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俺とNirvana

音楽を聴き漁る日々が続く中、好きなアーティストのルーツを辿りたくなるのは性と言ってもいいのではないか。
例に漏れず、俺も高校2年か3年になる頃にはそういった深掘りをしたく情報を漁っていた。
当時はとにかくART-SCHOOLを敬愛していたし、何よりTHE BACK HORNの1stアルバムも、グランジと称される音楽、ニルヴァーナの名に辿り着くのは当然と言えるだろう。

そんなある日、クラスメイトのツノダ君に
「ニルヴァーナって知ってる?」と聞いた。

と言うのも、彼が洋楽に造詣が深いという事を聞いていた。
確かマリリンマンソンやクイーンが好きだったはずだ。自分もなかなかコアな方だと思っていたのだけど、彼が洋楽を聴いていると知って、畑は違えど昔の音楽を知っているのがカッコいいと勝手に思っていた。

そんな彼が、まあニルヴァーナと言うビックタイトルを知らないわけないだろうと思っていたこともあったし、あわよくばオススメも教えてもらおうと思い声を掛けたのだった。

「知ってるよ」
そこは流石、言った様子で続けて問う。
「オススメの曲とかあったら教えて欲しい!」
「うーん…正直そこまで聴いてなくて、あ、でも…ベスト盤のCDは持ってる。貸そうか?」

「え、マジで?聴いてみたいかも」
「明日持ってくるね」

次の日、彼に借りたニルヴァーナのCDは、真っ黒の背景にニルヴァーナのロゴが入った、シンプルなジャケットのCDだった。

少し重厚な雰囲気を纏ったそのCDは、意識して初めて聴くCDとしてちょうどいい刺激を与えてくれた。

俺は洋楽に馴染みがなかった。
いや、馴染みが全くないわけではないのだけど、例えば演奏やジャンルについて言えばそれをルーツとする音楽は無意識化を含めたくさん聴いていただろうし、メロディックな、語彙を削ってしまえば「なんとなくカッコいい」モノがそれまで俺の持っていた洋楽に対する印象だった。

一曲目に流れるこの曲の何が鳴ってるかわからない楽器の音。
ヴァースの少し裏返ったような声の使い方、多分日本語だったらめちゃくちゃダサいんじゃないかとさえ思う力の抜けたヴォーカルが、ブリッジからコーラスかけての衝動的なシャウト。

多分、普通ニルヴァーナと言えば「Smells likes teen spirit」何だろうけど、この出会い方がCDの醍醐味と言っても過言ではないと思う。
それまで何となく耳にしたことのあった、「なんとなくカッコいい」と感じていたものとは違う音楽で、俺の中の洋楽探求心スイッチが入った瞬間だった。

***

それから俺は、自分でもアルバムを借りる事にした。いつものTSUTAYAだ。
ここのチョイスもはっきり言って謎なのだけど、彼らの1枚目の「Bleach」を俺はレンタルした。

先に言っておくとそれから「NEVERMIND」や「IN UTERO」などを借りる事はなかった。
この最初に借りたベスト盤と曲がある程度被っていたからなのか…はたまた、それはこの「Bleach」のせいなのかは分からない。

とにもかくにも「Bleach」というアルバムは俺のニルヴァーナ観をまた少し捻じ曲げる。
正直言って何がイイかあまり分からなかった。
幾分豪華だったベスト盤に入った楽曲に比べると曲構成はかなりシンプル。音も必要最小限のような、それでいてめちゃくちゃにシャウトをしている。
音楽で理解できない状況に陥るのも初めての体験だった。
何というかポップスが恋愛ソングを歌ってて好きじゃないみたいなものとは違って、限りなく好きな部類なのに理を解することができない苦しさがあった。

歌詞の和訳を調べたり、楽器チューニングがかなり低い音で設定されていたり。
意訳されているものもあれば、直訳に近い形のものもあって、とりあえず調べられるだけ調べた。
このアルバムはそういう訳もあってか、俺のニルヴァーナ上で一番聴いたアルバムであり、探求心が遺憾なく発揮されたきっかけだった。

