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日本語授業記録:考えを言語化する練習

2021/7/※ 大学にて
日本語の授業。「読む」と「書く」にポイントを置いた授業。

前期の授業は、この本の一部を使いながら進めてきた。


この本は、あるテーマについて1分間の短い時間、あるフレームに沿って考えることで、深い哲学的思考を技化しようとするもの。Eテレにも登場する小川仁志先生のご著書だし、思考法は、まさに本質看取のやり方なので、この「1分間思考法」を授業で真似させてもらうことにした。
哲学的思考というと、小難しそうだが、やり方は至ってシンプル。

1イメージする
2疑う(「違うかも?」と思うだけでもいい)
3視点を変える
4再構成する
5言語化する

しかし、日本語の授業で哲学を扱うなんて、特別な技術や知識が必要では?
そう思われるかもしれないが…私はこの授業を「哲学」とせず、あくまで「日本語」の授業と考え、「自分の考えを言語化する練習」と位置づけて実施している。そのため、付け焼き刃の哲学の知識を駆使することなど、無駄な抵抗は何もしていない。
ただ、上記5つのステップを踏んだ後、この本に書かれた同じテーマのページを読んでもらっている。一般書なので小難しい理屈はなく、学生たちにも評判がいい。

この本にあるテーマは上記Amazonのリンク先に詳しいが、その中からこれまで以下のテーマを扱い、読んでもらった。

・仕事とは?  ハンナ・アーレント(労働:仕事:活動)
・大学とは?  ヘーゲル(無用性の有用性)
・学歴とは?  ガリー・ガッティング(リベラルアーツ)
・遊びとは?  エリック・ホッファー(遊びの本質)

1テーマにつき4ページが割り当てられ、そのうち2ページは、ほぼ読むところがないので、実質読むのは2ページ。だから、JLPTのN2レベル程度の学習者が参加している私の担当クラスでは、20分もあれば読むことができる。
ただ読んでもらうだけでもいいが、この内容を読んだ上で意見をまとめてもらうため、多少構造化させた読みが必要。そこで、読んで欲しいポイントを外さないように内容確認問題を渡し、それにも答えてもらった。

ここまでは淡々と一人で思考を巡らせる作業が続き、自分の考えもそれを表す言葉も洗練させる場がない。…そう、対話の場がないのだ。

そこで、2段階の対話の場を設ける。
1つは、黒板を使ってのクラス全員での意見シェア。もう1つは、グループディスカッションだ。

まずは、黒板を使っての意見シェア。
ここでは、1つだけルールを設ける。それは、黒板に書く際、「『自分の意見に近い意見』の近くに書く」こと。
それによって、板書を読まねば書けないという状況になる。読んだ上で、自分の意見を書くので、自分の意見を板書するまでに、そして、自分が板書した後の様子を見ながらクラス全員の意見がシェアできる。
学生たちが板書する際、自席から板書を読みながら前に出てくる。その表情を見ていると、頼もしい気持ちにすらなる。

今週は、「幸福とは?」をテーマに取り上げ、活動をしてもらった。そこで出来上がった板書のシェアは、以下の写真のようになる。
似た意見がきちんと分類されているとは言い難いが、ある程度似た意見が近くに書かれている。

<1つめのクラスの板書>

画像1

<2つめのクラスの板書>

画像2

こうやって、学生たちの中に随分テーマが染み込んできたところで、グループディスカッション。TAさんにグループ分けをしてもらって、TAさんにも仲間に加わってもらいながら、ディスカッションを行う。

各自にテーマが染み込んでいるものの、話し合いで行うことは「話し」「合う」ことである。「自分の意見を言いっぱなし」「人の意見には興味がない」のでは、考えも独善的なままで終わるし日本語も磨かれないので、様子を見ながら、その話し合いが進むように仕向けていく。
最近は、仕向けるくらいでは物足りないと感じていて、話し合いが活性化するような何かをグループの中に投げ込めないかと狙いながら、机間巡視をしている。
……最近は、物事を促進させる『ファシリテーター』という役割よりも、どんどん前進させる『ジェネレーター』という役割の方が好きだ。個人的に。

それなりに全グループの話し合いが活発化したら、板書の日本語を添削に行く。添削していると、学生から「先生、その言い方でいいかなぁ」と声がかかったりする。まぁ、こうやって声をかけてくる学生の表現は、ほぼほぼ正しい。

グループディスカッションが程々にできたら、自分の意見をまとめさせる。Googleフォームで提出できるよう、QRコードを見せ、学生にアクセスしてもらう。Googleフォームの悲しいところは、書き込んだ文字数がカウントされないところ。だから、学生たちは、Wordなどで原稿を書き文字数を確認したうえで、Googleフォームにコピペして提出してくる。

今回も、ほぼ全員の学生が提出。
読み物に出てきた哲学者・エピクロスの『快楽』に共鳴している人もいれば、「エピクロスの考えはもっともだけど…」という人もいる。

その中で、私がもっとも感銘を受けた学生の意見

幸せになりたいのであれば、まず人生に感謝することは大事だと考える。単純であっても忘れがちものだ。(原文ママ)

ああ、学生の文章には、いつも、本当に大切なものが眠っている……

また来週の授業も楽しみだ。次のテーマは……。

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