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俺と凛として時雨

かくして音楽オタクに足を踏み込んでいった俺は、いよいよ音楽に対し様々な欲求が増してくる。
誰も聴いてないような音楽を聴いてみたいと思うようになった。

そうなってくるとネットのサーチ力を上げる他ない。
俺は貪欲に関連アーティストを辿っていき、なんだか不思議なバンド名の彼らに出会った。

ギターがありえんくらい格好良い。
そしてボーカルが気持ち悪いくらい声が高い。
最初はとにかく違和感まみれだった。
一聴しただけでは良さがわからなくて、俺はブラウザバックしてゲーム実況をまた見ていた。

「…でも、ギターとか演奏は好みなんだよな」
ぱっと聴きでも分かるくらい上手かったし、それに呼応するようにドラムも激しかった。
ベースはその雑多な空間をうまく繋ぎとめているように聞こえる。
そして声が二人とも高いので一瞬アレ?と思ったが男女混合のボーカル。
あまりの濃い味に一瞬体がびっくりしただけかもしれない。もう一度聞いてみようと思った。

二度目はそこまでボーカルが気にならない。アレ?むしろ格好いいのでは?
そう思い始めたらそこからは早かった。

MVのあった想像のSecurity、DISCO FLIGHT、Sadistic Summer。
どれも一癖二癖あるし、そのインパクトたるや素晴らしかった。唯一無二とはこういうことを言うのだと思った。
その時既にアルバムが2枚、ミニアルバムが1枚出ていた。十分だ。まとめて聴こう。

#4、Feeling your UFO、Inspiration is DEAD、全部あっという間に好きになった。
そしてアルバムを聴いて初めて出会う楽曲は、このバンドが激しいだけではないということも知った。
この頃、というかこの記事を書く頃は古い順から聴くのが一番変遷を知れると思っていたので、#4には深く影響を受けた。
特にAcousticや傍観。
俺はこの時、「静と動」が曲の中で展開するものが好きだと思った。

この曲は当時の俺の心情に凄く刺さっており、特に意味を深く持たせないタイプの歌詞が多い彼らの楽曲の中では異色と言ってもいいくらい分かりやすいタイプの楽曲。
他の目まぐるしく展開する楽曲に比べたら曲の進行もかなりシンプル。でもだからこそというのがある。

そして凛として時雨はそのバンド名にもインパクトはあるが、そのバンドメンバーの名前も独特(当時)で、TK、345、ピエール中野、と、バンドやってる人は表記を変える事はあれど、実名でやっている人が殆ど、といった印象が強かったので、こういう部分も新時代感があり面白かった。

更に面白いと思ったのは楽曲のタイトル。(※1)
「CRAZY感情STYLE」とか「感覚UFO」とか。何だか言語センスが凄いなと思う。
「O.F.T.」とか小田和正feat.TRFらしいじゃん。何それ?別名おいしいフルーツタルト(※2)
それに曲名にメンバー名を使うところも新しく感じた。
(例:nakano kill you、COOL J(玉筋クールJ太郎)、am3:45、TK in the 夕景など)

(※1後に、影響元の一つと言われているナンバガを聴いてタイトルについては何となく「ああ」とは思うのだが初めて触れたのがこっちだったので。)
(※2何かTKの好きな食べ物かなんかでフルーツタルトが食べたいと言ったかなんかがあり、そこからそういわれていた思い出。)

そしてあっという間に好きになっていた最中、なんとメジャーデビューするらしい。
この頃と言えばメジャーに行って変わってしまったな…みたいなバンドも居る話はよく聞いていたので、正直不安しかなかった。

そして不安とは裏腹にどんどん有名になっていき、アルバムが出るらしい。
おお、おお、おお…何だか初めて聴いた時のような驚きはないが、いいアルバムだ。カッコいい。メジャーデビューシングルが”ドエレーCOOOL”(意訳:17分近い曲)だったのでショートバージョンになっていた。
ただ、この頃からか何か初期の録音との差もあってか、この聴きやすさが逆に違和感になっていく。
めちゃくちゃ難しいことはしてるのは変わんないんだけど…

そして俺はヨコ君(友人)とライブを見に行った。
トキニ雨というイベントでTHE BACK HORNと対バン形式でやっていたため、どちらも楽しめて最高だった。
何だか当時の日記が残っている為胃が痛くなるが、セトリも残っている。意外とjust A momentからは4曲くらいで過去作も多く普通に盛り上がってたと思う。

そして次に見るのは、I was musicのツアーファイナル、さいたまスーパーアリーナ。
ヨコ君と「チケット後ろやなあ」と話していたら、向こうから女の子二人組がやってきた。
『チケット交換してもらえませんか?』
「え?何それ?自分ら後ろの方だけど…」
『実はこの子(隣を指す)がライブ初めてで…』
「なるほどあいわかった!俺らは前の方が楽しいもんな!」「やったぜ!ラッキー!」なんて感じでチケット交換。

何というかこういうことってあるんだなあ。俺はドリンクチケットでアルコールをあおり、ほぼ最前で時雨を見る。
そして新曲I was music、イントロから爆発的に格好良く、らしさ全開で展開する楽曲。

ライブ後、それから「still a Sigure virgin?」が出た。
間違いなく変化を求めていたアルバムではあって、鍵盤の曲や12弦ギター…と色々サウンド面では割と大きな変化だったと思う。

でも、きっと常に鮮烈な印象を与え続けてきたこのバンドは、俺の想像の範疇を越えなくなってきていた。
単純に俺の耳が肥えたのもあると思うし、飽きたのもあると思う。
飽きるのは仕方ない。ただこのバンドは強烈な刺激を与え続けてくれた分、俺が求めるハードルもかなり(自分の勝手だが)上がってしまっていた。

ただ、そうは言っても、このバンドの基本姿勢はずっと変わっていないと思う。

俺は単純にその姿勢にハマらなくなってしまっただけなのだ。
だからこの「時雨処女」と呼ばれるアルバムを最後にほぼ聴かなくなってしまっていた。

俺は彼らの音楽が大好きだった。尋常じゃないくらいハマっていたし、特に最初の3枚は今聞いても痺れるほどカッコいいと感じる。
ただ新しいものをどんどん吸収するうちに、俺の好きは整理整頓されていった。
大きくて漠然とした好きが削られていく。分類されて名前をつけられる。

好きというのは過剰摂取できないようになっていて、それ以上先には進めなかった。
最初の3枚の事を最高の感覚のまま保存しておきたかったのかもしれない。

何だか恋のような話だ。
実際、恋していたのかもしれない。

……まあでも本来、最新を愛すのが、バンドに対するリスペクトやファンとしての姿勢として正しいと思うけど。

これは終わった恋の話。
でも俺は彼らから貰った衝撃を抱えて、今でも大切な記憶として保存している。

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