約束 ✎
※新選組最後の局長とも言われている、相馬主計の妻であるマツ目線のお話です
相馬主計目線のお話はこちら↓https://note.com/gentle_iris231/n/nd54e26a22cbb
秋に咲く彼岸花という花は、赤い花色が火を連想させるのか、自らが持つ毒のせいなのか、不吉な印象を持つ人が多い。
死人花、地獄花、剃刀花…別名もおどろおどろしいものばかり。
彼岸花を家に持ち込むと火事になる、彼岸花を摘むと手が腐ると言う人までいる。
でも、私はそうは思わない。
花色の赤は情熱を感じさせ、放射線状のその姿は美しく目に映る。
一輪の彼岸花を手に家へ戻ると旦那様が…
いえ、『新選組局長 相馬主計』が血溜まりの中で朽ち果てていた。
私は酷く驚き動揺し、涙が止まらなくなった。
しかし、私はあまり悲しみに捕らわれないようにと努めた。
何故なら、旦那様が漸く大切な人との『約束を果たせた』のだとわかっていたから。
『…曼珠沙華』
一面に咲く赤い花を見て、旦那様は呟いた。
誰の事を考えていたのか、すぐにわかった。
少し悔しい思いがした。
どんなに傍に居ても、この人の心はあの方の事で埋め尽くされているからだ。
旦那様は自ら赤い花を曼珠沙華(マンジュシャゲ)と呼んでおきながら『彼岸花で十分だろう』と言い直した。
「せっかく土方様から曼珠沙華という呼び名を教えていただいたのですから、曼珠沙華の方が良いではありませんか」
他愛のない会話をしながら、私は燃えるような赤い花へと手を伸ばした。
「ご存知ですか?彼岸花の花言葉」
旦那様は当然のように『俺が知っているわけがなかろう』と不機嫌そうに答えた。
「ふふっ…そうですよね。彼岸花の花言葉は『再会』『また会う日を楽しみに』なんですよ。意外でしょ?」
旦那様の顔つきが変わった。
「『再会』か…。会いに行くべきなのだろうな…この俺から」
あぁこの人は
「まだ何方にかお会い出来てないのですか?」
きっと往ってしまう
「あぁ…肝心な人を忘れていた」
あの人と同じ場所へと
「そう…ですか…。思い出せて良かったですね」
私は溢れそうな涙を堪え、精一杯の笑顔を返した。
旦那様は『帰るぞ』と言い、私の手を握りしめた。
私は不意打ちのような行為に驚いたが、『別によかろう。俺達は夫婦なのだからな』という旦那様の言葉に頷き、軽く手を握り返した。
「マツ、お前は俺が正しいと思うか?」
「はい。旦那様のお考えや行動は何時も正しいと思っています」
「何故言い切れる?」
「私達は夫婦ですから。私は旦那様の全てが正しいと思っています」
「そうか」
「はい」
「ならば…俺の真実はお前の胸にだけ仕舞っておいてくれ。お前だけが理解してくれればそれで良い」
「はい」
深い悲しみを感じながらも、私は誇らしさを感じていた。
この人を理解出来るのは、今はもう私しか居ないのだと。
「旦那様…漸く土方様とのお約束が果たせたのですね」
骸にになった旦那様の冷たくなった頬に触れた。
「大丈夫ですよ。私も旦那さまとのお約束は必ず果たしてみせます。だからどうぞ安らかにお眠りください」
見開いたままの瞼を撫ぜてそっと閉じた。
「旦那様、彼岸花にはあの時にお教えした以外の花言葉もあるんですよ。それは…」
【想う人はあなた一人】
私の想う人は貴方一人。
貴方が全てを抱えて往ったように、私も全てを抱えてこの身を散らす。
貴方との約束を果たす為に。
ꔛ𖤐
アメブロに掲載していたSS(別名義)を再録いたしました
このお話は結構お気に入りなんです
相馬がマツに問いかけるシーン、手を握るシーン
それを『天上の花 -彼岸花-』に書き足してみたのですがしっくり行かず、そのまま別掲載といたしました
相馬主計は何も語らず往ってしまい、妻であるマツも何も語らず、静かに最後を迎えたようです
私の中の相馬のイメージは『武士』と言うより『軍人』のように堅物な感じです
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