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オシャレになりたい!ピーナッツくん Season1感想

VTuberにしてヒップホップアーティストとしても知られている「ピーナッツくん」。2022年はライブに行くほどハマったアーティストであるが、その原点であるアニメ作品について全く触れていなかったので夏休みを利用してSeason1全82話を観ました。

印象としては、数分に圧縮した「ツイン・ピークス」がひたすら殴りつけてくるものであった。1,2分の中に個性的なキャラクターが暴れまわり、協調するわけでもなく激しくぶつかり合う。

ぽんぽこさんともちひよこさんがディズニーランドのゲームで盛り上がる動画のコメントで「ある男が後に甲賀のウォルト・ディズニーになることを彼女たちはまだ知らない」とあったが、実際に作られた世界はどちらかといえば「イルミネーション」だろう。

『ミニオンズ』シリーズや『シング』2部作、『ペット』2部作を観ると、共感とは遠いキャラクターがぶつかり合いながらわちゃわちゃする。アニメにおけるキャラクターの多様性を信じた作りをしているのだが、「オシャレになりたい!ピーナッツくん」からもその印象が見受けられる。

そして、これらの異様な物語を妹と一緒に作りあげ、キズナアイさんやおめがシスターズ、デカキンさんを巻き込み、マルチバースを生み出していたことに衝撃を受けた。と同時に、「オシャレになりたい!ピーナッツくん」があるからこそ、ぽこピーにとってヴァーチャルと現実との境界線はもはやないに等しく、シームレスに動画にあった空間を行き来しながらエンターテイメントを作り上げているんだなと感じた。

今回は全82話ある内の印象的なエピソードをいくつか取り上げる。

第5話「デニムくん」

下半身をキャラクター化した「デニムくん」初登場回。

「デニムくん」といえば米津玄師「Lemon」と「Flamingo」を甲高い声で歌う気持ち悪いキャラクターとして知られているが、その原点をみると魅力的なキャラクター性に気付かされる。

ピーナッツくんに「ボクの下半身、殴ってくれないか」と懇願するデニムくん。なぜかと訊くとダメージ加工をしたいらしい。しかし、殴ってもダメージ加工にならない。接吻しようと迫るデニムくんにピーナッツくんが「嫌いだよ」と暴言を吐くと、その心理的痛みによってダメージジーンズになる。

物理的ではなく、心理的ダメージでジーンズが加工されていくアイデアは面白いギミックといえよう。

第7話「ファインダー越しの私の世界」

Instagramの表象として素晴らしい回。ピーナッツくんとチャンチョがきのこカメラちゃんのスタンド攻撃によってインスタグラムの世界に閉じ込められてしまう回。

かつてカメラは魂を吸い取るものだと恐れられていたが、その古典的発想と「ジョジョの奇妙な冒険」を引用し、ふたりをInstagramに幽閉する。Instagramはフォトジェニックな写真を指先でめくっていくタイプのSNSだ。その現実の行為と連動するようにふたりは写真から写真へと移動していきながら出口を探す。フォトジェニックな写真もInstagramの写真として均一の概念となり、人々が概念の中に囚われてしまっている様子を風刺した作品といえる。

番外編 Soy Sauce -「DAYZ」

ピーナッツくんの作曲センスの光が初期のアニメから既に感じられる。Perfumeを意識したSoy Sauceによるダンス。シンクロしないダンスの切れ味にユーモアを忍ばせつつ、超絶技巧の歌詞を妹に歌わせる。

大豆とDaysをかける。発酵して納豆のような存在になり、365日情熱を燃やしながら醤油になっていく過程を軽妙な旋律で歌う。

「思いの弾丸打ち込みます あなたの顔面狙い定め 365 DAYS」

このフレーズカッコよくてヘビロテしたくなる。ぽんぽこさんの、まだ垢抜けない歌声がこれまたデビュー曲としての初々しさがあって良い。それにしてもよく、兄の奇妙な作詞・作曲に付き合う妹像、想像しただけで面白いですね。私も妹いますが、こんなに付き合ってはくれません。

第29話「コバルト田中探検隊シリーズ!密林に潜む謎に包まれた野人モンゴル勇夫を追え!」

「すくすく!ピーナッツくん」の定番ナゾナゾコーナーの原点。

コバルト田中がピーナッツくんと密林を旅していたら、ナゾナゾを出すモンゴル勇夫と対峙することになる作品。ピーナッツくんの世界がNHKの教育番組を意識していることもあり、第四の壁を破ってコバルト田中が視聴者に語りかけてくる演出となっている。

動画視聴は、一方的に提示される世界を受け入れる体験であるが、観客参加型にすることで一方通行から双方向のエンターテイメントへと押し上げようとしている。これは後の「すくすく!ピーナッツくん」でも活かされており、VTuber配信特有の双方向のコミュニケーションの実現へと繋がっている。既にVTuberとしての道は始まっていたことが分かる動画といえる。

第59話「デカキン現る!」

デカキンさん出演回。VTuberは、遠隔にいながらもDiscordを繋いで同じ空間で対話をしているような親密さを作り出せる。これは創作にも活かされており、遠隔で収録したであろうデカキンさんの音声を使ってアニメが作られている。別にリアルで会わなくても共同作品が作れることを証明した回だ。

そして何よりも、デカキンさんの脂肪からお尻を大量に生み出してできることのアイデア。一発芸を発展させたオチが秀逸でピーナッツくんの非凡さを感じ取ることができる。

第69話「戦え!ピーナッツくん」

まさしく「マルチバース・オブ・マッドネス」な世界だ。

ピーナッツ星にいらすとやが侵食されていく中、3Dになることで奥行きが使えるようになり、いらすとやの攻撃から逃れられることに気づく。仲間が次々といらすとやに変換されていく中、ピーナッツくんは3Dの肉体を手にし立ち向かう。

『スパイダーマン:スパイダーバース』で異なる質感の画が共存する世界が認知される前に作られたこのアッセンブル。アニメの自由さを最大限に活かしていて、なおかつ大手会社だったら企画書段階で潰されそうな内容だけに個人勢の強みが染み込む傑作であった。

第76話「ジャニーズに入りたい.BEANS」

おめがシスターズの動画で使われる音源に歌詞をつけたこのMVは、サブキャラクターの個が主張し合いながらも一つの曲として成立させる曲芸をみせている。いつもは気持ち悪さ全開なデニムくんが大人しく、でも高音担当として存在感を魅せる。コバルト田中が重厚音のビートを刻み、音に豊かさを与えるところが魅力的だ。

そして、「絶対エースの自覚ありチャンチョです」といいながらも、合いの手担当という外しのギャグが秀逸だ。

ピーナッツくんが副音声で、ギャグは型から外れた時の面白さが重要だと語っていたが、アイドルグループのメインヴォーカルが細い声で脇役の存在感を魅せる外しは考え抜かれたものであることが分かる。

最後に

ピーナッツくんはおめがシスターズとのコラボ動画で、競合アニメチャンネルが乱立したから戦略的撤退をしたと語っている。

今では、ぽんぽこさんと現実空間とヴァーチャルを行き来したVTuberの顔とヒップホップアーティストとしての顔を持ち、唯一無二な存在となっている。ブルーオーシャンに飛び出した。しかしながら、彼の生み出したキャラクターたちを見捨てることはない。ライブではレオタードブタがヤギ・ハイレグと共に着ぐるみ姿で現出し、フロアを盛り上げていた。自分の世界を大切にしながら、視聴者に面白い世界を魅せていくピーナッツくん。私は尊敬します。

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