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妻に内緒にしていること

実は愛人がいるとか、認知した子供がいるとかいうお話ではありません。
かといって、ヘソクリを隠しているとかの類でもありません。

妻と知り合ってから、はや35年ぐらいになります。
正確には覚えていないので「ぐらい」です。


何度目かのデートで、焼き立てパン食べ放題をうりにしているレストランに向かいました。

楽しい会話と共に食事をしていると、
「パンのおかわりは如何ですかぁ?焼き立てのレーズンパンです!」

優しさを演出している私は、店員に声を掛けました。

待ってましたとばかりに、パンを入れた籠を手に私たちのテーブルに駆け寄ってきました。

「おひとつで宜しいですか?」とレディーファーストで、
妻、いや、彼女に声を掛けてきました。

「ごめんなさい。私、レーズン苦手なんです。」

(えっ!そうなの?美味しいのに?)

「そうですか、残念です。」

店員がいなくなってから、

「私、レーズンって何が美味しいのか理解できない。本当に好きな人っているのかしら。」

「だよねぇ、食感もグニュゥって感じで、気持ち悪いよね」

「そうそう!甘さも、なんだか不自然なのよ」

「だよねぇ、色もなんだか良くないし、食欲わかないよね」

「でしょでしょ!あなたもレーズン嫌いで良かったわぁ

・・・


実は、嫌いではない…

でも、あんなに魅力的な笑顔で言われると…

レーズン入りの食パンをカリっと焼き上げたトースト、クルミとあわせたライ麦系のパンとか最高じゃないですか!

レーズン入りのパウンドケーキも、六花亭のレーズンバターサンドも、ハーゲンダッツのラムレーズも大好き、いや、大好きだったんです。

もう、35年食べていません…

離婚するか死別するまで食べることがないでしょう。

ん?一人で隠れて食べればって?
そんな背徳行為は、気の弱い私にはできません。

死ぬまでレーズン嫌いを押し通し、
死ぬ間際に「じ、じ、じつは、レーズンが大好きだったんだ」
と告白して驚かしてやろうかと、

私の目の前で、お土産の六花亭レーズンバターサンドを楽しそうに食っている女子社員を眺めながら妄想しております。


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