そしてその頃、ちょうど英語の授業があったのだけど、冬休み中にある課題が出された。
「好きな英語の曲の歌詞を和訳して提出する。曲は自由。そして提出時、1サビまで前で歌ってもらう」
なかなかユニークな課題だなとは思うのだけど、まあ俺は陰キャである。
いくら中学よりかはマシとは言え人前で歌うなんて考えられなかった。

俺はとにかく、その課題は「如何に早く歌い終わるか」が重要になった。
ちなみに歌詞の和訳に関しては、なんでも和訳されたもの丸写しでもいいらしい。偏差値が低い高校でよかった。
この時ニルヴァーナを知っていて助かったとも同時に思った。
楽曲の難しい説明はできないが、1サビ…つまり1コーラスが終わるまで短い楽曲が多い。

俺は選曲作業に入った。第一候補は「Blew」だった。

Bleachからの選曲にしたのは、勿論聴き込んだことによる影響もあるのだけど、Bleachの楽曲は他に聞いていたベスト盤の曲に比べると短い曲も多く、また、ちょっとこの「変わった音楽を聴いているぞアピール」が出来る目論見もあった。恥ずかしがりな癖に印象には残りたいと言う気持ち悪い自己顕示欲である。

何よりこの曲はイントロがおどろおどろしいくらいに低いベースで始まる。そこが最高なんだけど。

ただ和訳を書き写していると、歌詞が余りにも暗い。
暗すぎて怒られるかもしれない。と思ったが、ちょっと強気に直前までこれで行くつもりだった。

だが、歌を聴いてて思った。これ、コーラスだと思っていた部分はブリッジじゃないか説。
そうなると「~You could do anything」まで歌う可能性が出てくる!まずい!

俺はかなり焦って第二候補に挙げていた「About A Girl」に変更した。
この曲はBleachから唯一、ベスト盤にも収録されるようなかなり聴きやすい楽曲。

そして1コーラスは「Blew」より短い。最初からこれにすればよかった。

ま、これを選ばなかった理由はちょっとポップだったから何だけど、もう時間もないし早く終わらせたくて仕方なかったので、適当にネットで拾った和訳を書き写し、いざ授業へ。

あっという間に終わり過ぎて、「え?もう終わり?」「そんな短いなら2番まで行け」なんて声が上がった気もしたが、緊張しすぎて全く覚えていない。

そして面白いのがその授業、録音が残っている。
その授業の先生が歌ったものだ。
ちょっとネットに公開するのは色々と良くないのでやらないけれど、何で録音したのかは全く覚えていない。
後で聴いたら面白いと思ったのだろうか。
ちなみにその先生はボブ・マーリーの「Redemption Song」を歌っていた。これもこの時初めて知ったけれど、10年越しくらいのタイミングで思い出して聴く。いい曲だよね。

***

それから熟読ならぬ熟聴をするより前に他のアーティストの探索に夢中になった為、それから5年くらいその後Bleachより代表的な作品であった「NEVERMIND」も「IN UTERO」も触れないままだったのは思い返すと意外かもしれない。

ただこうやって後の人たちに多大な影響を与えた作品というのは、何にしろパワーがあったのは確か。
最初はそれこそルーツを辿るのが目的だった。
実際彼らの影響を受けたアーティストの楽曲に対しても深みが増すように感じる事もできたし。代表的な例でいえば椎名林檎のギプスの歌詞とか。

もし「Bleach」より前に「NEVERMIND」を先に聞いてしまっていたらここまで影響は受けなかったのかもしれないが、すごく失礼な言い方をすると、俺でも作れそうな曲っていう印象というか、演奏のシンプルさが際立つこのアルバムは自分で作曲を始めるきっかけや考え方に影響したと思う。
形にしてしまうことが大事というか…。

あとこれは動画を見て思ったのだけど、これくらい低い位置で弾くベース、多分影響受けていたんだろうな。何でかわからないけど低い方がカッコいいと思ってたし。

こういうルーツを辿る旅は他にも「ナンバーガール」や「スーパーカー」など他にもあるのだけど、それはまた別の機会に。


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