First Love【片倉小十郎】-天下統一 恋の乱- ✎

天下統一 恋の乱の二次小説です

ヒロインの名前は『陽菜』です





「お断りします」

俺、片倉小十郎は姉である片倉喜多に向かってはっきりと断りの言葉を告げた。

姉は「やっぱりね」と呟き、ため息をつく。

「姉さんだって俺が縁談を持ちかけられたら断る事くらいわかっているでしょう。俺は陽菜と…」

「小十郎!」

突然姉が大きな声を出し、俺にまっすぐに向き合った。

「私も陽菜ちゃんがお嫁に来てくれたらって…ずっと思ってる。それを楽しみにしている。でもね…『好き』という感情だけでは幸せにはなれないし、幸せにしてあげられないのよ」

「………」

俺が黙りこくると部屋の中は静寂に包まれた。

「俺は…」

言葉を発すると同時に、襖の向こうで衣擦れの音が響く。

(まさか…)

慌てて襖を開けると、そこには陽菜が立ち尽くしていた。

「ごめんなさい…立ち聞きするつもりは…」  

陽菜は泣くのを我慢するような顔をして、その場を立ち去った。

「陽菜!」

後を追おうとすると、姉が俺を制止した。

「私が行くわ」






部屋で一人膝を抱え泣いていると、襖の向こうに人の気配を感じた。

「陽菜ちゃん…良いかしら」

「喜多さん…」

遠慮がちに喜多さんが部屋に入ってくる。

喜多さんはうずくまる私に「ごめんなさい」と呟いた。

「そんな…喜多さんは悪くない…」

「さっき小十郎に言ったのは全部本心よ。陽菜ちゃんが小十郎の元に嫁いでくれたらどんなに良いだろうって思う。でもそのせいで陽菜ちゃんが酷く苦労したり、悲しい目に合うんじないかって…怖くなる気持ちもあるの」

喜多さんは泣き笑いの顔で、涙で濡れる私の頬に指を走らせる。

「私はね、小十郎より陽菜ちゃんの気持ちを優先したいわ」

喜多さんは優しく私に微笑みかける。

「だって、小十郎に負けないくらい陽菜ちゃんが大好きだもの」

私は喜多さんに縋りつき、大声を上げて泣いた。





縁談を断ってから数日、陽菜の様子がおかしい。

何か考え事をしているようで、心此処にあらずといった感じだ。

さらに縁談の話を聞かれたせいで気まずい事もあり、俺達はまともに話も出来ていない状態だった。

(縁談は断ったとはっきり告げるか…)

縁側で一人煙管を味わっていると、誰かが近づく気配がした。

「小十郎様、甘味とお茶はいかがですか?」

「陽菜…」

陽菜は何時も通りの笑を浮かべている。

「あぁ、いただこうか。隣に座りなさい」

「はい」

菓子と茶を口にしている間、陽菜は黙って俺の様子を眺めている。

「どうした?」

「小十郎様にお話があります」

「…言いなさい」

「私、京に帰ります」

突然の告白に後ろ頭を殴られたような衝撃を受ける。

「縁談なら…」

「縁談の事は関係ありません」

陽菜は真っ直ぐに俺に向き合い、言葉を続ける。

「ずっと…小十郎様の為に出来ることを考えていました。私は小十郎様の中にある『義』を貫いて欲しいと考えました。だから小十郎様をお側で支えたいと思いました。でも…私じゃ駄目なんです」

陽菜は涙を流しながら言葉を続ける。

「想う気持ちが強くても…私が単なる小料理屋の娘である事は覆せない。私が武家の娘になることはない。好きだなんて綺麗ごとだけでは、小十郎様を生涯お支えする事は出来ないんです」

