AI×編集者コミュで「映画におけるAI」について話した件
おはようございます、チェ・ブンブンです。
転職して1ヶ月が経ちました。
新しい会社は180度働き方が変わって混沌としてきましたが、大分社内の動きが分かるようになってきました。とはいえ、慣れた時が失敗や自分の弱点が仕事に影響するので、ひとつずつ確実にこなして会社に貢献していければなと考えている。
さて、澤山モッツァレラさん( @diceK_sawayama )主催で社外の方を巻き込んだイベント「AI×編集者コミュ」が開催された。近年、MidjourneyやChatGPTなどといったAIを使ったアプリケーションやサービスが多数現れている。世の中的にも「AIを使いたい!」といった声が上がるようにはなってきたが、いまいち使い方が分からなかったりする。『名探偵コナン 黒鉄の魚影(サブマリン)』に出てくる黒の組織ですらAIを使いこなせず、重要な拠点を破壊しようとしたぐらいそう簡単に使いこなせるものではないのだ。
自分自身も、映画ライターやVTuberとして活動しており、一時期はChatGPTを使って記事編集や動画の脚本を作ろうと試みたものの、結局瞬時に記事や動画の内容をイメージできてしまう私にとって、むしろ作業効率が落ちるものであった。唯一、効果的だったのは世界遺産検定マイスター試験の語句説明問題の解答をChatGPTにブラッシュアップしてもらったぐらいである。
さて、そんなこともあり知見が得られるだろうと参加してみた。AIを使って小説を書いている人や、極限まで作業効率化を図っている人など有識者の話を伺えて面白かった。特に「AIには『〜しないでください』と命令するよりも『〜が低下する可能性がある』みたいな言い方をした方が良い」という話は慧眼であった。
折角なので私も映画の有識者として「映画におけるAI」について話した。以下は、実際に扱った映画や資料である。
①her/世界でひとつの彼女(2013,スパイク・ジョーンズ)
10年ぐらい前に人工知能型OSにガチ恋してしまう男を描いた『her 世界でひとつの彼女』がアカデミー賞脚本賞を受賞した。公開当時はSF映画としてのイメージが強かったのだが、今時代はそれを超えようとしている。
昨今、VTuberが社会的地位を確立しようとしており、企業とのタイアップだけでなくラジオやテレビへの露出も増えてきた。そんな中で、AIを使ったVTuber運営が模索されている。そう聞くと、機械音声が応答するようなイメージを持つかもしれないが、AITuberりんなの配信を覗くと、まるで女子高生が応答しているかのような自然さがあった。『her 世界でひとつの彼女』では立ち絵が存在しなかったので、時代がSFを超えてしまっている例だろう。
一方で、ある映画の存在が私の中に浮かんだ。
②AIに潜む偏見: 人工知能における公平とは(2020,シャリニィ・カンティア)
それが『AIに潜む偏見: 人工知能における公平とは』だ。これはNetflixで配信されているAIに関する事例がまとめられたドキュメンタリーである。本作によれば、MicrosoftがかつてAIボット「Tay」を開発したのだが、だんだんと人種差別的な言葉を発するようになり停止させた事例があるとのこと。
この事件は2016年のことなので、制御のアリゴリズムは改善されているとは思う。実際にAITuberりんなの配信を確認すると安定稼働していた。しかし、本当に暴走しないのだろうか?どうやって制御しているのかは気になった。実際にMogLive記事「AIとVTuberの現在地 – AITuberとは何か? –」によればNeuro-samaがTwitch配信中にホロコースに関する発言をしてBANを食らった過去があるとのこと。
このドキュメンタリーでは他にも興味深い知見が得られる。MITで研究をする黒人女性のエンジニアは顔認証システムがうまく機能しない原因を調査していた。すると、AIにも白人女性は認識しやすいが、黒人女性になると認識しにくいといった偏りが存在することに気づくのである。AIは確かにシステム化されたものであり、論理的に物事を判断する。一方で、人間社会の複製でもある。そのため、人間社会にある偏見がAIに投影されてしまう状況があると映画は語っており興味深く感じた。
③チェチェンへようこそ -ゲイの粛清-(2020,デヴィッド・フランス)
顔とAIといえば、『チェチェンへようこそ -ゲイの粛清-』を思い浮かべる。本作はチェチェンに蔓延する同性愛者に対する暴力から救助する組織の活動を追ったドキュメンタリーだ。映画を観ると、同性愛者が組織と共に脱出を図る緊張感あるやりとりが映し出されているのだが、実はフェイスダブル(ディープフェイク)技術が使われているのである。当事者の安全性を確保するために、AIによって存在しない顔を対象者にはめ込んでいるのだ。これがよくできており、言われなければ見破れないものとなっている。実際にとある映画関係者は海外で本作を観ていたが、フェイスダブルの件は私のツイートで知ったと語っているぐらいに精巧なものとなっていた。
④コングレス未来学会議(2013,アリ・フォルマン)
最後に、今観た方が良いAIに関する映画について書く。それは『コングレス未来学会議』だ。本作は『惑星ソラリス』の原作者スタニスワフ・レムの小説「泰平ヨンの未来学会議」を映画化したものだ。しかし、映画は原作とはかなり違った内容となっており、また難解な作品なことから公開当時は困惑する声も少なくなかった。実際に自分も最初観た時はよく分からない映画に感じた。
俳優ロビン・ライトが映画会社に呼び出されて、全身スキャンを取り映画としてアバターを使用する交渉が行われる。それに承諾し、演技をする必要がなくなった彼女の20年後の世界をアニメと実写を織り交ぜて描く。ここではメタバースやVTuberのようなもの、映像コンテンツビジネスと社会との関係など今まさに社会に浸透しようとしているものが次々と提示されている。つまり、今再評価するタイミングにある作品なのだ。
そして何と言っても、今アメリカでは俳優がストライキを起こしている。その議論のひとつとしてAIによって仕事が奪われる、ダンピングされてしまうのではといったものがあるのだ。恐ろしいことに、Netflixはそれに対してAIに資金投入することで解決しようとしている。人間は扱いが面倒だからAIを使った方が合理的だということなのだろうか。まさしく『コングレス未来学会議』で描かれたことが現実になりつつあるので、今観るべき映画のひとつといえよう。
【参考資料】
■Microsoft、人工知能Tayの無作法を謝罪 「脆弱性を修正して再挑戦したい」(ITmedia,2016/3/26,佐藤由紀子)
■AIとVTuberの現在地 – AITuberとは何か? –(MoguLive,2023/5/16,すら)
■AITuberが辿ってきた道筋と、その先にある未来 「紡ネン」や「ごらんげ」を手がけるパイオニアたちが語り合う(Real Soundテック,2023/4/23,文・取材=中村拓海、構成=村上麗奈)
■複数スタジオがAIへの投資を倍増:Netflixが年棒90万ドルでAIプロダクトマネージャーを募集(Branc,2023/7/27,Hollywood)
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