考えられます。また使える材料や調理器具、家電のスペックも大きく違ったでしょう。そのなかで各々、思い思いのミルクレープに挑戦し、色々なミルクレープが生まれたのではないでしょうか。


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