何も言い返せなかった。

いや…「そんな事はない」と言いたかった。

だが、これが俺達の現実で、陽菜の言う事はあまりにも正論過ぎて、言葉が出なかった。

「だからさよならします」

目に涙を溜めながら微笑む陽菜が愛おし過ぎて、俺はただ黙ってその小さな体を抱きしめた。




      
その日の夜はお互いを激しく求めあった。

これから訪れる『別れ』の隙間を埋め尽くすように。

触れるたびに愛おしさが募る。

口づけると陽菜が小さく笑った。

「どうした?」

「ふふっ…小十郎様の口づけは何時も苦いんです。煙草草の香り」

「嫌だったか?」

「いいえ」

陽菜は少し身を起こして、俺に口づける。

その仕草が堪らなく愛おしくて、俺はさらに強く抱きしめた。

「小十郎様が私を愛してくれた証を、たくさん刻んでください。離れても…貴方を思い出せるように」





陽菜が奥州を立って一週間ほど経ったある日の夜、縁側で一人佇んでいると意外な客人が現れた。

「よぉ、湿気た面してるな」

「景親伯父さん…」

「邪魔するぞ」

伯父は徳利と猪口を手にしながら、俺の隣に座った。

「何の用ですか?」

「ん?可愛い甥っ子が失恋したって聞いてな…泣いてるんじゃないかって思って馳せ参じたわけよ」

「子供じゃあるまいし…泣くわけがないでしょう」

伯父は俺の隣で勝手に晩酌を始める。

「まぁ、人生は出会いと別れの連続だからな。その中で一回くらい泣いたって罰は当たらねぇよ」

「早くも酔ってるんですか?」

苛立ちを感じながら、伯父の手から猪口を奪う。

中の酒を一気に煽ると、喉に焼けつくような刺激が走った。

「おぃおぃ、やけ酒とはいただけねぇな」

伯父は面白いものを見たように笑いながら、俺の手の中の猪口に酒を注ぐ。

「まぁ、初恋ってもんは男も女も忘れられないって言うからな」

「誰が初恋ですか?」

「お前がだよ」

「子供じゃあるまいし」

苛立ちを隠すように伯父に背を向ける。

「初恋だろ?今までの中で、あんなに本気で好きになったおなごは居ないだろうよ」

「………」

「惜しかったなぁ。俺だったら二人手を繋いで逃避行したな」

「またそんないい加減な事を…」

俺は震える肩を静めるのが精一杯だった。

「おぃおぃ、泣いてんのか?」

「そんなわけ無いでしょう!」

振り向き、目に入った伯父の姿が何故かぼやけて見える。

「やっぱり泣いてんじゃねぇか」

笑う伯父の顔がさらに歪んで見える。

「人払いしてっから…好きなだけ泣け。見てるのは俺と空の月くらいだからよ」

「………」

俺はみっともなく伯父に縋りつき、声を押し殺した。






いくつかの季節が巡り、うららかな春の日に俺は祝言を上げた。

身支度をしながらソワソワしていると、勢い良く襖が開き成実が部屋に乗り込んできた。

「まだ身支度終わらないのか?花嫁はとっくに支度が済んでんぞ」

「何故お前がそれを知っている」

「何故って、さっき会ってきた…たたた!小十郎!脇腹抓るな!」

「勝手に人の嫁の部屋に入るなど…良い度胸だな!」

「ほらほら小十郎、嫁さんがさっきからお前が迎えに来るのを待ちかねてるぞ!」

「景親伯父さんも見たんですか?」

「そりゃ、可愛い甥の嫁さんだからな。早くに挨拶しないと失礼だろう」

二人をジロリと睨みつけたが、二人ともどこ吹く風といった感じだ。

俺は足早に彼女の居る部屋へと向かった。

「小十郎様!」

そこには白無垢に包まれた、美しい花嫁がいた。

立ち上がろうとする彼女の手を慌てて取った。

「小十郎様」

「ん?どうした?」

彼女は満面の笑を浮かべ、俺に告げた。

「幸せになりましょう。二人で」

俺の手を小さな手が握りめる。

「あぁ、必ず」

俺はその小さな手を強く握りしめた。










ー ෆ

YouTubeに小十郎様の動画をアップした時「久しぶりにSS書きたいなぁ」と思いコネ(ノ)`ω´(ヾ)コネしていました

頭に浮かぶ場面を繋ぎ合わせ、コネ(ノ)`ω´(ヾ)コネすること数日

久しぶりのSSだったので

『書ける?(゚Д゚;≡;゚д゚)?私書ける?』

と心配しましたが、なんとか形にはなりました(笑)

いくつかボツった場面があります

京に帰る陽菜を送り出す時に雨が降り出し、雨に濡れながらしょぼんってなる小十郎さまとか

成実さまが「それなら俺が陽菜を奪う!」って言うとか

ボツった代わりに景親さんの出番ヽ(•̀ω•́ )ゝ

喜多さんも結構好き乁( ˙ω˙ 乁)しゃー

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