見出し画像

【漫画小批評】「ドカ食いダイスキ! もちづきさん」ストレスをオーバーフローさせるドカ食いについて

最近、とある漫画がネットミーム的に盛り上がっている。それが「ドカ食いダイスキ! もちづきさん」である。タイトル通り、ご飯をたくさん食べる女性を主人公とした漫画なのだが、どうも様子がおかしい。

「ドカ食いダイスキ! もちづきさん」の迫真のエピソードサムネイル

1話目こそ、物腰柔らかそうなもちづきさんのサムネイルが配置されているのだが、2話目からは劇画タッチ、まるで生死の境目にいるかのような迫真の表情のサムネイルが配置されている。

実際に中身を読んでみると、彼女が食と向き合うとき、劇中の言葉を借りるのならば「獲物を狙う獣の目」に切り替わる。彼女にとって、食は狩りそのものであり、食にありつけないとなると時空が歪みはじめ死が漂う。ただの食べることが好きな人の話ではないことは第1話から明らかとなる。

本作が公開された当時、過食症などといった病気をエンターテイメントにした問題作なのではと物議を醸していたような気がするが、個人的にはストレス社会の心理構造をフィクションとして捉えた傑作のように感じた。それは回を追うごとに確信に変わっていった。決定的に、本作の方向性を定めたのは7月5日に公開された第4話にあるだろう。

残業で22:30を回る職場、食に飢えつつ、誘惑を紛らわすもちづきさん。しかし、誘惑の甘い蜜に負け、コンビニで「『ある』のがいけない!!!『ある』のがいけない!!!!」と呪文を唱えながら食べ物をカゴに放り込んでいく。彼女が職場に戻ると、先輩の倉橋が営業回りから帰社する。

エナジードリンクをたくさん買い込んでいる彼は、彼女に「取引先の時間外勤務が多いせいでこっちも毎日それに合わせなきゃいけなくてね…お得意様だから有難いんだけどね…今日も23時まで残りだし俺このままずっと深夜帰りの生活続けるのかなって…」と心のモヤモヤを吐露する。一方、彼女は明るく励ましながらも食への欲望をぐっと抑えて仕事を終わらせる。

もちづきさんの会社は、回を重ねるごとにブラック企業であることが明らかとなる。入社数年目の新人事務が夜遅くまで残ることが常習化している。だが、我々が想像するようなパワハラが横行するタイプではなく、慢性的に残業が重なり社員にストレスを与えているようなブラック企業であることが判明する。

それを踏まえての第4話は興味深い。倉橋はもちづきさんにモヤモヤを吐き出すことにより心の負荷を和らげている。しかしながら、もちづきさんは仕事で抱えている辛さを吐き出すことはせず、カラ元気なように振る舞う。彼女の心のモヤモヤはどこで吐き出されるのだろうか?それは「ドカ食い」である。彼女は暴飲暴食を行う。つまり食べる行為により、身体に負荷を与え、ストレスをオーバーフローさせることでモヤモヤを消滅させるのである。この行為は、ストレスを溜め込むことになるので、早く解消したい想いが高まる。それが殺気立った空気感に繋がっているといえる。

そのため、食を扱った作品ながらも食に対して恐怖を抱くようなタッチとなっている。もちづきさんは食べることが好きというよりかはストレス社会に飲み込まれて、モヤモヤを消滅させるためのドカ食いに依存している、現代社会の闇を象徴しているといえるのだ。

一般的に我々はストレスをSNSや友人、家族などに吐き出して発散させている。それができない者の悲しき嚥下を描いた傑作として今後も注目していきたい。

映画ブログ『チェ・ブンブンのティーマ』の管理人です。よろしければサポートよろしくお願いします。謎の映画探しの資金として活用させていただきます。